第8話 記者会見前夜の舞台裏②


(春ちゃんside)


 夕さんに肩を抱かれ店内に入ると、店員さんに個室へと案内される。


 店内は実際に見た方がネットで見た時よりもお洒落に感じた。


 お店の雰囲気と、隣に大好きな夕さんがいる今のこの状況が気持ちを更に高ぶらせる。


 夕さんにエスコートされて席に座った私は、向かいに座る夕さんをうっとりと見つめる。


 (夕さん本当にかっこいい……)


 だらしなく崩れそうな表情を必死に堪える。


 「どうしたのHaruちゃん」

 「ななんでもないよ、夕さん」


 夕さんの声を聞くだけで胸がドキドキする。

 私は本当に夕さんの事が大好きだと実感した。



◇◇◇


(篠崎夕side)



 俺の向かいに座るHaruはだらしない表情をしている。

 我慢してるようだが全くの無意味で、俺に対しての好意がだだ漏れしているのが分かる。


 目の色も赤になっていて完全に魅了にかかった状態を示している。


 全てが順調に進んでいる中、他愛ない会話をしていると料理が運ばれてきた。


 高級イタリアンのこの店は、個室もあって雰囲気もいいし、料理も抜群に旨い。

 それに店員もしっかり教育されていてお客への対応もいい。

 おまけにここであった事が外に漏れる事もないと、徹底して秘密を守るお店の姿勢も好ポイントだ。


 (女を落とす時はここに限るぜ)


 「美味しい」と料理を食べたHaruに笑みを見せ、「だろ!」と返し言葉を繋ぐ。


 「なぁHaruちゃん、食べながらでいいから話を聞いてくれる?」

 「うん、夕さん何?」

 「俺はHaruちゃんが好きだ。だから俺と付き合わないか?」


 完全に魅了にかかったHaruからの返事は分かっている。


 「嬉しい……私でよければよろしくお願いします」

 「ありがとう…こちらこそよろしく」


 予想通りのHaruの返事。


 これでHaruと付き合う事になったが、これで終わりじゃない。


 とりあえず最後のデザートを食べ終るまで適当に会話でもしてればいいな。



◇◇◇



(春ちゃんside)



 夕さんに告白されて付き合う事になった。


 本当に嬉しい。


 同じ料理なのにさっきよりも美味しく感じてしまう。


 食事をしながら夕さんとの会話にも幸せを感じてしまう。


 デザートを食べ終わり、コーヒーが運ばれてくる。

 夕さんはワインを飲んでるけど私は未成年なので飲めない。


 背伸びして一緒に飲みたいなって思う気持ちはあるけど、未成年の飲酒はさすがに世間からの風当たりが強くなるからやめておく。


 コーヒーを口にしてカップを置くと、向かいに座る夕さんが真剣な表情を見せた。


 (真剣な表情の夕さんもすてき)


 夕さんに見つめられると体が疼いてしまう。


 「なぁHaru、事務所移籍しないか?」


 夕さんから放たれた突然の言葉に驚いてしまった。




◇◇◇



(篠崎夕side)



 驚くHaru。


 『魅了で落としたらウチの事務所に移籍させる』これはずっと計画してた事だ。


 Haruは人気タレントだからあんな小さな弱小事務所には勿体ない。

 ウチのような大きな事務所に移籍した方がHaruをもっと活かせるし、売れなくなったら脱がせりゃいい、いくらでも使い道はある。


 映画の撮影中、魅了の効きを確かめながら社長にこの話をしたらかなり喜んでいた。


 「移籍後の事は気にするな」と乗り気な社長は「成功したら給料倍にするからな」と付け加えていたっけ。


 まぁ社長も魅了にどっぷりと浸からせてるから言いなりだけどな。


 俺の思い通りになるこの世界は本当に最高だ。


 「でも……柴田さんにはお世話になってるし……」


 Haruはそんな事を言って少し渋る。

 魅了に完全にかかっている今、俺のお願いに対して渋る事すら難しいはずなのに……


 目の色を確かめても赤で魅了は問題なく効いている。

 

