四羽は見た2
ちょっと――蒲倉さんッ⁉ な、何をしてるのッ!
お弁当のおかず(アスパラ巻き?)を咥えた蒲倉さんが、雪斗に顔を近づけているのを見て、あたしは一人動揺する。
『――どうぞ! 今日も今日とて蒼紫君が美味しく食べてくれるところを想像しながら作ってきました!』
ま、まさか雪斗……お昼はいつも、蒲倉さんとこんな事して。
それは嫌だ……嫌だけど、目の前には説得力のある光景があって、認めざるを得ない。
「………………」
認めざるを得ない……なんて切り替えの良い答えを導きだしておきながら、それでもあたしは引き戸に張り付くのを止めない。
あたしは往生際が悪いから。
『普通に食べさせてくれない?』
雪斗の困りきった声を聞いてあたしは安堵する。
それから蒲倉さんに対していい気味だとも思った。何だかんだであたしと同じ一方通行なんだと。
『もお……蒼紫君たら。焦らしてくるのはナシですよぉ』
でも違った。
『――普通には食べさせませんよ』
あたしには真似できない程、蒲倉さんは積極的だった。
『普通には食べさせません。食べないという選択肢も許しません……従ってくれないのなら』
……積極的?
『さっきのアスパラ巻きのように、蒼紫君を千切り殺して私も死ぬのでそのつもりで』
……いや、積極的というかもうこれ――単純に脅しているだけでは?
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花――に、近い感覚をあたしは覚えた。
二人を見てお似合いなんじゃと勝手に危機感を抱いていたけど、実はそうじゃなくて雪斗は嫌々付き合わされているんだと……そう。
『ほおぞ、あおひくん(どうぞ、あおしくん)』
蒲倉さんは性懲りもなくオカズを咥え、雪斗を誘う。
『…………』
しばらくして無言のままいる雪斗が動いた。脅し文句を鵜吞みにしたが為に仕方なく。
だからあたしは急いでスマホを取り出し、雪斗に電話をかけた。気をしっかりという意味を込めて。
『へたらほろひまふよ?(出たら殺しますよ)』
間抜けな喋りながらも圧は十分だった。それが雪斗にも伝わっていたからこそ、振動するスマホをに伸ばした手を止めたのだろう。
――――――――――――ッ。
不意にだ。不意に蒲倉さんと目が合った。それも偶然ではなく、ピンポイントで。
多分最初から、もしくは途中からあたしの存在に気付いたんだろう。
咄嗟に身を隠したあたしは、そうやって早々に答えを出す事で乱れた呼吸を整える。
それから間もなく、あたしは腰を上げその場を静かに去った。
これ以上は観察しても意味がない。中で何が起きているかは容易に想像がつく。
「………………」
昨日、雪斗の家で蒲倉さんが待っていたのも実はもっと違う理由かもしれない。
好きなオカズを聞きたかったからなんてのは建前で……狙いはあたしだったとか。
事実、あの時あたしは雪斗の言葉を聞いてショックを受けていたし。
となると、蒲倉さんは雪斗の事がよっぽど好きなんだと窺がえる……あたしにはそこまでできない。
正直、尊敬する。でも、見過ごすわけにはいかない。
それは、自分の恋路を邪魔されたくないからなんていう傲慢なものじゃなく、もっと単純で。
〝好きな人を助けたい〟という、ただそれだけの理由だ。
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