四羽は見た1

 教室を出たあたしは雪斗が消えていった方向へと足を進めた。


 弁当派じゃない雪斗が昼休みに向かう場所なんて容易に想像がつく。


 そして想像通り、雪斗は何人かの友達とテーブルを囲んでいた。


 いや……更にもう一人、雪斗に近づく影がある。



「――――――――――――」



 蒲倉さんだ。


 距離があるせいで何を話しているのかまでは聞き取れないけど、遠目から見てる分には親し気だ。



『最近さ~、やたら蒼紫と蒲倉が一緒にいるとこ見るよね~』


『うんうん! 見る見る!』


『そん時の蒲倉……完全に女の目ぇしてるよね~』


『蒼紫様~♡ ってね』


『余裕ぶっこいってたらいつの間にか取られてそう』


『この泥棒猫ッ!』


『それそれ~』



 3週間前の美紀と真彩のやり取りが脳内で鮮明に再生され、あたしは口元をキュッと結ぶ。


 二人からのいじりは過去に何度もあった。けど、苛立ちを覚える事はなかった。


 だからこの間のは初めてだ。ムカついてムカついてしょうがなかった。



『ふふ、そうでしたね。でも、傍から見てるとお二人はカップルにしか見えませんよ? ……蒼紫君、実は四羽の事好きだったりして』


『だから、俺と四羽はそういうのじゃないって……それもお昼の時に言ってるけど』



 昨日、雪斗の口から拒絶にも満たない言葉を聞かされた。これも初めてだった。


 言葉にされなくてもわかってはいたけれど、やっぱりしんどかった。


 でもいい機会だなとも思えた。


 心のどかで雪斗とは結ばれないと諦めていたから。


 それなのに強引に可能性を見出しては縋りついてに疲れたから。


 これでようやく終われると、昨日は安堵までした…………だけど今、あたしはこうして雪斗の後を追ってきてしまっている。


 往生際が悪いんだ……あたしは。



 ――――――――――――。



 その後、雪斗と蒲倉さんは二人だけで移動した。


 場所は特別教室棟の空き教室。あたしは僅かに開いてる引き戸の隙間から中の様子を窺がった。どうやらこれから二人でお昼を嗜むようだ。


 おかずがない、実はこっちに詰めてある……なんてコントみたいなやり取りを繰り広げている二人。こっちからだと雪斗の表情は見えないけど、蒲倉さんはとても楽しそうにしている。


 ……雪斗、あたしがお弁当作ってあげようかって言った時は『学食派だから』の一言で断ってきたのに、蒲倉さんのは食べるんだ。


 諦めるのはまだ早いんじゃないかって思ってしまったばかりにこんな気持ち……やっぱり後を追うんじゃなかった。


 あたしはすぐにでもその場を後にしたくなった。


 でもできなかった。何故なら――、



「――あい、ほおぞ(はい、どうぞ)」



 蒲倉さんが大胆な行動を取ったからだ。

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