物騒を用いた幼馴染
尋常じゃない気だるさ、これほどまでに最悪の朝を迎えたのはいつ振りか。
ベッドから上体を起こした俺は、ぽけーっと前にある壁を見つめる。意味は特にない。
頭が重たい原因は恐らく睡眠不足によるものだろう。昨日はベッドに入ってから寝入るまでにかなりの時間を要した。
で、夢すら見る事ができなかった質の悪い眠りをスマホの目覚ましによって叩き起こされ、今だ。壁を見つめながら『今日、学校サボっちゃおうかな』とか考えてしまうのも仕方ないというもの。
『きて――蒼紫くんッ』
思考を止めようとすれば、勝手に昨日の映像が脳内で再生されてしまう。
互いが初めてだったあのひと時……今思えばあれが夢だったんじゃないかとさえ思えてしまう程、現実味がなかった。自分の目が映しているのにだ。
『ん――あッ――』
俺は思いっ切り頭を横に振って、脳内に流れる昨日の蒲倉を吹き飛ばした。
代償で頭がより重くなった気がする。ついでに倦怠感もどこかへ飛んでいってくれれば良かったのに。
鉛のようにだるい体に鞭を打って起き上がり、外の光を室内に取り込むべく窓の前に。
「……曇りか」
残念ながらお日さまはまだ寝ているようだ。
「…………ん?」
空に向けていた視線を何となく――何となく〝彼女がよくいた場所〟に向けると――、
「――四羽ッ?」
そこには幼馴染の姿があった。
『電話出れなくてすまん。何か用があったのか?』
昨日の昼に送ったLINEにも返信がなかったから、てっきり今日も来ないとばかり思っていたが。
てか、体調不良じゃなかったんなら、どうして昨日は来なかったのだろう? LINEも無視だし……。
そう改めて疑問に感じていると、顔を上げた四羽と目が合った。
朝から元気よく、悪く言えば馬鹿みたいに大きく手を振る四羽。
そんな彼女に俺は口だけを動かし『すぐ行く』と伝えると、四羽は慌てた様子で両手を前に突き出した。待てという事だろう。
あーもうじれったい! と俺は窓を開けて、彼女に言葉を投げる。
「どうした?」
「――雪斗! 今日の昼休み、空けといて!」
「え、何で?」
そう俺が聞き返すと、四羽は「ちょっと待って」と言って鞄を漁りだし、やがて猫型ロボットのポーズを取った。
「今日、雪斗の分も作ってきたの! 一緒に食べよ!」
彼女が持っていたのは風呂敷に包まれた箱――すなわち弁当箱だった。
「前も言ったけど、俺は学食派だから。いらんぞそれー」
「ダメ! せっかく作ってきたんだから断るのはナシ! ……もし破ったら」
そこで言葉を区切った四羽は、何故か下を向いてスマホを弄りだした。
――――で、
「雪斗ッ! スマホ見てみて!」
再び顔を上げた四羽がそう言ってきた。
俺は言われた通りに動く。
スマホを起動すると、1件のLINEが入っていた。送り主は四羽で、その内容は――、
『殺すから』
物騒そのものだった。
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