第5話 いつもの朝



 スマホのアラームの音で目を覚ました私は、部屋から出て一階にある洗面所へと向かう。


 昨日の試写会ではそれほど難しい質問は無く、無難に答えられたと思う。

 質問が来るまで気が張っていたから本当に疲れてしまった。


 洗面所に着くとバシャバシャと顔を洗い、タオルで顔を拭きながら自分の顔を見つめタメ息を吐く。


 Haruになった時とはうって変わって今の自分の姿は、ポチャっとした体型にパンパンの顔、野暮ったい瞼にパサパサの髪………まるでブタさん……


 こんな不細工な私が今をときめくHaruになれるのだから特殊能力のすごさを改めて実感できる。


 どうしてこんなに何もかも春ちゃんと違うのか?


 Haruになった次の日はいつもこう思い凹んでしまう。

 ちなみに特殊能力は一晩しかもたない。

 寝て起きたら本来の自分の姿に戻ってしまう。


 (まるで魔法が解けたシンデレラね……)


 今度は深いタメ息を吐いて自室に向かい、準備をして学校に向かった。



◇◇◇



 学校に向かう途中で春ちゃんの家に行く。


 春ちゃんの家はちょうど学校に登校する道にあるので毎朝春ちゃんの家に行くようにしている。

 だって春ちゃんはお寝坊さんだから朝に弱いのだ。


 これが小学校二年生の頃にお母さんが亡くなってから続く毎朝のルーティーン。


 『私が起こさないといけない』と頭の中で声が響く。


 それに、お世話になってる春ちゃんのお母さんに『朝の挨拶は毎日しに来てね』って言われてるしね。


 春ちゃんの家に着くと、インターホンを押す。


 少し待って、インターホンから聞こえる「は~い」の春ちゃんのお母さんの声に安心する。


 何だか亡くなってしまったお母さんに言われている気分になる。


 「おはようございます。春菜です」

 「あら、春菜ちゃんおはよう。ちょっと待ってて」


 インターホン越しの春ちゃんのお母さんとの会話を終えるとドアが開き、春ちゃんのお母さんが出てくる。


 「春菜ちゃんおはよう。昨日も春の変わりにお仕事してくれたんだって?ありがとうね」

 「いえいえ、春ちゃんとおばさんにはいつもお世話になっていますので」


 私がそう返すと、春ちゃんのお母さんがニコニコと私の頭を撫でてくれた。すると段々とモヤがかかった頭がクリアになってくる感覚に目を細め、笑顔を返す。


 「ありがとうございます」


 頭を撫でもらった事に対してか、春ちゃんの仕事を変わりにしたお礼に対してなのか分からないけどそんな言葉が自然と口から溢れた。


 「いいのよ、春菜ちゃんも私の娘だからね」

 「そう言ってもらえて嬉しいです」


 私の言葉に春ちゃんのお母さんはニコニコして「春菜ちゃん、春の事よろしくね」と言って私を家の中に入れてくれた。


 『春ちゃんの準備は私の役目』


 と謎の使命感が頭に浮かぶ私は「お邪魔します」と家の中に入って春ちゃんの部屋へ向かった。



◇◇◇



 春ちゃんの部屋に入ると春ちゃんはまだ寝ていた。


 いつもの事で寝てるのは分かってた事。


 『春ちゃんを起こすのも私の役目』


 またも頭に浮かぶ使命感に突き動かされる形で私は直ぐに春ちゃんを起こしにかかる。


 カーテンを開けて、春ちゃんの体を揺らす。


 「ほら~春ちゃん朝だよ、起きて~」

 「う~ん、むにゃむにゃ」

 「ほらほら遅刻しちゃうよ~」

 「むにゃむにゃ……春……おは……よ」


 まだ寝ぼけている春ちゃんの腰を無理矢理起こしてそのまま座らせると、ブラシで春ちゃんの髪をといた。

 窓から射し込む朝日に照らされたキラキラと輝くサラサラの黒髪は起きたばかりだと言うのに、ブラシに引っ掛かる事なくすり抜ける。


 (本当に綺麗な髪……)


 とき終ったブラシを側にある机の上に置くと、そのまま化粧に移る。


 きめ細かい肌は素っぴんでもかなり映える。


 (本当に同じ女子にんげんとは思えない)


 落ち込みながら薄化粧を終えたら春ちゃんを立たせて制服を着せる。


 (色も白くて、スタイルも抜群。そりゃ皆が夢中になるよね……)


 自分との余りにも違う容姿にタメ息しかでない。


 制服を着せ終えると、寝ぼけ眼の春ちゃんが「ありがとう」と抱きついてくる。

 体から何かが抜けていく感覚を感じながら「どういたしまして」と返した。



◇◇◇



 春ちゃんの家を出た私達は会話をしながら一緒に学校に向かう。


 「春ちゃん酷いよ。握手会の後に映画の完成発表会もあったんだよ?」

 「ごめ~ん、忘れてた」


 舌を出してへへと笑う春ちゃん。


 どうゆう仕草をしたら自分が一番可愛く見えるのかを知ってる春ちゃんはずるい。


 あざとく見えても『しょうがない』と思えてなんでも許してしまいたくなる。


 私がそんな仕草をしても気持ち悪いと言われるだけなのに……


 「あのね、春」


 急に真剣な表情になった春ちゃんがぐいっと私に顔を近づけて見つめてきた。


 「うん、どどどうしたの?」


 綺麗な春ちゃんに急に至近距離で見つめられてドキッとして少しどもる。


 「春はいつまでも私の味方だよね?」

 「そ、そうだよ味方だよ?」


 すると春ちゃんは笑顔を見せ「ありがとう」と言った。


 なんで急にそんな事を言ったのかよく分からないけど、春ちゃんの事だ何かあるのだろう。


 まぁ私の場合は何があってもそしてそんな事を聞かなくても春ちゃんの味方だ。


 春ちゃんは私の『親友』だからね。うん。



◇◇◇



 校門の前まで着くと、春ちゃんの友達が近づいてくる。


 「おっは~春~」

 「春さんおはよございます」

 「ちぃちゃん、まぁちゃんおはよー」


 ちぃちゃん事、宮良千みやらちいは学校でいつも春ちゃんと一緒にいる女子で、春ちゃんほどじゃないけどすごく可愛い。


 愛らしいルックスで『カワイイ』がよく似合う。そしてあざとい仕草が男子にとても人気でモテて、春ちゃんと同じタイプの女子だ。


 もう一人の春ちゃんの友達、まぁちゃん事、雅真麻みやびまあさも春ちゃんといつも一緒いる女子の一人で、清楚系美人で凛とした佇まいが大人な雰囲気を醸し出す女子。


 誰に対しても優しく接する姿に男女関係なく人気がある。


 おまけに成績優秀と天に二物も三物も与えられ、神に愛された存在の雅さんには嫉妬するのもおこがましい。


 そして、この三人が私の通う桜木高校の三大美女と呼ばれている。


 そんな美女三人と私は一緒にいられるはずもなく、自然と私は三人の視界からフェイドアウトする。


 「それじゃ春ちゃんまたね」

 「うん、春またね」


 春ちゃんと言葉を交わし、その場を後にする。


 後ろでヒソヒソと話す声が聞こえるけど、きっと二人はまた私の悪口でも言ってるんだろうなと思いながら校舎に入り、教室を目指した。

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