彼女が女神と呼ばれるようになったきっかけと、それから
もともと、俺と蒲倉は頻繁に会話する関係じゃなかった。クラスメイトってだけで、言葉を交わすとしても他愛のないものだった。
始まりは1ヶ月ほど前。それは蒲倉が女神と呼ばれるようになったきっかけであり、その後のひと悶着が俺と彼女のきっかけとなった。
それらのきっかけを作ったのは俺らと同学年の
『藤二が〝姫〟に告白するらしいんだが……あれだよな、成就する前にあの野郎を殺めた方が良いよな?』
情報を提供してくれたのは友人だった。狂気に満ちた笑みに物騒な物言いと、中々に強烈だったので鮮明に覚えている。因みに、〝姫〟とは蒲倉のことを指す。あの時はまだ人の域に留まっていたのだ。
俺が聞いた段階では既に、学年の垣根を超え多くの生徒が知っていたという。そして、友人の台詞からわかる通り、藤二の告白はまず間違いなく成功すると予想されていた。
根拠なんてものはなかったんだろう。ただ、藤二が振られる未来が想像できなかっただけ。消去法とも言える。
『――今日の昼休み、藤二の野郎が屋上で姫に告白するらしい』
その翌日だったか。朝から切羽詰まった様子でいた友人が俺にそう伝えてきた。
なんでお前が知ってんだ? 俺の問いに対する答えは『藤二が自分で言ってたらしいんだよ』だった。友人が直接聞いたわけじゃなかったから真偽は怪しかったが……まあ結果を知っている今は真実だったと断言できる。
藤二自らが宣言した。要は公開告白だ。
俺も友人に連れられ始終を傍観しに行ったが、まあ人が多かったのなんの。屋上はちょっとしたお祭り騒ぎだった。
あの場にいた誰もがビックカップル誕生に期待、振られることなんてあっちゃいけない……そんな雰囲気に包まれていた。
同調圧じみた状況を狙って作りだしたのか、はたまた単なる自信の表れか……藤二の真意はわからないが、もし仮に振るのだとしたらとてつもない勇気を必要とされるなと、そんな感想を当時の俺は抱いていた。
そして結果は――、
『――ごめんなさい』
多くの勝手な期待を裏切る形となった。
『あの藤二ですらダメだったんだ……姫に釣り合う男なんてこの世にいない! というより姫じゃない――――彼女は女神なんだ! 人間風情が恋心を抱いて良いお方じゃないんだッ! 尊ぶべき存在なんだッ!』
後の友人の主張に何故か共感する者(野郎だけ)が出てきて、蒲倉=女神が定着した。
一人の男の失恋が、一人の女子を神格化させてしまったわけだ。
これが蒲倉が女神と呼ばれるようになったきっかけであり、凡人な俺と女神様の接点が増えたきっかけを作ったのもまた、前途の通り藤二である。
蒲倉と藤二、当時者の二人とたまたま居合わせてしまった俺。この3人しか知らない告白後の話だ。
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