第9話 篠崎夕との夜と春ちゃんの秘密
(春ちゃんside)
目を覚ました私は、横に眠る夕さんの寝顔を覗きこんだ。
「寝顔もステキ」
呟いた私の声は眠る夕さんには届かないだろう。
でも少しピクンとした反応に起きてるのかな?と思ってしまうと同時に幸せな気分になってしまう。
まだ一緒にいたいけど頭を振って羽織っていた薄手の布団を退かして、ベッドから降りる。
裸の体は汗でベッタリとしていて少し気持ち悪い。
だけど、乱れた夜の事を思い出し体が熱くなってくる。
「夕さんに初めてをあげちゃったな」
初めては痛いと聞いていたけど、そんな事なく気持ちよくて好きな人に抱かれる幸せを感じてしまった。
私は、眠る夕さんの頬にキスをして自宅に帰る仕度を始めた。
夕さんのマンションを出ると時間は午前4時で、まだ日も上っていない。
歩く人も疎らの中一人寂しく自宅を目指す。
夕さんが起きるまでずっと抱き合っていたかったけど、無理な事だった。
朝一番で私の事を起こしにくる春にどうしてもやらないといけない事があるからだ。
それは春には言えないお母さんと私だけの秘密で、私の特殊能力に関する事。
タクシーに乗って自宅に帰ると、直ぐに部屋に向かいそのままベッドに倒れこむ。
さっきまで隣にいた夕さんの事を思い出し寂しい気持ちになったけど、一瞬で眠りについた。
◇◇◇
春の声で目を覚ましたけどすごく眠い……
寝惚け眼のまま春に抱きつく。
そして私は特殊能力を発動させた。
(いつもありがとう。これからも私のためによろしくね)
そんな事を思いながら春の精気を吸い込む。
春に抱きついた全身から春の精気が自分に流れ込んでくる。
吸い終ると、春に学校に行く準備をしてもらう。
そして、準備が終ると春と一緒に部屋を出た。
「春、先に外で待ってて!」
「うん、分かった」
返事をした春は直ぐに玄関を出て外に行った。
春がドアを閉めたのを確認して、隣にいたお母さんに話しかける。
「お母さん、春にかけた?」
「当たり前でしょ?」
お母さんの言葉に私は、笑顔で返す。
「でも、なんか最近効きが悪い感じがするのよね……」
「お母さんもなの?私もそんな感じがするんだよね……」
お母さんと同じように私もそう感じていた。
前は手を握っただけで十分に精気を吸い込めたんだけど、最近は抱きついて全身で吸い込まないと満足できる精気の量を吸い込めなくなっていた。
「それで、お母さんの特殊能力は効いてる感じ?」
「効いてるとは思うけど、注意してね。いつも以上に優しくしないと私の記憶操作が解けるかもしれないから」
「分かった」と返事をして私は、春から吸い取った精気をお母さんの手を握り、少し流し込む。
するとお母さんの顔から皺が消えて、髪にも艶が戻ってくる。
「これがないともう生活できないわ」
うっとりしながらそう言ったお母さんに私は苦笑いを浮かべ、「そうだね」と言って家の外に出た。
このやり取りで分かる通り、私のお母さんも特殊能力を持っている。
それは『記憶操作』
私はお母さんに特殊能力があるのを知らなかった。
でも小学校低学年の頃、転んだ私を起こそうと春が手を差し伸べた時に、私の特殊能力が突然発動した。春から流れ込んでくる何かが全身を駆け巡ると、快楽と高揚感に包まれ、ブスだった私の姿が可愛い容姿の春と瓜二つになった。
ビックリした私はお母さんに慌ててその出来事を話してお母さんの特殊能力の事を知ることになった。
その時は自分に特殊能力が発動した事と同じくらいに驚いた。
それからお母さんと色々と話しをして、春を自分達の為に利用しようと決めた。ちなみに春のお母さんもお父さんも私達に利用された人の中に入る。
私の特殊能力は相手の精気を吸って自分の美に変える能力。
吸い取った精気は相手に与える事も出来るし、春に返せば春は元の美少女に戻る。
元々不細工だった私は自分の特殊能力と春達親子、そしてお母さんの協力でここまでの地位を築き上げてきた。
この地位を捨てる事になるなら、デブで不細工になった私の側にいる事が相応しくない春にも優しくする。
学校に登校する歩みを進めながら隣でペチャクチャと喋る春を見る。
(本当に不細工になったよね)
私に精気を吸われる前は絶世の美少女だったけど、今は見る影もないくらいデブスの春。
春からはまだまだ精気を吸い取れるから手放すわけにはいかない。それに他の人だと春ほどの効果は得られない。
「何があっても春は私の味方だよね?」
「味方だよ。『親友』だもん」
(親友……本当におめでたい頭……)
お母さんに記憶操作をかけられてるからの考えだろうけど、呆れてしまう。
利用されているのに……
とことん春を利用させてもらおうとほくそ笑み、途中合流してきたちぃちゃん達と挨拶を交わす。
すると春は直ぐに一人で行ってしまったけど、気にしない。春は自分の立場を良く理解している。本当にバカな子。
ちぃちゃん達に言った春を擁護する言葉を春に聞こえるように言っておけば、お母さんのかけた記憶操作は解ける事はないはず。
お母さんにも精気を上げてるからかなり協力的で絶対に私の味方。
何もかもが上手くいって少し怖くなるけど───
「春のお母さんみたいに限界まで精気を吸ってあげるね……」
「春菜何か言った?」
私の呟きに反応したちぃちゃんに「何でもないよ」と言って私達は教室に向かった。
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