気分は殺し屋? 暗殺者?

「――この女に昨日の事を言いたくて言いたくて仕方がないんですぅ! もう我慢できそうにないくらい、喉まで出かかっているくらい、この女にッ! 言いたくて言いたくて堪らないんですよぉ!」


「あたしは〝そういうの〟で怖がったりしないから、普通にしてていいよ。あと、早く言って」



 蒲倉の迫力は相当なものだった。対象が俺だったらまずビビり倒していたはず。


 けれど、四羽はまるで動じず、それどころか淡々と言い返した。肝っ玉が据わっている。


 ――て、呑気に見守っている場合じゃないッ!


 蒲倉は四羽に昨日の事を打ち明けようとしている。それだけはどうしても避けたい。


 避ける理由は知られたくないから。四羽だけじゃなく、他の人達にも。


 墓場まで持っていきたいのだ――昨日の過ちを。


 だから何としてでも蒲倉を止めなくちゃならない。



「……なら遠慮なく――昨日、私と蒼紫くんはッ――――」



 言うよりも先に俺の体が動いた。



「んんんんッ⁉」



 蒲倉の背後に回って彼女の口を塞いだ。


 殺し屋のような身のこなしをやってのけた自分に内心驚きつつ、それ以上に防げた事に安堵する。



「……邪魔しないでよ、雪斗」



 蒲倉の後ろに回ったことで、正面にいる四羽と視線が交わった。


 口をあまり動かさずにそう言ってきた彼女の声音は凪いでいたが、見開かれた目はグルグルと闇が渦巻いている。


 四羽と喧嘩した事は今までにもたくさんあったが、今日ほど恐ろしいと思った事はない。


 でも、だからと言って引くわけにはいかない。



「四羽が気にする事じゃないから。気になるのかもしれないけど、諦めてくれ」


「……どうして? どうして言えないの? あたしに知られたらマズい事だから言えないの?」


「マズいマズくないとかじゃなく、言う必要がないからだよ。それは四羽に限った話じゃない」


「雪斗と蒲倉さんの……二人だけの秘密って事?」


「まあ……秘密ってほどの事でもないけど、四羽からしたらそうなるかな」



 平静を装ってつく嘘ほど、息苦しいものはない。


 こういう時、目を合わせていた方がいいのか、逸らした方がいいのか、非常に迷う。


 逸らすよりかは合わせていた方が怪しまれないのかもだが、正直どっちもどっちな気がする。


 嘘をついていると自分で知っているから、そう思うだけなのだろうが。


 因みに俺は目を合わせる方を選んだ。表情がおかしくなっていないか不安で不安で仕方がないが、多分大丈夫だろう。


 いや、そう自分に言い聞かせている。



「……………………」



 どうしてこんなに心の中でくっちゃべっているのか……それは四羽が黙ってしまったからに他ならない。


 あと10秒……あと10秒経っても反応がなかったら、こっちからアクションを起こそう。

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