豚バラ(以下略)か死か

 何だこれは……罰ゲーム?


 プルプルと小刻みに震えている豚バラ(以下略)を見つめながら、俺は眉をしかめる。



「はやふ……ひへふははい(はやく、してください)」



 頬を赤く染め、瞳を揺らしている蒲倉が顔を近づけてきた。官能的が過ぎて男心が悲鳴を上げている。



「もお……はやふひへおう(はやくしてよお)」



 豚バラ(以下略)の先端を上下させ急かしてくる蒲倉。何を求めてきているのかは一目瞭然だが……これはさすがに。



「あおひふん(あおしくぅん)」



 蒲倉の口元からとろ~んと少量のヨダレが垂れ落ちていくのが見え、ポッキーゲーム改め豚バラ(以下略)ゲームを成功させたい衝動に駆られてしまう。



「すぅ――――ハァァァ」



 が、どうにか自分を見失う事態は防げた。深呼吸って偉大。



「……あの、さ」


「?」



 目をパチクリさせている蒲倉に俺は些細なお願いをする。



「普通に食べさせてくれない?」


「……………………」



 潮が引くように彼女の表情が冷めていく。


 この後、向こうがどう出てくるか……俺が構えの姿勢でいると、蒲倉は咥えたままの豚バラ(以下略)を思いっ切り噛み千切った。



「――――ッ⁉」



 分断された豚バラのアスパラ巻き。一方は当然彼女の口に中。もう一方は宙を舞い、やがて白飯の海に着水した。


 たったひと噛みで真っ二つとか――どんだけ鋭利な歯してんだよ! なんて突っ込みをする心の余裕が、俺にはなかった。


 どうしてか自分に置き換えてしまったんだ……真っ二つになった豚バラのアスパラ巻きを。


 次、断ったらどうなるか……わかっていますよね? 蒼紫君。


 無表情で咀嚼そしゃくしている蒲倉の目が、そう語っている……ような気がする。


 程なくして彼女の喉が上下に動き、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。



「「………………」」



 息がしづらい沈黙の時間は、そう長く続かなかった。



「もお……蒼紫君たら。焦らしてくるのはナシですよぉ」



 俺の言った事が聞こえていなかったのか。蒲倉は呆れたように笑いながらもう一度、豚バラ(以下略)に箸を伸ばそうとする。


 だから俺は彼女を止めるべく咄嗟に手を伸ばしたのだが、



「――普通には食べさせませんよ」



 その一言で一蹴いっしゅうされた。



「普通には食べさせません。食べないという選択肢も許しません……従ってくれないのなら」



 依然、口元を緩めたままの蒲倉が瞳だけをぎょろりと動かし、俺を捉える。



「さっきのアスパラ巻きのように、蒼紫君を千切り殺して私も死ぬのでそのつもりで」



 ……………………………………………………。

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