3-D 亡霊
「エリザベス」
ブロンドの髪とその顔立ちはエリザベス・ヒルに違いなかった。どのようにして生き返ったというのか全く分からなかった。もしくは法で禁じられているクローンなのかとポールは考えていた。
「ポール・スローン」
そしてそのエリザベスのような女の目は虹彩だけではなく目玉の全体が混濁した青のような色になっていた。そして背中には下の工場で作られていたようなムカデが着けられていた。
「君は——エリザベスを殺しただろう」
鳥肌が立つとともに目の前の女がエリザベスではないことが分かった。舌で下唇を撫でてニヤリと笑って黒い刃のナイフを取り出した。
「私の名前は知らな——」
女が言葉を言い終わらないうちにリアが発砲した。女は〈梟〉のように銃弾を避けた。ポールもトランス状態でなければその動きを捉えることができなかっただろう。
「戻って〈軸〉に報告するべきよ」
「ぼくも同意見だ」
女はすさまじい速度で距離を詰めポールの喉を狙ってナイフを突き立てた。即座に反応して後ろへと下がり、ポールはダガーを取り出した。
「お前はここで死ね」
女が言葉を言い終わって息を吸う瞬間、筋肉の反応速度が鈍るためポールはそこを狙ってダガーを振るった。三日月のような斬撃を女はギリギリのところで躱すとバランスを崩した。流れるようにダガーを再び振るうと女の左腕を掠めた。血がぽたぽたとガラスの床に垂れた。リアがその隙を逃さず弾丸を放った。女は全て躱したが、リアの弾丸はその行動を制限した。弾丸がガラスに当たって割れる音がした。
ポールは後ずさりながら、隙が生まれるのを狙っていた。リアの射撃が女の行動を制限しているためか有利に戦いが進んでいた。トンネルがガラスからコンクリートに切り替わる位置で攻勢をかけてやろうと考え、女はあと一歩でそれに達しようとしていた。そして、その一歩を詰めて放った女の斬撃を下に払い落としてその勢いのまま回転して腹を蹴り上げた。肋骨が折れる感触が靴越しに感じた。女は痛みを感じたのか腹の少し上を抑えながら着地した。その先に再びリアが発砲した。その弾丸もすべて避けた。ポールはダガーをガラスの床に一直線に力を込めて叩きつけるとガラスのトンネルはダガーを刺した場所から崩れ始めた。精神拡張ドラックの影響で強化された肉体から放たれた力は人間が出せるものではない。
崩れ始めた床から逃れようと跳躍した女はギリギリのところでコンクリートのトンネルの端に指を掛けた。その女を見下ろすようにリアがトンネルの端に立って銃口を向けた。弾丸を二発射出するとそれを女は掛かっている指を離して体を捻って避けると下の工場ラインへと何かを叫びながら落ちていった。
「彼女は何者?」
「ぼくにも全く分からない。少し前に殺したエリザベス・ヒルと瓜二つだったことしか」
「あの混濁とした青い目は少し〈梟〉とは違っていたようだけど」
「それでもあれが二人いれば殺されていた」
「そうね。あれほどに強力な兵士がこの工場で生産されていることは〈軸〉に報告する必要がある」
「報告をしてもあれが千を超える数がいるのなら今の正規軍を持たない〈軸〉では到底かなわない戦力だ」
二人はトンネルを足早に抜けて地上へと出た。
「追ってはいないみたい」
ヒンサレイの地下のどれだけが工場になっているのか、またはそれ以上の広さがあるのか分からないままにただただ〈軸〉の崩壊が迫ってきていることを予感させた。それと同時にこの発見こそが予知夢に見たあの大戦への入り口になってしまうのではないかと寒気がした。
「大戦が近づいてくる」
「大戦ね」
「まだ準備ができていないのに始まってしまう」
「ポール、帰ったら手紙を送ります。その大戦について少し知っていることがあるのです」
「いま言ってもいい」
「バトラス予言の内容を伝えたかったの。詳しい内容までは覚えていないから手紙で送る」
「バトラス予言?バトラス大戦に関係するものか?」
「そう。四百年前のバトラス大戦を終結させた人で〈軸〉の創設者の一人、救世主バトラスによって書かれた予言書よ。彼女も精神拡張ドラックを使用していたと言われているの」
「それは興味がある」
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