第8話 罪の記録
掃除用具の場所と掃除箇所をエブレに教えて、一度執務室へと戻る。
「……しっかし、お前、よくやってんなぁ」
「なにが?」
「だって相手は殆ど殺人犯だぜー」
「……そう、なんだよな」
ここにいるほとんどは、死刑を言い渡されるようなことをした罪人だ。
「ん? どうかしたのか?」
「いや……」
自殺した同僚を思う。
あいつはいつも暗い表情をしていて、生気というものをあまり感じさせなかった。正直、どのエクススルよりも死に近かったのではないかと思う。
今となっては本当にそうだったのだけれど。
あいつと一年組んでいたからこそ、今、目の前にいるエブレに戸惑う。
こんなところにいた経歴を持ちながら、こんなに明るく人と接する事ができる状態に戻れるものだろうか。
いや、近づく死から解放された喜び、だろうか。
それも違うだろう。トレスウィリをロクでもないと豪語していた奴だ。そのロクでもないトレスウィリになれて、嬉しい筈がない。
この明るさはきっと、エブレの生来の性格なのだろう。
なんとなくエクススルのファイルを手にとる。
エクススル9。
教会窃盗殺人。
民家数十箇所、及び、深夜の教会に忍び込み、備品・献金を窃盗。
神父一名を石膏像で撲殺。
エクススル5。
親族の男性一名撲殺。
血の繋がった兄の頭部を、ガラス製の灰皿で殴打して殺害。
エクススル17。
男一名、女一名撲殺。
恋人とその浮気相手を背後から襲撃し、石で頭部・肩を数回殴打して殺害。
エクススル12。
男性九名殺害。
一人目は、陶器で後頭部を殴打した後、果物ナイフで頚部を切開して殺害。二人目は、ロープで拘束した後、刃物で手首を切断して殺害。三人目は、釘を打ち付けた角材で全身を殴打して殺害。
四人目は……。
そこでファイルを閉じた。
異端・殺人・近親相姦・姦通・教会窃盗・放火・程度の重い詐欺は処刑の対象だ。
いずれも処刑になるのに十分な罪なのだろう。特に異端や近親相姦は、それだけで死罪に値する事だ。執拗な撲殺も惨殺と見られ、死刑を宣告されても何ら不思議はなかった。
問題はエクススル12だ。
彼女は何故、九件もの凄惨な殺人を犯したのだろう。
いや、それ程の罪を犯しておきながらあの様子なのか。
九人もの誰かの命を奪っておきながら、信じられない。
エクススル12だけではない。重罪を犯して尚、平然と生きている人間が信じられない。
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