シーン4 帰る場所


やはり青年が気がかりで、ナースに追いつけなかった様子の警官。諦めて悔しそうに戻ってくる。するとのんびりと穏やかに煙草を吸う青年を見て、呆れる。


警官  あなたねえ…。


青年  はい…?


警官  ご自分の状況をよく考えましょうよ…。


青年  え…。(手元の煙草を見て)ああ…。すいません、さっき良いと仰っていたので…。


焦って煙草の火を消す青年。


警官  それじゃないですよ…。仕方ないですね。私といっしょに行きましょう。


青年  お巡りさんと…?どこへですか…?


警官  行けばわかりますよ。こんなところにおひとりでいない方がいいですからね。


青年 (なぜかスッキリした様子で)ああ。ご心配ありがとうございました。僕はもう大丈夫ですから。本当にお構いなく。


警官  いや、そういうわけにもいかないんですよ…。


青年  やっぱりね、見つからないみたいですから。今日は諦めます。


警官  そうですか。ではいっしょに行きましょう。


青年 (怪訝そうに)ですから…。どこに…?


警官  あなたがお帰りになるのをね、待っている方々がいらっしゃるんですよ。


青年  待っている…?僕を…?


警官  ええ。みなさんきっと心配していますよ。ですからもう帰りましょうね。


青年  ちょっと待ってください…。どなたが僕を待っているんです…?


警官  どなたって…。いやまあ、いいじゃありませんか。帰りを待ってくれる人がいるというのはありがたいことですよ。


青年  そりゃそうですよ…。でも、誰が僕の帰りを待っているというんです…?僕には、僕の帰りを待つ人なんていません…。


警官  そんなことはありませんよ。それがどこの誰であろうとね、あなたの帰りを待っている人は必ずいますよ。


青年  なぜ…?


警官  なぜとは…?


青年  なぜ、そんな風に言えるんです…?


警官  そりゃあ…。まあ、大丈夫ですよ。私が一緒に行きますから安心してください。


青年 (困惑しながら)嫌ですよ…。いくらお巡りさんが一緒とはいえ、そんなよくわからないところへなんて行けませんよ、僕…。


警官  しかしね、あなたの帰りを待っている人がいるというのは本当なんですよ。


青年  ですから、誰…?誰なんです、それは…。


警官 (溜息をついて)わかりましたよ…。それじゃ、ほんのちょっとここで待っててください。さっきの方を探してきますから。


青年  さっきの方を…?どうして…?


警官  あなたを探していたんですよ。


青年  僕を…?


警官  おそらくね。


青年  どうして…?


警官  また会えればわかりますよ。すぐ戻りますから、ね。ここから動かないでくださいよ。


青年  はあ…。


警官  お願いしますよ。すぐに戻りますからね。


ナースが去っていった方へ警官は走っていく。その背を見届ける青年。


青年 大丈夫です…。ここに居ますよ…。僕は…。


真っ赤に染まった夕焼けが広がる空。

ゆらりと見上げる青年。


何かを誘うようなカラスの鳴き声。

羽ばたく音。


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