第5話 花の指輪のもとへ

すみれと大作の優しい秋風はある所に向かうことになった。

「大作さん、銀行の近くにデパートというものができたのですが、一緒に行ってみませんか。なんでも、いろんな物が売っているみたいなんです。」

すみれの輝く笑顔に大作は断る理由の欠片すらなかった。

「じゃあ、行ってみよう、どんなものがあるのかな。楽しみだね」

デパートに着くとすみれは大きな木造の建物の階数を数え始めた。

「大作さん、5階建てみたいです。初めてこんな高い建物を見ました。」

「本当だね、僕も初めて見るよ。」

そう言いながら喜ぶすみれに大作は幸せを感じていた。1階は多くの食料品が売ってあり、すみれは今まで見たことのない食材を興味深げに一つ一つ見て回っていたのだ。各階にそれぞれ色々な物があり、二人が見たことがないようなものが置いてあった。大作は子供の様に、はしゃぐすみれの姿を見ていた。

一番上の5階には舶来品が多く置いてあった。二人ともここが本当に日本という国なのかわからないくらいだった。いろいろ見て回るうちに二人の目の前に飛び込んできたものがあった。花をデザインした指輪だった。指輪は高額な商品のためか大きなガラスで繊細に作られていた箱に入っており透明であるため外から見ることができるようになっていた。さらに、触れることを禁ずると書いた紙がわかるように貼ってあった。大作は瞬時に思った。あることを、そして迷うことはなかったのだった。花の好きなすみれはあまりに美しかったためか、指輪をじっと見ていたが、あまりの高額な商品に驚きを隠せなかったのだった。それを見て大作はますます決意したのだった。すみれは、指輪から目線を外すまでにかなりの時間を要した。そして翌日から決意が現実になる努力を始めることになった。各階を長い時間をかけて見物してまわった。購入するものは一切なかったが、二人は楽しい気持ちでデパートを後にした。しかし、花柄模様の指輪は二人にとって新鮮で手が届かない存在のようだったが、大作にとってはかけがえのないものとなった。夢の先に見えるものとは



泉が丘障がい児施設の子供達にとって清美の優しくて明るい性格は心の支えでもあった。しかし、その清美を支えているのは直哉だった。清子は不器用で銀行での仕事ぶりはあまり評価されておらず、不足するものを常に直哉が助けてくれていた。清子がお姉さんの役割であり、それに対して直哉はお兄さんの役割を果たして直哉も子供達の支えでもあったのだ。直哉は体こそ大きくはなかったが、優しさとたくましさを持った性格であった。園の行事では、特に男性にしかできないことなどを率先して活動していた。クリスマスのシーズンを迎え清子と直哉は準備に追われていた。もみの木のクリマスツリーにイルミネーション、部屋の飾り、クリスマスソング

何より、直哉には大きな仕事が待っていた。それは、サンタクロースを演じる役割だった。サンタクロースの衣装に白く長い髭を準備もすませ、園のクリスマス会が開かれる時を迎えていた。外は雪が静かに僅かながら舞い降りて冷たかったが、園の中は優しさがほのかに包まれていた。そして、クリスマス会は始まったのだった。子供達は障がいを持ちながらも、イルミネーションの柔らかい灯りの中で歌を歌い話をしたりして楽しく始まった。

「それは、僕のケーキだよ。」

「私のよ。」

「ほら、みんなにケーキはあるから。」

「私はチョコレートの飾りがほしい。」

「いや、僕が先に取ったから僕のものだよ。」

「ほらほら、ケンカをしたら駄目だよ。」

そこに、突然、サンタクロースに扮する直哉が現れた。子供達は大騒ぎになり、一人一人プレゼントを貰い喜びの表情が消えることはなかった。楽しく笑い声の中でクリスマス会は終わったのだった。しかし、清美と直哉にも二人だけのクリスマスが待っていた。クリスマス会も9時には終わり、二人はイルミネーションに囲まれた街頭を歩いていた。静かに雪が舞い降りる中でイルミネーションは幻想に包まれている。普段は多くの車が通る道にも、周囲からは恋人達の甘く優しい声が静かに漂っていた。直哉は言い出したいことがあったが言えなかった。同様に清美もそうだった。言い出したいことというのは愛し合っている二人はいずれ結婚したかった。

そのことだったのだ。互いにクリスマスプレゼントを交換し合った。しかし、二人だけでいることだけが、二人への一番のクリスマスプレゼントだったかもしれない。

静かな夜が深けて、二人の邪魔をするものは何もなく、積もった雪を踏みしめる音とともに、それ以外の静けさは神からの二人への贈り物だった。

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