第12話
ある日、大作にすみれからの手紙が届いた。
大作さんへ
お久しぶりです、お元気にされていらっしゃいますか。私は元気に頑張っています。
いろいろ、事情があって母の借金の問題は無くなりました。そして、母の家も建つことになりました。これも、大作さんのおかげです。ありがとうございました。私は大阪の会社で秘書の仕事をしています。最近はだいぶ慣れました。大作さんは大工の仕事はどうでしょうか。上手くできているでしょうか。大作さんは慌て者ですからね。
もう、二度と怪我をしないように気をつけてくださいね。それから、私には今、悩んでいることがあります。でも、それはここでは書くことができません。それならば書かなければいいのになぜか書いてしまいました。ごめんなさい。大作さんのことばかり考えて毎日を過ごしています。早く東京に帰って大作さんに会いたいです。
でも、それはなかなか難しくなりそうです。私も辛いです。大作さんに会いたいです。
すみれ
大作はとても気になった。言えなかったこととは何なのか気になって仕方がなかったのである。そして何を悩んでいるのか心配だった。しかし、すみれの母親の問題が解決したことについては不思議ではあったが安心したのだった。そして、大作は大工の仕事を辞めて小説の道に進みたいと思い、熱心に小説に取り組み始めた。すでに桜は散ってはいるけれど桜の木の下へ小説の構想を練るために向かった。小説は時代劇のジャンルのものを書いており、最後の仕上げに入るところだった。桜の木の下に行くとそこには、どう見ても日本人ではない人が座っていた。その人は大作を見て話しかけた。
「コレガサクラノキデスネ、モウハナガチッテシマッタノデ、ザンネンデス。」
そう流暢な日本語で大作に話しかけてきたのだった。どうやら、日本の文化に興味を持った外国の人のようだった。そして、いつの間にかその人と仲良くなっていた。その人は大柄な男性で日本人と異なり肌の色が白く、神は金色であったのだそして、自分のことをトーマスと名乗った大作は小説を書いているということを話しをすると、是非読んでみたいと言いながら小説を大作の前で読み始めた。読み終わると突然立ち上がり大作に話しかけた。
「アナタハ、サイノウニ、アフレテイマス、ゼヒ、アメリカニ、キナサイ。」
その人は驚いた様子であった。大作はこの時は冗談で言ったのだろうと思ったのであった。そして、次に会う約束までして別れたのだった。これが、大作とトーマスとの出会いだった。すみれは苦しんでいた。すみれは優しすぎたのだった。悩みに悩む日々が続いた、そして決断したのだった。決断した結果は大作と社長と二人とも別れることだった。二人とも自分が結婚することで傷つけたくなかったからだった。すみれは一生独身を貫くことを決意した。しかし、愛している大作を裏切ることに対して強い罪悪感を抱いていた。しかも、実際に大作に会って別れ話を切り出せるだろうかと思い悩んでいたのだ。それほど、社長に信頼を寄せて恩を感じていたのだった。
そこには光と影があったのだった。
毎月の振り込みに相変わらず直哉は悩んでいた。しかし、それも終わりがきたのだった。振り込みの代わりに手紙が届いた。
北村直哉様
突然で申し訳ありません。振り込み金額は足りたでしょうか。もし、余ったならば今後の幸せな生活に役立てて下さい。そうしていただけると私はうれしいです。私は病気でもう長くありません。困っているあなたを見て過去の自分を見ているようでした。他人事ではなかったのです。私も昔、同じような体験をして結局私は大事な人を助けることが出来ませんでした。他人事とは思えないというより以前、私が果たせなかったことを私が解決したかったに過ぎません。結局は私の自己満足だったのです。直哉さんの愛する方が助かったことを聞いて手紙を書きました。愛する人と幸せになってください。私の果たせなかった夢を代わりに叶えてください。恩返しが必要と思うならば、愛する人と一緒になってください。それが私の願いです。どうか、幸せになってください。
黒沢宗三
直哉はすぐさま清美にこの手紙を渡した。清美も全く誰なのか心当たりがなかった。なぜか不思議な気持ちにかられて二人は互いに励まし合うのだった。しかし、清美は間違いなくこの黒沢という人から助けられたのだ。いわば命の恩人だった。
ただ、一体どのようなつながりがあるのか分からなかったことだけが気がかりだった。二人は結婚式の打ち合わせをしていた。そして、悩みに悩んだ結果、手紙の内容を信じて余り過ぎるほどのお金を使わせてもらう事にした。その方への感謝でいっぱいだった。幸せな時が流れた。清美は直哉と結婚できるかと思うと夢のようだった。これまでの出来事は清美の優しさが幸せを呼んだのかもしれなかった。
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