――――――好きなんですか?

 さ――最終的にとんでもないとこに着地したッ⁉


 俯瞰で視れば、蒲倉詩奈という女子の風体だけで考えるなら、断る理由はないだろう。世の男性方にアンケートを取ったら如実に表れると思われる。


 女性にいつでもウェルカムと言われたら突き進むのが男の鉄則なのだろう。童貞の俺でもなんとなくわかる。


 女性にそこまでさせておいて応えないのは男の恥だと。


 だがしかし、彼女と肉体関係を持つのは非常にリスキーだ。行為をすることによって俺に好意があると勘違いされたら厄介極まりない。欲求に負けたら取り返しのつかない自体になっていた、なんてのはごめんだ。


 やりたくないと言えば嘘になるがな。


 蒲倉が顔を隠してるのを良いことに俺は自嘲の笑みを浮かべ、遠慮の言葉を彼女に返す。



「悪いけど、俺は蒲倉とそういうことをするつもりはないから。待たなくていいよ」


「…………………………」



 仮面の役を担っていた蒲倉の両手がするりと下りた。露わになった表情は無。



「私とでは不満ですか? 私のどこが、なにが、嫌なんですか? 不満に感じる点があるのなら遠慮なく言ってください早急に直しますので」


「あ、いや、不満とかじゃないんだけど……」


「不満でないのならいいじゃないですか。私と一つになっても」


「そういうわけにはいかない……なんて言うかな、その、気持ちの問題? 的なあれで」


「気持ちの、問題ですか…………私は構いませんよ? 蒼紫くんが私のことを好いていなくても構いません。喜んでこの身を捧げます。なので頂いてください蒼紫くん」


「いやだから、蒲倉が良くても俺が良くないから」


「……………………」



 押し問答にも似た会話の末、蒲倉は視線を机上に落として口をつぐむ。


 気まずい沈黙の時間が流れる。が、これで蒲倉が理解し諦めてくれるのならこんな息苦さなんて屁でもない。


 体感上では長く感じられるこの時間も、実際は1分にも満たないのだろう。そんな雑念に縋っていると、緊張の原因である蒲倉の瞳が再び俺を捉える。



「一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「え? あ、うん。なに?」


「……………………」



 自分から訊いてきておきながら中々次の言葉を発してくれない蒲倉は、ただじーっと俺を見つめるばかり。


 なんだよなにがしたいんだよと腹が立ちつつも、それを表情に出してはいけないと俺は気を張る。


 苦しい沈黙の再来かとも思われたがそうはならず、蒲倉は淡々とした口調で言う。



「蒼紫くんは〝四羽よつば〟さんのことが好きなんですか?」


「…………はああああああああああああああッ⁉ おおお俺が――四羽のことをだとッ?」



 想定外だった。前もって予想したとしても絶対に当てられない箱の中身に思わず声が裏返ってしまった。


 まさかこの流れで――〝幼馴染〟の名前が出てくるとは。

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