女神とまで呼ばれているクラスの女子に好かれてしまったのだが、ヤンデレ要素が満載でもう限界
深谷花びら大回転
女神とまで呼ばれている彼女は…………
ヤンデレが好きかと問われれば、俺は間違いなくNOと答える。何故なら――、
「――
非常に面倒だからである。
――――――――――――。
俺の名前は
物語の主人公みたく画数の多い名前ではあるが、生活はモブもいいところで、極々普通の高校2年生をやらせてもらっている。
頭は良くもなければ悪くもない……と思う。運動神経も悪いってわけじゃない……と思う。クラスでもどちらかと言えば目立つ方だと…………俺の話はもういい。
「今日は蒼紫くんの分のお弁当も作ってきたんです……お口に合うといいのですが」
それよりも今は、眼前の問題だ。
昼休み。特別棟にある空き教室にて、俺はクラスの女子と席を共にしている。
机を挟んで向かいに座っている女子の名は
肩まで伸びた艶のある黒髪、クリッとしたお目目にブラックダイヤモンドのような瞳、細身でありながら出るところは出ていてスタイル抜群。
『アイドルなんて所詮人の域を出ない……人間の物差しでは測れないんだよ、蒲倉は』などと俺の友人も狂った台詞を吐いていたっけ。
さすがにそれは狂信的すぎると思ったが、まあそう映ってしまうのも無理はない。事実、俺も以前までは彼女のことを完璧な人間と認識していたし。
しかしながら、この世に完璧な人間は一人もいない。誰しもが欠点を抱えていて、それは目の前にいる蒲倉も例外じゃあない。
ひょんなことから蒲倉との接点が増え、垣間見えた欠点。ぼんやりとだったそれは日に日に輪郭を帯びていっている。
今だってそうだ。俺の前にはコンビニの袋が置いてあって、更に片手に焼きそばパンを持っている状態で、いけしゃあしゃあと頼んでもいない弁当を差し出してきやがる。
百歩譲って、今日の昼を一緒する約束を前の内からしていたのならわかる。
が、そんな約束は当然していないし、なんなら俺は友人らと共にするつもりでいた…………それを、
『――
友人らがいる前で言われたらもう……断るに断れない。
もし断りでもしたら何様のつもりだッ! と磔にされてもおかしくないからな。
ここに至るまでの経緯を振り返っていると、蒲倉が小首を傾げて口を開いた。
「…………蒼紫、くん? どうしたんですか、黙ったままいて」
「え? ああいや、ちょっと考え事してて」
そう白々しく俺がとぼけると、蒲倉は胸に手を当て安堵した表情を浮かべる。
「良かったです。私はてっきり、お前の弁当なんか食べたくないという無言の意思表示とばかり」
「そ、そういうんじゃないけど……ほら、見てわかる通り開封しちゃったからさ。大食いってわけでもないし……悪いけどそれは持って帰ってもらって、ご家族の方にでも」
俺は手にしている焼きそばパンを蒲倉に見せつけるよう振る。
酷いことを言っている自覚はあった。けれど拒否感を示さないと――――いや、この程度の拒否感じゃ彼女はすんなり引かない。だからこそ困っている。
安堵もつかの間、蒲倉の表情が見る見るうちに冷たくなっていく。
「やっぱり……私の作ったモノなんか口に入れたくないですよね」
「だからそうでなくて――」
「ならッ……その焼きそばパン、私が食べます」
「いや、それは――」
「袋の中に入ってるものすべて私が頂きます。もちろん代金は支払います――ですから蒼紫くんはこれを食べてください」
俺の言葉を2度遮った蒲倉はそう捲し立ててきた。瞳の輝きは色褪せてしまっている。
どうしてそこまでして俺に? とは聞かない。その問いは既に彼女に投げている。
返ってきたのは「好きだから」だった。
あなたに好意を抱いていますと女子から打ち明けられ、嫌な思いをする男は数少ないと思われる。
けれど俺は素直に喜べなかった。
彼女の愛はハッキリ言って重い。仮に付き合っても苦労するだけ、やつれていく自分が容易に想像つく。
蒲倉の言動の端々からヤンデレ要素が読み取れる。故に俺は彼女が怖い。
彼女の好意を全力で突っぱねることができないのもそのせい。
「蒼紫くん」
「え? あ、ああ……わかったよ」
早くして? と目で促してくる蒲倉に俺は頷くことしかできず、焼きそばパンを机の上に置いた。
可愛らしい色合いの弁当箱。パカッと蓋を開けると、主張の激しいピンクのハートが目に飛び込んできた。
ゴクリ、と自分が唾を飲み込む音を聞く。ご馳走を目の前に喉を鳴らしたわけじゃない。
恐る恐る前を見ると、さっきまでの冷たさが嘘のように蒲倉は照れ笑いを浮かべモジモジしていた。この感情の起伏も俺が恐れを抱く要因の一つ。
やんわりと意思を伝えてフェードアウト、なんて腹積もりでいた自分を呪いたい。
もっと早い段階で拒否できていたのならまだ救いはあったのかもしれない……余計な気遣いさえなければ。
俺は後悔先に立たずという言葉を身に染みて実感しながら箸を持ち、ピンクのハート崩すべく、おかずよりも先に米粒から手をつけたのだった。
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