完璧に近い男の完璧とは思えない愚行

 藤二の想いが蒲倉に届かなかった日の放課後だった。


 その日、俺は他数名と教室の掃除担当だった。


 そして最後、ゴミ捨てを決めるジャンケンで一発決着の負けに終った俺は、地味に重たかった袋を両手にゴミ捨て場へと向かった。そこで――、



『どうして――どうして僕を振ったッ! 僕のどこが――なにがダメだっていうんだッ!』



 理性が正常に働いていないような声を聞いたのだ。


 校舎裏にポツンと設置されたゴミ捨て場のその更に奥、草木が生い茂る田舎の高校ならではの自然体験ゾーンに藤二と蒲倉の姿があった。


 木を背にしている蒲倉に詰め寄る藤二。人気がまったくない場所だったこともあり、俺は万が一のために構えていた。



『ダメってわけではないです……藤二くんのことが嫌いってわけじゃないですから』


『ならどうしてッ!』


『えっと、それは、その……友達としては凄く好きなんですが……恋愛対象としては……』


『な、なんだよそれ……友達として? 僕は君にことをこんなに愛しているのに、君は僕のことを友達としかみていなかったの?』


『……ごめんなさい』


『謝って済む問題じゃないッ! 君が紛らわしい態度でいたから僕は勘違いしてしまったんだぞッ! ……それさえなければ――それさえなければ僕は君なんかを好きにならなくてすんだしなにより――赤っ恥をかかずにすんだんだッ! 全部、全部君のせいだッ!』



 藤二のそれは強弁だった。蒲倉が好きというより自分が好きなんだろと思えてしまうほど。


 二人のこれまでを知らない俺には、藤二の主張を否定できる材料なんて持ち合わせていなかった。もしかしたら本当に蒲倉は勘違いさせてしまうような態度をとっていたのかもしれない。


 だが、そんなのはどうでもいいことだった。警戒すべきは今……その時の俺は藤二の動向に細心の注意を払っていたのだ。


 なにしろ藤二は明らかに冷静さを欠いていたからな。



『……ごめんなさい』


『だからッ――謝って済む問題じゃないって言ってるだろッ! ……悪いのは君だ。責任、取ってもらうからな』


『わ、私の振る舞いによって藤二くんを勘違いさせてしまったことについては申し訳ないと思ってます。でも、だからといって私が責任を負わされるのは納得できません』


『――口答えするなッ! なにもかも君が悪いんだッ――――全部全部全部全部全部全部君が悪いッ! だから……口答えするな……僕に……逆らうな……』


『え、ちょっと、藤二くん? なにを――――いやッ』


『もう喋るなよ……お前』



 そして実際、懸念していた万が一が起こってしまったのだ。

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