あんな事って……何?

 場所は移っていつもの空き教室。俺の対面には噓くさい笑みを浮かべている蒲倉が座っている。


 不本意ながら馴染みの光景になりつつある昼休みに幼馴染が加わって、今日は3人。



「……………………」



 いわゆる『お誕生日席』に座している四羽の無言の圧が凄まじい。



『……すまん、四羽。俺、昼は蒲倉と過ごすから』



 そう面と向かって言い放ったのにも関わらず、四羽はこうしてついてきた。


 しかもさっきから一言も発さずにいる……あんな事を直接言ってしまっただけに居心地が非常に悪い。


 いや、蒲倉と二人きりの時も居心地の良さなんて微塵も感じた事ないんだけども――――今の方が息しづらい気がする。



「――さて、〝幼馴染なだけ〟の四羽さんもいなくなりましたし、ちょっと遅くなり

ましたけどお昼にしましょうか! 蒼紫くん!」



 一方、蒲倉は四羽が口をつぐんでいるのをいい事にあおりにあおっている。



 蒲倉の中ではここに四羽はいないという設定になっているようだ。



『邪魔者には消えてもらうことにしますね』



 もしかして……消すってそういう事?



「ボーっとして、どうしたんです? 蒼紫くん」


「――え? あ、いや……何でもないよ」


「そうですか…………では早速――今日こそは完食を目指しましょうね?」



 ドンと机の上に置かれた弁当箱の中身は昨日とまったく同じものだった。



「もちろん――食べ方は昨日と一緒なので、こうして」



 う――嘘だろッ⁉


 昨日とは打って変わる状況で、嫌がらせ以外の何ものでもない蒲倉の提案。


 四羽がいる前でそんな事できるわけがない――というか仮にいなくても二度とごめんだ。



「それは無理だから! 絶対無理だから!」



 と、俺は断固拒否する姿勢を示した……のだったが、



「はひ、ほおぞ(はい、どうぞ)」



 彼女はしらっとした顔で豚バラのアスパラ巻きを咥えた。


 豚バラ(以下略)ゲーム、再び。しかも難易度は昨日より跳ね上がっている。



「は~ん(あ~ん)」



 キス顔で迫ってくる蒲倉にもちろん俺は抵抗する。拳でじゃなく言葉で。




 ――――ドンッ!




 …………どうやら言葉も必要なかったようだ。


 蒲倉の動きを止めたのは他でもない四羽だった。


 彼女が机を思いっ切り叩いたおかげで、蒲倉の口から豚バラ(以下略)が離れ落ちていったのだ。


 さすがの蒲倉もこれには無視していられず、あからさまな態度を取る。



「そういう力任せな事されるの、私も蒼紫くんも迷惑なんですが……ここにいるのが嫌なら出て行ってもらえません? というより、どうして四羽さんがここにいるんですか? 邪魔者認定された四羽さんが」




 蒲倉の猛毒を食らっても四羽は動じず、ただ一点を見つめたまま口を動かす。




「〝あんな事〟って……何?」




 蒲倉を見るわけでもなく、かと言って俺を見るわけでもなく、ただ虚空を見つめたまま四羽はそう訊いてきた。

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