18 帰還
迎えの馬車が到着し、城に呼ばれた貴族たちやフィリンゲンの村の子どもたちが乗り込み、自分たちの居場所へと帰っていく。ヴァン・ヘルシングと伯爵も、例の馭者の馬車に乗り、フィリンゲンの村へと戻っていった。
村への道中、馬車の中。
ヴァン・ヘルシングはふと伯爵に問う。
「あの茶髪の吸血鬼に“永遠の眠り”を提案していたが……もしあの吸血鬼が受け入れていたら、お前はどうし――」
「俺も……君に“お願い”していたかもしれない……。俺のこの“ロンド”を終わらせてくれるのでは、とね――」
伯爵はヴァン・ヘルシングの言葉を遮るように、静かに言った。
……“ロンド”?
ヴァン・ヘルシングは首をかしげた。
7年前に伯爵は一度滅ぼされたが、そう言えば何故舞い戻ってきたのか? ヴァン・ヘルシングの脳裏に疑問が浮かび上がった。彼の疑問に答えるように、伯爵が続けた。
「7年前、君たちに滅ぼされた後、地獄から追い返された。“また人間を共を喰らいつくせ”、と……」
伯爵は不安に苛まれたように震えた声で言った。
「君に会いに行ったのは、初めは復讐心からだった。だが、君の目を見ていると生前の記憶が蘇ってきたのだ」
ヴァン・ヘルシングは伯爵の話にギョッ! と目を見張った。そんな彼の様子に伯爵は、ふふっ、と笑う。
「案ずるな、エイブラハム。もうそんなことは思うまい。それに、君といると楽しくて、“眠り”につくのが惜しくなってしまった。ああ、何故、あんなに大切な人のことを忘れてしまっていたのか……。君のおかげで思い出すことが出来た。礼を言うぞ、エイブラハム」
「それは、それは。お役に立ててよかった。だが、こんな老いぼれといて楽しいか?」
ヴァン・ヘルシングは少々ニヤニヤした表情で、伯爵を上目遣いで見た。
「はて……どちらが“年寄り”かね?」
伯爵は話を濁すように言うと、ニタリと口角を上げた。ヴァン・ヘルシングは少々すねた表情を浮かべ、はいはい、と返した。伯爵が続ける。
「因みに、君が以前シュヴァルツヴァルトで狼に遭遇した時だが……あの狼を操っていたのはあの吸血鬼だ」
ヴァン・ヘルシングは驚きを隠せず目を丸くし、伯爵を見つめた。
「何っ!? そうだったのか……。だが、何はともあれ、これでシュヴァルツヴァルトでの狼の件も、吸血鬼の件も片がついた、というわけだ――」
ヴァン・ヘルシングは胸を撫で下ろした。
「まあ、一石二鳥で良かったよ……。そう言えば、長持ちは持ってこなくて良かったのか?」
ヴァン・ヘルシングは瞬きをし、伯爵を見上げた。
「別に、構わない。アムステルダムに“帰ったら”ゆっくり棺で休ませてもらうさ。少し、否、大変結構な“昼更かし”をしてしまった……」
伯爵は少々微睡んだ様子で答えた。そんな伯爵の様子にヴァン・ヘルシングは少し魅入ってしまった。
「そうか……。よし!」
ヴァン・ヘルシングはグッと拳を構えた。
「フィリンゲンに着いたら急行で帰るぞ! ヴラド、援助頼む……」
伯爵は、ヴァン・ヘルシングの申し訳無さそうな表情に、愛くるしそうに目を細めた。
「了解した」
二人は各々の疲れを溜めつつ、“急ぎ足”でアムステルダムへと帰っていったのであった。
第一部 Finis.
第二部へと続く――。
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