幼馴染と家に帰ればヤツがいる
『あなたへの好きが止まらないんです』
俺は自分の唇を指でなぞり、見かけによらずザラついていた蒲倉の下唇の感触を思い出す。
いつもいつも俺の予定や迷惑を考えず誘ってきて、挙句あんな大胆な行動を取って……そんな奴でも緊張したりすりのだろうか?
いや、ないな。単純にあんまり水分取ってなかっただけだろう。
それよりも気にする事があるだろ! と俺は頭の中の雑念を振り払い、思考を一点に定める。
『邪魔者には消えてもらう事にしますね』
邪魔者が誰を指しているかは明白、蒲倉自身も口にしていた通り四羽の事を指している。
なら消えてもらうとは具体的に?
……まさか、四羽を亡き者にするとか。
いやいや、さすがにそれは悲観的すぎか。いくら蒲倉がヤンデレ気質と言ったってそこまでは……愛が重すぎて視野が狭すぎるだけだし。
……でも、視野が狭すぎる人が罪を犯したりするんじゃ。
いやいやいやいや考えすぎだってッ、俺!明日は我が身とか言うけど、それでもやっぱり夕方の物騒なニュースは他人事に思えちゃうもの。自分の周囲に限ってはそんな事と深く捉えないもの。
「――雪斗、大丈夫? さっきからずっと顔色悪そうだけど」
「えッ?」
ハッと目が覚めるような、そんな感覚。
そうだった……俺は今、四羽と一緒に帰ってるんだった。
と、隣を歩く四羽に声をかけられ、俺は思い出す。経験した事ないが、白昼夢もこんな感じなのだろうか。
「何か嫌な事でもあった?」
「いや、別に? 何もなかったけど?」
「……ふ~ん」
納得とは程遠い四羽の表情。視線を前に戻した彼女の横顔はどことなく険しかった。
その事に俺は触れず、黙ったまま四羽を観察する。
夏休みを終えすっかり真面目になった彼女の髪色も、今では陽の光に当たると茶色に輝く。
幼い頃からショートカット一筋だっただけに違和感が強烈だったが、ここ最近ようやっと四羽の髪型に慣れてきた。
夏休み明けから一度も切られていない彼女の髪は肩にかかるくらいまで伸び、雰囲気も著しく変わった。何というかこう、大人っぽくなった。
「……ねえ雪斗」
「ん?」
「今日、久しぶりに雪斗の家行っていい?」
「いいけど、何するんだ?」
「ん~……特に考えてないけど、なんとなくお邪魔したいなって思って。ダメ?」
「なんだそりゃ……まあいいけど」
断る理由はないけれど、
「――ありがと!」
……そう言えば、四羽の笑顔を間近で見たの、随分久しぶりな気がする。
―――――――――そして。
〝ソイツ〟はさも平然と、蒼紫家の前に立っていた。俺達の帰りを待っていた。
「――今日も今日とてお二人で仲良くご帰宅ですかぁ! いやぁ、微笑ましく羨ましい限りですね!」
楽し気な口元に相反するように、ソイツ――〝蒲倉〟の目元は冷たかった。
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