第4話 『雷鳴』

「ふぅ」


いい湯だった、山道を歩いて疲弊した体がそんな事を忘れたかのようで実に清々しい。

髪を乾かしたし準備万端。

勿論忘れずにアレを飲むことにしよう。


「瓶の牛乳!」


この為に財布を持っといてきてよかった、ウキウキでお金を入れて牛乳を買う。

それで出てきた牛乳を手に取る。丁寧にラベルを取り、蓋を開けて一気に喉に流し込む。

グッ、グッ


「ぷはぁ〜」


この為に人生生きてる感じするわ、そんぐらい最高。本当にこれ考えた人にノーベル賞与えたいとか下らない事を考えながら暖簾を潜り抜ける。

そこにはもう上がっていたのか2人が待っていた。

僕は2人を待たせた事を謝る。


「ごめんリュウとたっちゃん、予想以上に長引いちゃって」


しかし。


「あ、あぁ。大丈夫だ」


「べ、別に気にしなくていい。寧ろもっと楽しむべきじゃないか?」


なんか2人が此方に目を合わせてくれない。いや、チラチラとこっちを見てはいるが目までは合わせてくれない。


「変な2人だなぁ」


そう呟き僕は1人部屋に戻る。


「なぁ、ユウむっちゃ可愛くね?」


「完全に美少女だな」


2人は風呂上がりのユウに悩殺されていた。




あー、やっぱり部屋は落ち着くなぁ。僕は買ってきたお菓子を頬張りながら今日の事を思い浮かべる。

例えば駅は暑かったとか、後は山道は死ぬ程疲れるとか。

そして今日一番の思い出を思い浮かべる、そこには様々な事を話してくれたお爺さんの顔を思い出す。

しかし、そういえばおかしい。


「あの人の名前を知らない、それにここで一度も見てない」


あの人は僕に対して名前を名乗っていない、それだけならまだ名乗り忘れたのだと思えるのだが。

そういえばあの人普通に山道を荷物持って行けてたよな、普通あれだけの荷物を持って山道を行くと絶対に途中でバテるよな。老人であれば特に。

それになんであの山道を迷いなく進めたんだ?いや、それは昔から通ってたで説明がつくか。

しかしだ、何故あのお爺さんをこの旅館で見かけないのだろうか。それにあの荷物はなんだったのだろうか。

僕の記憶が確かで有れば一晩中置いても大丈夫だって言ってたからきっといる筈、でも一度も見ていない。

裏方にいると言えば分かるけど。

あれ?そういえばあのお爺さん、僕とリュウと一緒に来なかったんだろう。


「ちょっと、考えるのやめよう」


これ以上考えると良くない感じがしたので思考をやめて今日はもう寝る事にした。


「お休みなさい」


そう言って僕は布団を被って寝た。



次の日、僕は大きな雷鳴によって飛び起きる。


「えっ!えっ!?なに!?」


流石に昨日のように寝惚けてられない、とりあえず受付に行って女将さんに聞いてこよう。

僕は走って向かっていった。



僕は走って女将さんの下は向かい、そして聞いたのだが。


「確かに聞いておりましたが、外は曇り一つない晴れ模様ですよ?」


僕はそんなわけ無いと言おうとしたが。


「確かに、そうらしいね」


窓の外からは雲一つない快晴だ、きっと運動会が盛り上がるだろう。そんな呑気な事も考えれる程に。

とりあえずもう既に朝食らしいので大広間へと向かう。

大広間に着くともうあの4人は食べ始めていたようで顔を見合わせたが。


「あー、誰かと勘違いしてません?」


と、姉御がボケてきた。朝は弱い方なのかどうやらわかっていないようだ。


「僕だよ僕、ユウだよ。朝だからって気が抜けてない?」



そう言うとはっ!?という顔になる。これも二度目だな、とりあえず朝食をさっさと食べ切ろう。

ふぅ、とりあえず昨日と同じで食べた後にお茶を飲んで休む。

やはりこの時間は大切だな。

僕は昨日と同じで人を数えてみる、しかし。


「あれ?」


数が合わない、女将さんとかも入れて11人。1人足りない。

もう食い終わって帰ったのかと思い姉御に聞く。


「ねぇ姉御?僕がくる以前に出ていった人っている?」


僕がそう聞くと姉御はハッとして答えてくれる。


「あ、あぁ。アタシ達が最初に大広間ついたけど、ユウが来てからもその前も出ていった人はまだ0人だよ」


「それ本当?昨日と比べて1人少ない気がするけど」


僕がそう聞き返すと4人はそういえばと、気づく。

そしてモナがあの人じゃ無い?と言ってくる。


「確か私の隣の部屋にいる大声出す怖い人じゃない?私あの人とっても苦手!」


そう言ってリュウに抱きつく、凄いなこのコンボ。言ってから抱きつくのにノールックだったぞ。

とりあえず僕の隣の人が来てないらしいのは確定した、寝坊でもしたのかな?

まぁそんな事どうでもいいか。


「教えてくれてありがとうね。それじゃあ僕そろそろ行くからまたね〜」

そう言って手のひらをひらひらとさせながら自室へと戻る。

戻る途中、2階の部屋の例の男性が泊まっている部屋の扉がおかしい事になってる事に気づく。


「あれ?鍵が、壊されてる?」

朝は急いで気づかなかったがどうやら鍵穴が何かで壊されているようだ。

扉はそれによって少し開いており外から血が見える、しかも中からは死臭が漂っている。

僕はその異変と中の惨状に気づく、吐きたくなる衝動を抑えて女将さんに急いで知らせた。


「女将さん!扉が!2階に上がってすぐの扉が壊されてる!」


それを聞いた女将さんは血相を変えて。


「ありがとうございます!職員で確認をして参ります!」


そう言って走り去って行った。

僕はもう2階へと戻る気が出てこなくて一度みんなのいる大広間へと行くことにした。

僕が大広間に入ると拓海はニヤニヤしながら近づいてきて。


「なんだユウ、忘れ物でもしたか?」


と言ってきた。僕は何も言う気が起きず無言で椅子に座った。

それを見た4人は僕のその姿から何か起きたと気づき、リュウがそれについて言及してくる。


「どうしたんだ、さっきからひどい顔色をしている。体調でも悪いのか?」


そう言うリュウに対して僕は無言で首を横に振り、推測ではあるがほぼ当たっているだろう事を言う。


「人が、人が死んでた」


僕のその一言に4人だけでなく、その大広間にいた全員が此方を向いて見てくる。

拓海が嘘だろ?と言う前に僕のその雰囲気から真実である事を察した。


僕の旅行はこれから血生臭いものに変わっていく。

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