もう我慢できません!

 それ以上は訊いてこないでくれ……が、紛れもない俺の本音だ。


 けどその本音を目で訴える事はできない。



「四羽が気にする事じゃない」


「…………あんな事って、何?」



 言葉を用いても、彼女の耳には届かない。


 同じ声音、同じ表情で同じセリフを繰り返したその様はまるで機械のようだ。



「放っておきましょ、蒼紫くん。この人のようにいきなり何するかわからない人は無視しているのが一番です。身の安全を守る為にも」



 蒲倉が言うと、どうにも説得力に欠ける。というか鏡に向かって言ってほしい。


 自分にも当てはまっている蒲倉の発言だったが、残念な事に間違ってはいない。


 今の四羽の瞳からは――蒲倉に近しいものを感じる。


 禍々しい、おどろおどろしい、そう言った不安を煽ってくるような眼をしている。闇のように底が見えない。



「さ、続けますよ? 蒼紫くん――はい、あ~ん」



 四羽のただならぬ様子もどこ吹く風。構う事なく続ける蒲倉。


 一つ、違うとしたらやり方が変わったくらいか。口移しじゃなく、箸で『あ~ん』の形だ。


 だがしかし、その豚バラ(以下略)俺のとこまで辿り着けずに……終わる。



「――――無視しないでちゃんと答えて」



 豚バラ(以下略)は……四羽の手によって握りつぶされてしまった。



「よ、四羽……お前、何してるんだよ……」


「……………………」


「……………………」



 相変わらず虚空を見つめている四羽は無表情。


 対する蒲倉はと言えば、目を閉じ微笑んだまま固まっている。


 どちらも怖い。口を出す事すら躊躇われてしまうくらい怖い。



「……蒼紫くん。もう、いいですかね?」



 間もなくして蒲倉が口を開いた。依然、瞼は閉じたまま。



「いいって……何が?」



 俺が聞き返すと蒲倉はようやく瞼を開いた。


 そこから覗かせた瞳は四羽と同じもので、違いがあるとすれば表情くらいか。


 無を貫いている四羽とは対照的に、両手で自分の顔を包んでいる彼女はとろけている。



「本当はわかっているんでしょう? こういう時まで焦らしてくるのはダメですよ蒼紫くん…………ああ、もう我慢できそうにないですぅ」



 そう言って立ち上がった蒲倉は四羽と真正面から向き合う位置に移動し、ドンッと机を叩いた。



「――この女に昨日の事を言いたくて言いたくて仕方がないんですぅ! もう我慢できそうにないくらい、喉まで出かかっているくらい、この女にッ! 言いたくて言いたくて堪らないんですよぉ!」




――――――――――――。

そこのあなた、大回転に★投げとけ

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