第15話

大作はトーマスに助けてもらい。我に返った大作にトーマスはアメリカに来るように強く勧めたのだ。トーマスはアメリカの大手出版会社の日本支店長であり大作の才能を見出したのだった。大作は悲しみの中にも喜びはあったがアメリカに行くかどうか悩んだ。もしかしたら、すみれが帰って来るのではないかと思ったからだ。トーマスは大作を様々な面で支援してくれた。大作は半年ほどすみれを待ち続けたが帰ってこなかったので諦めてアメリカへの道へ進んだのだった。アメリカ行きを決断させたのもトーマスの強い説得によるものだった。そして、すみれを忘れさせるためだったのだ。大作は傷心が癒えぬまま、トーマスとアメリカに渡った。英語も最初は喋ることは出来なかったが少しずつ覚えていき日本と文化が全く異なったことに戸惑ったが次第に慣れていった。終いには自分の小説を英語で書くことができるようになるほどであった。しかし、大作はすみれのことをいつまでも忘れることがができなかったのだ。すみれの優しい声がいつも大作から消えることはなかった。時々、アメリカの木々を見るとすみれの顔を思い出しては涙が止まらないこともあった。いつか、会えそうな気がしたのである大作は部屋にすみれから貰った花嫁人形と花柄模様の指輪を大事にしまった。いつも手をのばせばすみれがそこにいそうな気がしてたまらなかった。大作の作品は日本の文化を深く美しく描写しており、アメリカで高く評価されはじめた。次第に世界的にも知名度が高まって成功を収めることができたのだった。

一方ですみれは深い精神的な落ち込みによりしばらくは仕事もできない状態だった。深い悲しみがすみれを襲っていた。生活は退職時に社長から通常より多額の退職金を貰っていたので、それで生活ができていたのだった。次第に精神的な悲しみが回復されていくと、無性に自分が腹立たしく思えた。なぜ、婚約したのに別れてしまったのかと思うと悲しみが改めて増してきた。涙に溢れる日々が続いたのだった。

自分を責める日々が続いた。そして、東京に帰ることにしたのだった。東京に帰ると真っ先に桜の木の下へ向かった。もしかしたら、大作さんがいるのではないかという想いだからだ。しかし、そこには大作はいなかった。それはあまりにも悲しかった。その頃は大作はアメリカで生活を始めたばかりだったのだ。すみれは毎日のように桜の木の下へ向かったしかし、そこには大作はいないのだ。悲しい二人のすれ違いであった。大作は桜の木の下で構想を練っていた成果がでたのだ。そして、その頃のすみれとの幸せな体験が後の小説にも影響したのだった。すみれは後悔が終了することはなかった、いつまでも自分を責めてばかりだった。婚約までしたのにと思う気持ちがさらに強くなるばかりだった。あれほど信頼していた社長のことは忘れることは早かったが、大作のことを忘れる日はなかったのだ。すみれは星が美しく輝く時はいつも空にでて、二人で過ごした夜のことを思い出していた。あの時の美しい星空を思い出すと涙が止まらなかった。二人はもう会うことはできないのだろうか。そして愛を語り合うことはないのだろうか。運命の歯車が再度回ることはないのだろうか。運命の女神は微笑んでくれないのだろうか。



新婚旅行から帰ると休んでいた期間の仕事がたまっていたので取り戻すために仕事に追われていた。しかし、式を挙げてからは同居していたので幸せが仕事の疲れを吹き飛ばしてくれていた。本来であれば正式に結婚届を提出するのが先であったが、二人はあまり形式的なことにはこだわっていなかったので式や新婚旅行と届けの順番は逆になっていたのであった。ようやく、仕事も一段落して心の余裕もでてきたために結婚の届をすることになった。二人で区役所に届けを出しにいくも、証人が必要であったのでその日は届けをすることはできず。証人を探すことになったのだった。証人になってくれる者は多かったが、二人はかねてからお世話になっており、厳しくも可愛がってもらっていた銀行の支店長になってもらうことにした。早速、支店長の前で婚姻届書を書き、それぞれ署名捺印して、支店長にもこれから幸せな生活をすることを互いに誓った。しかし、清美は疲れていたことと、正式に結婚という儀式が完了すると思ったのだがようやくここまでたどり着いたという安堵もあったのかもしれない。引出しにきちんと鍵で保管したにもかかわらず忘れて帰ってしまったのだった。しかし、それは神様の悪戯だったのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る