天気の急変にご注意ください4

 蒲倉の言う大丈夫の意味が何を指しているのか、それがわからない。


 ただ、蒲倉の様子は明らかに変わった。


 オアシスを見つけたかのような興奮から一変、今は不気味なほど落ち着いている。


 濡れる事などお構いなし、駆け出してまで求めた便所を、今はまったく必要としてないように見える。


 なら、尿意はいずこへ?


 ………………まさか。


 俺は蒲倉が豪快に抱きつきに行った水溜りに視線を向ける。上空から落ちてくる雨粒が多くの波紋を生み出している。見ただけではわからない。


 次に蒲倉のスカートから下に視線を移す。こっちもこっちで見ただけではわからない。



 ――――でも、どうしてか。



「どうしたんです? 蒼紫くん。キョトンとした顔して」



 蒲倉の表情は心なしかすっきりとしている。


 考えられる可能性としては一つ……転んだ衝撃で意図せずスッキリしてしまった、だ。


 けど、しかし――蒲倉に限ってそんな事があり得るだろうかッ?



「トイレは……いいのか?」



 俺は思い切って蒲倉にそう訊いてみた。


 すると、蒲倉はニコッと笑って落ち着いた声音で答えた。



「もう、大丈夫です」


「……そうか」


「はい」



 三度目の大丈夫にして、俺は悟った。これ以上は詮索するべきじゃないと。



「――どこ行くんだよ」



 横を通り過ぎ、公園を後にしようとする蒲倉の背を、俺は引き留めた。


 蒲倉は振り返らずに答える。



「どこにって……家に帰るんですよ」


「蒲倉の家、ここからだと歩いてどのくらいかかるんだ?」


「う~ん、どうでしょう? 大体1時間くらいとかですかね」


「マジか……あ、ならこれッ! 傘ッ!」


「ああ……それは蒼紫くんに差し上げますよ。どうか大切に使ってあげてください」


「いやいやいや返すってッ! というか、1時間も雨に打たれてたら間違いなく風邪引いちゃうぞ?」


「……ふふ。やっぱり、蒼紫くんは優しいんですね」



 蒲倉は雨音に搔き消されそうになるくらいの声量でそう言い、肩越しに振り返ってくる。



「お気持ちだけで十分です。何というか今は……雨に濡れたい気分なので」



 ……………………………………。






蒲倉かばくら詩奈しな




 きっと――きっと大丈夫。蒼紫くんは優しいから大丈夫。私をこのまま帰したりはしない。





「こ――これでッ! ……これで、風邪とか引かれたりしたら後味悪いから……うち、寄ってくか? も、もちろん、蒲倉さえ良ければだけど」








 ほらやっぱり――――私の蒼紫くんは誰よりも優しい。

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