天気の急変にご注意ください2

「「………………………………」」



 どうしよう……会話が、生まれない。


 学校を後にしてからここまで大体10分ぐらいだろうか。体感的には授業一回分ぐらいは経過している気がするが…………その間、蒲倉とは一言も交わしていない。


 今までも蒲倉と一緒にいて無言の時間がなかったわけじゃないが、初っ端から――しかもこんなに長く続いた事はなかった。


 普段、会話の主導権を握っているだけに、黙られると非常に気持ちが悪い。そして、非常に怖い。



『言い訳って…………あ――じゃ、じゃあいっそ俺の事嫌いになってみれば?』



 あれか? 俺の発言を根に持っていて、それを無言でアピールしてきているんだろうか?


 パッと思いつく理由としてはそれしかなかった。更に言えば蒲倉が不機嫌になる要素も満たしている。


 一応、学校を出る前に冗談だと伝えてあるけど、一方的だったが故に有耶無耶になってしまったのかもしれない。


 ここはもう一度訂正を入れておくべきと判断し、俺は隣を歩く蒲倉に話しかけた。



「あの、蒲倉さん?」


「え――あ、はいッ、何ですか?」


「さっき俺が言った事、気にしてたりする?」


「さっき? ……ああ、あれは蒼紫くんが冗談だと仰っていたので、気にしてなかったですよ」


「あ……そう」



 ………………あれ? 違った?


 拍子抜けとはまさにだった。


 強がっている風でもなく、笑顔で青筋を立ててるわけでもなく、本当に気にしていない様子の蒲倉。


 それがあまりにも意外過ぎて、俺は逆に焦ってしまう。


 気にしていないのに無言でいるのか? 今まで自分をさんざっぱら押し付けてきたヤツが?


 にわかには信じ難いというか、おかしい気がしてならない。他に要因があると見るべきが正しいと思う。


 ではその他の要因とは何か? と、考えを巡らせようとした瞬間、あるものが目に留まった。


 その何かとは蒲倉が手にしている傘だ。学校からここまでずっと彼女に持たせてしまっていた。


 相合傘となれば男が持つべきが普通というか理想だろう。蒲倉より俺の方が背が高いんだから尚更。



「すまん蒲倉、ずっと傘持たせちゃってて――俺が代わるよ」


「あ、すみません。ありがとうございます」



 と、蒲倉から傘の柄を渡され、それで終わり。


 これもまた、無言でいる理由とは到底思えない反応だった。


 もう……お手上げです。


 その後も色々考えたり観察したりしたが、それらしきものは結局見えてこなかった。


 で、諦めて本人に直接訊く事に。



「あ、あのさ蒲倉」


「は――はい」


「ひょっとして……怒ってる?」


「怒ってる? 私がですか?」


「そ、そう」


「どうしてですか?」


「そ、そりゃぁ、まぁ…………やけに静かだから?」


「――――ッ⁉」



 何とも恥ずかしい台詞だなぁ――――と、俺は曇った空を見つめながら鼻の頭を掻く。



「………………」



 投げた言葉のボールが一向に返ってこず、不思議に思った俺は蒲倉を横目で見やる。



「か、蒲倉? どうした?」



 俯き加減でいる彼女は耳まで赤くしていた。

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