第6話 『昼食』
僕達が自己紹介をし終わり、刑事が現場を見に行って戻り次第こう言い全員を座らせた。
「そんじゃあ、今から会議を始める」
「宿泊者は全員参加、職員は女将を除き全員聞きに専念してくれ」
そう言うと刑事はメモを取り出して今の状況を整理する。
「この雷鳴館にて殺人事件が起きた、被害者は陽光 充。そして彼を殺害した人物はこの近くに潜んでおり、もしかしたらこの中の誰かである可能性が高い」
「そのため、派手な行動ができないように戻り次第会議を始めさせてもらった。事前に伝えると犯人が逃げる可能性が出てくるからな」
「もっともこの大雨じゃ逃げる場所はないがな」
続けて。
「先程現場を確認してきた、遺体の損傷具合から数時間前に殺されたようだ。そして遺体に刺した痕跡がいくつも見つかった、恐らく凶器は刃物」
そこまで刑事が言い切ると質問は?と聞いてきたので、刺した痕について聞く。
「あの、刺した痕って何処にありました?」
僕がそう聞くと刑事はメモを開いてこう答える。
「腹部と太腿だな」
ふむ、僕はありがとうございますと言って座る。
次に拓海が質問をした。
「部屋はどうなっていました?やっぱり強盗とかですか?でしたら部屋へ貴重品を取りに行きたいのですが」
そう聞くと刑事は首を横に振って答える。
「何か盗られてた痕跡は無かった、だから安心してもいい。それに後で取りに着いて行こう、今後はここで寝泊まりをしよう」
刑事がそう言い女将へと顔を向け安否を確かめる、女将は勿論と言った顔で頷く。
その後刑事が他はと聞くが誰も手を上げなかったので逆にこちらは気になる事は有ったか?と聞く、そこで僕はずっと気になっていたことを話す。
「そこの大学生4人組は知っているけど、僕はとあるお爺さんに車に乗せてもらってここまで来ました」
「目的地は同じだったので一緒に来たのですが僕は先に旅館に入り受付をしました」
「名前は分かりませんでしたが軽トラックに乗っていて、気の優しい人でした」
そう言うと女将さんは少し考え込んだ後にゆっくりと話す。
「いえ、昨日は狭間様が来た後、この館には誰も来ておりません。しかし、そのお爺さんとやらは察しがつきます」
女将は続けてこう話す、
「そのお爺さんとやらは多分坂安 宗弘さん、この村では猟師をやっている人です」
「数年前に妻と息子家族を事故で亡くしてから暗い様子でしたが最近はすっかり立ち直り。私も嬉しく思っていたのですが、まさか殺人なんて」
そう言う女将の顔は俄には信じられないと言った顔が滲み出ている。
しかし猟師か、それなら山を歩いても疲れにくい理由も分かる。
しかし、コツとかが有ってもあの時間歩き続けれるのは至難の業だろう。
僕が関心していると刑事はとりあえずの結論をつけた。
「とりあえず暫定ではあるが犯人は坂安 宗弘氏となった、もしかしたら刃物以外に猟銃などを持っている可能性が出てきた。各自単独行動は控え、最低2人で行動するように」
そこまで言うと一旦貴重品や荷物などを取るために2階へと移動する。
その道中モナが話しかけてくる。
「ねぇねぇユウちゃん。あの人が犯人だったなんて信じられる?私はまだ信じられてない」
「でもユウちゃん気をつけてね、もしあの人が犯人なら近づかずに離れてね」
そう言うモナは悲しそうな顔をしてそう言う、またそれには同調を誘うような言葉も無く。ただ自分の言葉を聞いて欲しかっただけのようだった。
モナってリュウが絡んでなければ結構まともなんだ。
そんな事を考えているとモナは自分の部屋に入り荷物を取りに行く。
僕もそんなモナに少しの別れを告げて一度自室に入り荷物を纏める。
居たのは本当に数時間程度でしかないが愛着が少し湧いて離れるのが辛くなるが死ぬよりマシと気持ちを固めて部屋をでる。
「バイバイ、僕の5万もした部屋」
僕は部屋に最後の別れを告げて刑事の元へ帰ってきた。
その後ぞろぞろと宿泊客達は次第にやってきた。モナと姉御が最後に部屋を出てこちらに走ってやってきた、それを見た刑事と僕らは大広間へと向かった。
大広間に着くとそこには食事が出ていた、どうやら気づかない間に昼になっていたようだ。
僕らがやってくると女将は頭を下げて席へと座らせる。
「こんな事になってしまいましたがお客様の為に腕を振るわせていただきました、私共々これが最後の晩餐となるかも知れないのでより一層」
そう言う女将の言う通り食卓に並んだ料理は非常に豪勢であり、三ツ星和食レストランに出てくる物のように美味しそうだった。
僕達はその食事に目を奪われ、見かけ上は落ち着いているが迅速にかつ的確に胃へと送り込む。
その味は女将の言う通り確かであり、その美味しさは。
「うめぇぇぇえ」
そんな声がモナから漏れてくる程である。
モナがこんな声出してんの!?
全員が一勢にモナへと目を向けるがモナはそんな事を一切気にせず食べる。
そんな光景がなんとも可笑しくて。
「ふふ」
ついつい笑みが溢れる、それはモナを除いた他の人も同じなようで所々から笑い声が聞こえる。
「?」
モナは気づいてないのか、そんな僕らを不思議そうな顔で見回す。
それがまたなんとも可笑しくて今度は大きな笑い声が響く。
僕らはきっと助かる、そんな確信をその場の全員が思い浮かべた。
僕達が笑い、楽しかった昼食ももう終わり。これから事態は急変していく。
「今夜は豪勢な夕食にしよう」
儂がそう言うと家族は嬉しそうにする。
「そうだね父さん」
「勿論よ貴方、でも何にします?」
「私はステーキが食べたい!」
「はっはっ、加恋さんは元気だね」
「あぁ」
なんて儂は恵まれた人なんだろう、こんなに幸せな家族を持てる事なんて滅多にない。
儂の大切な家族だ。
しかし食材が昨夜のでは足りないな、少し出かけて採ってこよう。
「恵、儂は少し出かけてこよう。昨夜の食材ではきっと加恋さんが物足りないだろうからね」
儂がそう言うと加恋さんは顔を真っ赤にしてしまった。
儂がそれに少し困ってしまうと息子が加恋さんに助け舟をだす。
「父さんそれは良くないよ、でも沢山採ってきてくれると嬉しいな」
まぁそうか、儂もモラルが足りなかった。加恋さんへの罪滅ぼしのためにも頑張ろう。
「おほほほほ、そうねぇ頑張ってきてくださいね。でも、どちらへ向かわれるのですか?」
「すぐ近くの旅館に食材が沢山有るんだ」
さぁ、家族の為に狩りを始めよう。
今日は特別な日だ、あの日の楽しみをもう一度しよう。家族も喜んでくれる。
肩に愛銃を担ぎ、小屋の扉を開けて旅館へと向かう。
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