大馬鹿者

「……でも、安心しました。一度は疑ってしまいましたが、私は蒼紫くんのすることなすこと全てに肯定します。だから、蒼紫くんが四羽さんに気がないことも信じます。その反対も絶対にない、それも信じます」



「そ、そう」



「はい。ただ、そうなると蒼紫くんと仲が良いだけの四羽さんの存在が邪魔になります。ですので蒼紫くん、彼女との関係を断ってください。できないのであれば、誠勝手ながら私が対処します」



「……………………」



 よくもまあつらつらと勝手なことが述べられるもんだな……。


 自分が関係していながらも、どこか他人事のような感想。悪びれる様子なくここまでの独善を吐かれた俺は逆に感服していた。


 多分絶対、一生をかけても俺は蒲倉の域には到達できないだろう。


 一体どれほど面の皮が厚かったらあそこまでの自己中心的な発言を平気でさらっと口にできるんだろうか? 凡人の俺には到底理解できない。



「どうしたんです? 蒼紫くん」



 名前を呼ばれ、逃げに走っていた思考を現実へと戻す。



「無理に……決まってるだろ」


「そうですか、そうですよね。心優しい蒼紫くんなら必ずそう言うと思ってました。昔からずうっと仲が良かった四羽さんに自分から関係を断つなんて真似、優しい優しい蒼紫くんにできるはずがありませんよね」


「……わかって、くれるの?」


「もちろんですよ、私だって嫌ですから。蒼紫くんが辛い思いをするようなことを強要したりしたくありませんし、苦しんでいる蒼紫くんを見たくはありませんから」


「…………そ、そっか」



 微笑みながらそう言った蒲倉に、俺は呆気に取られながらも短く返した。


 彼女に人の心がまだ残っていたことが意外だった……でもそれ以上に安堵の方が強かった。



「ええ、そうです。だから蒼紫くんが心配することはなにもありません。全部全部ぜーーーんぶ、私に任せてくれればいいんです私に預けてくれればいいんです。たまたま〝家が近所〟なだけで、一緒にいる時間が多かったってだけで、仲が良いってだけで蒼紫くんの隣を占領している邪魔で邪魔でうっとおしくて目障りで独占欲の塊でしかない四羽さんにはッ…………私から言っておきますから。『蒼紫くんの前から消えてください』……と」



 一瞬でも……一瞬でも蒲倉に心を許しかけた俺は――――大馬鹿者だ

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