 何か引っかかる気がするが、多少強引でも言いくるめれば大丈夫だろう。


 「ウチの事務所は大手だから何も問題ないよ。Haruちゃんの今の事務所より絶対にHaruちゃんを活かす事が出きるから」

 「そうかなぁ」

 「そうだよ。ウチの社長もHaruちゃんが来てくれたら全力でサポートするって言ってたし」

 「でも……」


 まだ渋るHaruの手を握り、目を見つめる。


 「俺と同じ事務所はイヤ?俺はずっとHaruちゃんと一緒にいたい」

 「夕さん……」

 「お願い……」

 「もぉそんな顔されたら何も言えなくなっちゃうよ……よろしくお願いします」


 顔を赤らめるHaruにニヤリと口角を上げた。


 「ありがとう、それじゃ明日にでも移籍会見しようか」

 「えっ!?明日?」

 「そう明日、善は急げって言うだろ?」

 「そうだけど早すぎない?」

 「こうゆう事はちゃっちゃと済ました方がいいの」


 「そうかなぁ」と言うHaruを見ながらポケットからスマホを取りだし、社長に電話をかける。そして席を立つと少し離れ、Haruちゃんに声が聞こえないように小さく喋る。


 『もしもし社長?Haruちゃん移籍するってさ。後はよろしく。あと、マスコミに移籍会見の話を回しておいてよ』

 『おお、よくやった。その報告があるって事はHaruをプライベートでも落としたって事だな?』

 『そうゆう事、無事付き合う事になった』

 『おめでとう』

 『ど~も』

 『よし、後は任せろ。記者会見の話も進めとく。前に話してた通り早めに動くから明日でいいか?』

 『うん、それでいいよ』

 『チャッチャと外堀を埋めて逃げられなくするのは賛成だが、移籍の話しだけだと理由によってはイメージが悪くなる。だからお前と交際してる事も発表しよう』

 『え~なんでよ~』

 『交際の話を混ぜれば移籍の話のインパクトが薄れて有耶無耶になるし、質問も交際の話しになるから答えやすい』


 確かに社長の言う事には一理ある。

 こちらから一方的に進める移籍の話を追及されれば返答に困り綻びが出てくる。俺との交際の話を同時にすれば絶対に交際の話がメインになるはず。

 ただ、そうなってくると俺が他の女と遊ぶのも大変になりそう。

 まぁそのへんはHaruを喰ってから考えるとしても、問題がある。


 『Haruちゃんは高校生だぞ?大丈夫なのか?』

 『なぁに清い交際の婚約者にして、高校を卒業してから結婚を前提に付き合うと言えば大丈夫だろうよ。ま、イメージが崩れないように考えるさ』

 『分かった。社長に任せる』

 『明日から忙しくなるな。あまりはしゃぎすぎるなよ』

 『分かってるよ、それじゃよろしく』


 電話を切った俺は社長と話した事をHaruに伝え、明日の会見に向け計画を練っていく。


 「こんな感じかな?」

 「そうね、いいと思う」


 明日のやる事がだいたいまとまり、Haruの肩を抱いて店を出る。

 細かい事は社長に任せればいい。


 「送るよ」

 「私が帰りたくないの知ってる癖に……いじわる……」


 俺にもたれ掛かりながらそう言ったHaruの頭を撫でる。こうなると本当にチョロい。


 すっかりメスの顔になったHaruの唇に自分の唇を重ねる。


 「はぁ…んっ……んっ……」

 「くちゅ……くちゅ」


 しっかりと舌を絡めたキスにHaruは蕩けた表情になる。


 清い交際?冗談じゃない。

 こんな表情の女に手を出さないはずがない。


 社長がはしゃぎすぎるなと言ってたが、手を出したとしてもバレなきゃいい。

 一線を越えたとしても明日の記者会見で魅了にかかっているHaruなら上手く対応するだろう。女優だしな。


 「じゃぁ行こうか」


 頷くHaruを胸に抱きながら通りかかったタクシーを止め乗り込む。


 「長い夜になりそうだ」


 呟いた俺は、めちゃくちゃに乱れ喘ぐHaruの姿を想像しながら運転手に行き先を伝えた。


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