権利……あるんですか?
「ええ、そうです。だから蒼紫くんが心配することはなにもありません。全部全部ぜーーーんぶ、私に任せてくれればいいんです私に預けてくれればいいんです。たまたま〝家が近所〟なだけで、一緒にいる時間が多かったってだけで、仲が良いってだけで蒼紫くんの隣を占領している邪魔で邪魔でうっとおしくて目障りで独占欲の塊でしかない四羽さんにはッ…………私から言っておきますから。『蒼紫くんの前から消えてください』……と」
一瞬でも……一瞬でも蒲倉に心を許しかけた俺は――――大馬鹿者だ。
一緒にいる時間が多かった=俺と四羽が幼馴染であることを知っているのはまだいい。が、家が近所なのをさも当然のように知っている口振りはおかしい。それだとまるで、俺の家をとうに把握しているみたいじゃないか。
どういった経路で知り得たのかはわからない。誰かに聞いたのかもしれないし、俺が気付かなかっただけで尾行されていたのかもしれない。
だからこの際、過程はどうでもいい。最悪なのは蒲倉が俺の住む場所を把握しているってことだ。
「~~~♪」
好き勝手ぶちまけた蒲倉はスッキリした表情で、鼻歌交じりに弁当箱を片づけ始める。
人の迷惑をこれっぽっちも考えず、好きだからって理由だけで自分第一に行動しやがって……。
沸々と腹の底で煮え立つ感情が、ギュッと握りしめた両の拳を震わせる。悠長に片づけをしている蒲倉に怒鳴れるのなら怒鳴りたい。
けど、それはできない。どうしても先のことを考えてしまい、恐怖が纏わりついてくるからだ。しかも、家を知られているとなったらより一層。
だからといって四羽と関係を断つのに納得したわけじゃない。というかできるわけがない。誰かの指図で断たれるような関係ならこれほどまでの怒りを覚えないし。
「さ、さすがにさ……それは、どうかと思うよ?」
でも結局、怖さが勝ってしまうのだ。
「ん? なにがですか?」
こっちに顔を向けず、手を動かしたまま聞き返してきた蒲倉。
本当に言ってる意味がわかっていなそうな様子に狂気を感じつつ、俺はすっかり乾いた喉に唾を流し込み、否定の言葉を放つ。
「いや、だから……俺と四羽の関係を蒲倉が断たせるのはおかしくない? って話で……そんな権利ないでしょっていう――」
乾いた音が俺の言葉を遮って室内に鳴り響いた。それは箸が床に落ちた音で――。
「権利、ですか…………じゃあ逆に聞きますけど、四羽さんが蒼紫くんを独占する権利はあるんですか?」
不思議なことに蒲倉の口元は綻んでいて、故に渦を巻いたような闇深い瞳がこれでもかっていうぐらいに恐怖を煽ってくる。
殺されるんじゃッ――とさえ思えてしまうほどに。
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