第2話 二人の秘密とこの世界
この世界には特殊能力をもった人が一万人に一人の確率で生まれると言われている。
でも申告しない人もいるみたいなので実際にはもっと生まれる確率は高いらしい。
例えば犬の何倍の嗅覚を持った人や、出された料理の食材の産地や調味料まで正確に分かる味覚と、だいたいの特殊能力は人に害を及ぼさない能力で、それらの特殊能力を持った者は高い給料で国管轄の特能課の職員になるか、要請があれば国の為に貢献しなければならない。
でも、危険視されている特殊能力もあって、それらの能力者は必ず危険能力課に入る事が義務付けられていて、国の監視下におかれる。
その代表格が、魅了や洗脳など人の精神に影響を及ぼす特殊能力になる。
魅了は目を見つめるだけで自分に気がない相手でも好意を持たせる事ができる。そして洗脳は、人を操り都合のいいコマにする事ができる。
これらの他人に害を及ぼすような危険な特殊能力は勝手に使う事も許されず、発現した時点で国に報告しなきゃいけない。
これは日本だけじゃなく、全世界共通の特能法(法律)となっている。
もし報告もせず、勝手に使うと逮捕されて、特能刑務所に一生入れられ奴隷のように使い潰されるらしい。(私調べ)
そして『幼い頃に発現したこの私の特殊能力』は、危険視されている能力に当たると思う。
だって私は、容姿からスタイル、声に至るまでそっくりそのままの春ちゃんになれる。
そんな他人になれる能力は絶対に危険視されるに決まっている。
だって悪い事をしても、現行犯じゃなければ罪に問われるのは他人に変わった私じゃなくて、私が変わった他人の方だから人に害を及ぼす能力に分類されるだろう。
ただ、私の場合は春ちゃんにしかなれないから犯罪なんて犯さないけどね。そもそも悪い事をする気持ちもなし……
何故春ちゃんにしかなれないか分かったかと言うと、小さい頃に病気で亡くなってしまったお母さんや友達に試してみたけど変化はなかったから間違いないと思う。
あれ、そう言えば小さい頃の友達は何処に行ったの?
大きくなるにつれ、一人、また一人と減っていき、今では友達と呼べる人は春ちゃんしかいないや。
記憶にないけど私なんか気にさわる事したかな?色々と考えるとなんだか寂しい。
まっいなくなった友達の事を考えても仕方ない、それよりも私の特殊能力の事を国に報告していない事の方が重要で、国どころかお父さんも知らなくて、知ってるのは春ちゃんと春ちゃんのお母さんだけ。
春ちゃんと春ちゃんのお母さん以外に言えない理由は、勝手にこの能力を春ちゃんに使ってしまったからだ。
忘れもしない。あれは小学校一年の頃、一緒に遊んでいた春ちゃんが転んでしまって、助け起こそうと春ちゃんの両手を握った時だった。
体から何かが抜ける感覚と共に、起き上がった春ちゃんが『私と全く同じ容姿をしていた』のだ。
それからちょいちょい春ちゃんの両手を握って特殊能力を試したり、春ちゃんのお母さんから特能法について聞いたり、自分で調べたりして怖くなったり、『春ちゃんには「国に報告したほうがいいよ」』って言われたけど、三人で相談して報告しないって決めて今に至る。
私のお母さんが亡くなってからは春ちゃんのお母さんが私のお母さん変わりになって色々とお世話になっているので、川端家には私もお父さんも感謝している。まぁ私も川端家だけどね笑
それにしても本当にあの時はビックリした。
『春ちゃんが私と瓜二つになった』のだから驚かない訳がない。
そんな事より、時間がまずい。
かなりギリギリになってしまった。
私はスマホを取り出して事務所の社長兼マネジャーの
ちなみに 春ちゃんはスマホを二台持ってる事になってるので私から柴田さんに電話をかけても問題ない。実際春ちゃんは事務所から支給されたスマホと個人用の二台持っていて、個人用のスマホとして私のスマホの番号を柴田さんに教えている。ちなみに、春ちゃんの個人用のスマホの番号は柴田さんに教えていないし、私も知らない。
「春菜ちゃん今何処にいるの?」
「○○書房の近くにある公園です」
「あの小さな公園ね。迎えに行くからそこで待ってて」
「分かりました。トイレにいるので、着いたら電話して下さい」
「分かったよ。すぐに行くから」
柴田さんはそう言って電話を切った。
Haruになっている私が一人で歩いていたら街が大騒ぎになって大変な事になってしまうから柴田さんに言われたとおり、大人しくトイレで待つ。
柴田さんは大手芸能事務所で働いていたのを「自分でタレントを育てたい」と一念発起で今の事務所を立ち上げた人で、口癖のように「もっと事務所を大きくしてやりたい仕事をさせてあげるからね」と言ってすごく情熱を持ってHaruに向き合ってくれる。
仕事が出来て、アラフォーだけど綺麗な大人な女性で、私は密かに憧れている。
でも「なんでこの歳になっても結婚してないんだろう」と溢しているのを見ると、残念に見えてくるから止めてほしいと思ったりもしたりするけど、共に頑張っていきたいと思わせてくれる魅力があるから尊敬できるし、今まで春ちゃんの変わりだけどHaruとして頑張ってこれたのは柴田さんのお陰だと思う。
私は鞄からお水のペットボトルを出してストローを刺して口に含む。
ストローをしないで飲むと折角綺麗に塗ったリップが落ちるのが嫌だからだ。と言うのは建前で、落ちたらまた塗るがめんどくさいってのが本音だ。
春ちゃんはそんな事気にしないけどね。
「柴田さん早くこないかなぁ~」
◇◇◇
五分後、息を切らせて柴田さんはやってきた。
「は、春菜ちゃん時間がないから急ぐよ」
額に汗が滲む柴田さんに春ちゃんじゃなくてすいませんと心の中で一度謝ってから「はい」と返事をして急いで○○書房まで移動する。
移動中、私に気が付いた人達が話をしているのが見えたので、その人達にも春ちゃんじゃなくてすいませんと心の中で謝る。
柴田さんもそうだけど、ファンの人達やスタッフの人達皆を騙してるみたいでHaruになってる間は罪悪感がすごい。本当に申し訳ないと思う。
私だってこんな事はやりたくないんだけど、春ちゃんは仕事を選ぶ。特に握手会は大嫌いな部類だ。
見た目が不快な人に対して直ぐに表情に出してしまう。
Haruのファンだからちゃんと対応しなきゃいけないと私は思うのだけど春ちゃんはそうじゃない。
嫌なものは嫌なとハッキリと態度に出してしまう。
しょうがないから春ちゃんが嫌な仕事は特殊能力がある私がやらないといけないと思ってしまうのが不思議だ。
○○書房の裏口に着いた私と柴田さんは目を合わせる。
「いけるね?」
「大丈夫です」
柴田さんは私の返事に頷くと中に入っていく。
私も柴田さんの後を追いかけるように中に入って行った。
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