彩り鮮やかから一変……箱の中身は真っ白で

「――どうぞ! 今日も今日とて蒼紫君が美味しく食べてくれるところを想像しながら作ってきました!」


「…………」



 昨日と同じ時間帯、同じ場景。特別棟にある空き教室にて、一つの机を挟んでクラスの女子と向き合っている。


 俺の前には風呂敷を脱いだお弁当箱がどしっと構えている。どう見たって一人前の大きさじゃない。


 あれ? というかお前、学食に行ったんじゃなかったっけ?


 なんて疑問の声がどこからか聞こえてきそうだから説明させてもらう。


 まず、俺はあの後ちゃんと学食に向かって大好きな肉うどんを注文した。


 んで、頂きますと手を合わせたところで、



『――そんなものでお腹を満たしてはダメですよ? 蒼紫君』



 こいつが現れた。



『今日も蒼紫君の為にお弁当を作ってきましたので、是非一緒に!』



 ドンッ! と文字エフェクトと共に登場したのは昨日よりも大きめのサイズの弁当箱だった。



『うどん、伸びちゃうから……今日は無理かな』



 ドンッ! と、今度は文字エフェクトではなく音が、騒々しい学食内を静まり返らせた。


 見れば友人が机に両手を突いて立ち上がっていて、鬼の形相で俺を睨みつけていた。



『……行け、雪斗』


『いや、でもうどんが伸びちゃうし』


『お前の肉うどんは俺が責任を持って完食するから……行け』


『あ……うん――俺、普通に肉うどんが食いたいんだけど――』


『――行けえッ! これ以上、女神に悲しい顔させるな』



 で――俺の友人の迷惑すぎる後押しの結果、今というわけだ。


 蒲倉教の信徒とたとえがしっくりくる友人が近くにいる限り、俺は蒲倉からの誘いを断れない。


 もしかしなくても、彼女はその状況を狙って――。



「――フフッ」



 大いにありそうだ。目的の為には手段を選ばないをモットーにしていそうなタイプの人間だし。


 だとしたら、しばらく昼時は一人でいた方がいいな……うん、そうしよう。


 それよりも――。


 俺は目の前に置かれた重厚感ある弁当箱から蒲倉に視線を移す。


 さっきからずっとソワソワしている様子が視界に入っていたけど……まさか、今回もやったか?



『卵焼きに、隠し味として……その、私の〝汗〟を少々、加えたんですよぉ』



 味にこそ影響はしていなかったが、行為そのものに問題があった昨日。隠し味と称してまた体液か何かを入れているかもしれない。


 念には念を……確認しておくべきだろう。



「今日のこれにも、隠し味とか入ってる?」


「隠し味? ああ、昨日みたいな事はしてませんので、安心してください。それより――ささ」



 早く早くと手で急かしてくる蒲倉。


 正直、半信半疑ではあるが……まあ中身を見てから判断でも遅くはないか。


 半ば自分に言い聞かせるようにして、俺は弁当箱の蓋を開けた。



「……何これ」



 昨日の彩り鮮やかな品々とは打って比べてシンプルだった。


 シンプルと言うより……手抜きと言った方が的確か。


 箱の中身は白飯以外見当たらない。

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