とんでもない着地点
開いた口が塞がらなかった。これほどまでに仕草と発言の内容が合っていないのも稀だ。
けれども正気を疑う程ではなかった。蒲倉の頭のネジが外れていることなどとうに知っている。
疑う余地がないんだ……彼女は正気じゃない。
その上で、汗はやばい。知らない方が幸せなこともあるとはよく言ったものだ。普通に美味しいと思ってしまったし。
隠し味として蒲倉の汗が含まれていましたという衝撃の事実に吐き気まではいかずとも、胃に違和感のようなものがある気がしてきた。思い込みかもしれない……しかし、思い込むなという方が無理がある。
「あの、それで改めて、どうでしたか? ……私と、その、一つになれて」
いやいやいや言い方ッ! と内心でツッコミを入れつつ俺は愛想笑いを浮かべ、今後このような迷惑行為はしないでくれとさりげなく伝える。
「えっと、うん……あの、味はまあ美味しかったっんだけど、こういうことはちょっと――」
「きゃあああああッ! 蒼紫くんが――蒼紫くんが私を頂いて美味しいだってッ! やだもう直接的過ぎますって恥ずかしい! けど嬉しい!」
人の話を最後まで聞いてくれない蒲倉は、顔を両手で覆って落ち着きなく左右に上半身を揺らす。
「いや、だからあの今後こういった真似は――」
「ちょっと待ってくださいッ! 私と蒼紫くんが一つになれたってことはつまり…………妊娠した可能性も」
「…………え、なんて?」
俺は彼女が口にしていたことをはっきりと聞き取れていた……しっかり聞き取れたからこそ、聞き返したのだ。だって意味が分からないんだもの。コウノトリが運んでくるを信じている方がまだ可愛げがあるもの。
されど蒲倉には俺の声が届かず。指と指の隙間から渦巻く瞳を覗かせた彼女は一人舞い上がる。
「もし……子供ができたら……名前、どうしましょうか?」
「そんなもしもは絶対に起きんからッ! どうもなんないから安心してッ!」
聞き間違いではなく、彼女の言い間違いというわけでもなく、故に俺は指摘せずにはいられなかった。
どういう人生を歩んできたら他人の汗を体内に取り入れる=妊娠って発想になるのやら。まさか、この歳にもなって赤ちゃんの作り方がわからないとか? …………え、そんなことある?
依然、隙間から瞳を覗かせている蒲倉に、俺はそれとなく訊いてみることにした。
「あの、さ……仮に蒲倉の言ってたことが正しかったとすると、男でも出産できちゃう世の中になっちゃうわけなんだよ。でも現実にはいない。そりゃ専業主夫はいるけれども、自分の腹を痛めて産んだ経験がある男なんてこの広い世界どこ探してもいないんだよ。出産できるのは女性の方だけで……それであの、具体的な妊娠の方法はご存知で?」
「し、知ってますよッ! さっきのは冗談です! 私だって子供じゃないんですから…………えっち、ですよね」
勢い良かった出だしと比べ消え入りそうな言葉尻。俺がコクリと頷いて見せると、蒲倉は指と指の隙間を閉じ、再び顔を両手で覆い隠した。
「あああああ――蒼紫くんさえ良ければ……私はいつでも構わないですからね? え……えっち」
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