こうして女神様とお近づきになれましたとさ

 蒲倉の口元を片手で押さえ、自分の体を密着させることで身動きを封じ、空いた方の手で彼女の胸を鷲掴んだ藤二。


 言い訳のしようがない愚行に走った藤二を止めるべく、ゴミ置き場の隅に隠れて備えていた俺は飛び出ていった。



『――あ、蒼紫ッ⁉』



 茂みを踏む音に反応した藤二の俺を見る表情は驚愕そのものだった。


 咄嗟に蒲倉を解放した藤二は、無理がありすぎる余裕のない笑みを浮かべた。


 その間に蒲倉は逃げ出し、俺の背に隠れた。



『ど、どうしたんだい蒼紫。そんな怖い顔して……』


『……………………』


『な、なにか勘違いしてるみたいだから先に説明させてもらうけど、さっきのは僕が強引にってわけじゃないからね? お互い合意の上で…………そ、そうだろ? 詩奈』



 俺のシャツを握る蒲倉の手が一層強くなったのがわかった。藤二の問いに彼女は黙ったままいたが、それがなによりの答えだった。



『悪いが藤二……一部始終は動画に収めてある。お前がどれだけ弁解しようと、第三者が一連の流れを観たら間違いなく黒とされるぞ?』


『なッ⁉』


『安心しろ。誰かにバラそうなんて考えてないから……ただ、金輪際、彼女に関わらないことが条件だがな』



 口から出まかせもいいところだった。動画なんて撮ってる暇なかったし。


 それでも、冷静さを欠いた藤二だったら俺の嘘を鵜呑みにするという確信があった。


 自分が大好きであろう藤二は俺の条件に必ず吞んでくれるという自信もあった。


 そして結果的に藤二は渋々ながらも従ってくれた。『動画を消せ』だの『僕はなにも悪くない』だの悪あがきが酷かったがな。



『……ごめん、蒲倉。勝手に話進めちゃって』



 藤二が去った後、俺は蒲倉に謝った。当時者でもない人間が出しゃばった真似してすまなかったと、そう。



『いえ、大丈夫です。私一人じゃどうすることもできなかったので……ありがとうございます、蒼紫くん。本当に――本当に助かりました』



 瞳に浮かべていた涙が、ニコッと目を細くして笑った瞬間、弾け飛んだ。


 可愛いなと思った。こんな子とお近づきになれたらなと思った。蒲倉からしてみれば怖い経験だったろうに、俺は他人事のようにただ見惚れてしまっていた。


 俺と彼女の間に素敵な恋の物語が紡がれたりしないだろうか。


 なんて淡い期待を抱いていたあの時の俺はまだなにも――蒲倉詩奈のことをなにも知らなかったのだ。


 これが蒲倉と接点が増えたきっかけだ。

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