第4話 映画完成試写会



  目的地の映画館に着き、控え室に移動して時刻を確認する。


 (午後九時か……)


 高校生の私が仕事をできるのは十時までなので、これが今日の最後の仕事となる……はず。


 なるよね?また何かあるとかないよね?


 二度ある事は三度も四度もある春ちゃんの事だ、まだ私に何かいい忘れた事があるのではと勘ぐってしまう。


 前に仕事が終わり、帰ろうとした時に春ちゃんの女優さんの友達が「今日はご飯行く約束したよね?なんで帰ろうとしてるの?」なんて言われた事があったけど、私は聞いてなかったのでもちろん断ろうとした。

 したんだけど、余りにもすごい目で笑いかける姿に頷くしかなかった。女優さんて怖い。


 そして行ったら行ったで食事中の会話は恋話で、私はニコニコして頷くしかなかった。

 全く恋愛経験のないデブスの私に恋話のキャッチボールはムリだ。


 こんな事は一度や二度ではなく、何度もあった。恋話以外の会話にもついていけず、全く楽しくない。作り笑いをずっとし続けなければいけなくて、本当にしんどかった。


 そう言えば、俳優さんともお食事に行った事もあったっけ。

 舐めるように顔や胸を見つめるイヤらしい視線が気持ち悪かった。

 具合が悪いと言って直ぐに逃げたけど、ちょっとしたトラウマで男性不信に……


 色々と思い出すだけで遠い目をしてしまう。


 私達の秘密を知らない人達は、私を春ちゃんのHaruだと思って声をかけてくるけど本当に困る。


 コンコン


 控え室のドアをノックする音に「はい、どうぞ」と返すと男性が入ってきた。


 入ってきた男性は若手俳優の篠崎夕しのざきゆうさんだった。


 篠崎夕さんは金髪で顔立ちも整っているし、ファンサービスもいいので、かなりの人気がある俳優さん。

 ただ、女性関係の悪い話をよく聞く。

 柴田さんにも篠崎夕には気を付けてって言われている。


 ちなみに春ちゃんの変わりにお食事に行った俳優さんで、私に少しのトラウマを植え付けた元凶なのできるなら本当に関わりたくない人物だ。


 「Haruちゃんこんばんは、今日はよろしくね」


 私の目を見つめ、挨拶をする篠崎さんに「よろしくお願いします」と笑顔で返す。たぶん笑顔はひきつっていたと思う。


 じっと私を見つめる篠崎さんのこの目が本当に辛い。

 篠崎さんに見つめられると何だかモヤモヤとして気分が悪くなる。


 最後の仕事が篠崎さんと一緒だと思うと気が滅入る。


 早くスタッフさん呼びに来ないかな……



◇◇◇



(篠崎夕side)



 今日の試写会は本当に楽しみだった。


 一緒に行った食事から久しぶりに会うHaruの事を考えると楽しみにしないわけがない。


 数々の女を喰ってきた俺でもHaruは本気で手に入れたいと思うほどの女だ。


 (本当にいい女だ)


 笑顔で俺に挨拶を返すHaruを間近で見れば見る程本当にそう思う。


 顔、スタイル、全てが完璧な俺好みで、早くHaruを俺色に染めてやりたい。


 俺はモテる。


 顔がいいのはもちろんだが、特殊能力を持っているのが一番でかい。


 その特殊能力は『魅了』


 本当にこの能力は最高でどんな女も入れ食い状態になる。

 こんな最高な能力を国に報告する?

 そんな事するなんてとんでもない。


 国に報告をするヤツはバカだ。


 この能力があれば全てが上手くいく。


 バレたら捕まる?


 そんな事は気にならないぐらいにこの能力は魅力的だ。バレなければいい。


 俺は俺の為にこの能力を使う。

 それがこの能力を授かった者の義務だ。


 それにしても食事会の時もそうだったが、今日もHaruに魅了の効きが悪い。


 映画撮影の時からずっとHaruに魅了をかけ続けてやっと最終段階まで魅了の効きがきた時に食事に誘い、二人きりの食事まで最後の仕上げとほくそ笑んでいたのに、食事の場に現れたHaruは魅了が解けていた。


 魅了は直ぐには効かない。


 時間をかけて少しずつ浸透させていく。

 魅了が浸透していく度に俺にしか分からないように目の色が変わる。


 白から始まり、直ぐに青になる。

 そして黄になるまで少し時間がかかり、最後に赤になった時には俺しか見えなくなり、発情したメスになる。

 魅了がかかれば男も女も関係ない。

 皆俺の言いなりになる。


 沢山の人に魅了をかければ俺の思い通りの世界になるが、管理が難しくなる。

 魅了は完全にかかっても一週間に一回はかけないと段々と解けていくからそんな手間な事はめんどくさいからやりたくない。

 だから今は気に入った女と、利用できるヤツにしか魅了をかけてない。


 そんな事より、魅了をかけると俺の経験上直ぐに目の色が青になるのに、目の前のHaruは魅了をかけ続けているにも関わらず目の色は変わらずに白。


 (なんできかねぇんだよ!)


 苛立ちを感じながら今もHaruと軽い会話をしつつ魅了をかけ続けているが、目の色は全く変わる様子がない。


 その内、スタッフが呼びにきて舞台挨拶の場へと移動になった。


 「クソ!」


 舞台に移動する廊下で、Haruとスタッフの後ろ姿を見ながら拳を握って小さく呟く。


 待ってろHaru。


 ───必ずお前を俺の物にしてやる


 舞台に立ち、沢山の歓声と拍手を向ける客を見下ろしながら、俺は笑顔で手を振り返して心に灯を点した。

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