第14話
昼食後は、特に予定を決めておらず、適当にぶらぶらするつもりだった。
僕が青柳モールで提案できるのはゲーセンだけなので、後の三人に任せることに。
「ねえ、万帆ちゃんのその服って、ここで買ったの?」
「えっ? あ、はい、確かそうだったと思います」
「じゃあ一緒に服見にいかない? 私、そろそろスカートにチャレンジしたいんだよね。私服だと一着も持ってないの、実は」
「そ、そうですね、み……わたしのよく行くお店へ行ってみましょうか」
男二人は特に異論なく、服屋が並ぶコーナーへ向かった。
僕は立体なら何でも好きなので、服飾もある意味では興味のある対象なのだが、女性向けの服屋でじろじろと服を見ていたら変態扱いされそうなので自重した。僕よりも山川のほうが暇そうだった。いつもこんな感じなのだろうか。
上手さんと江草さんは楽しそうに話しながら、服を選んでいた。
江草さんが何着か選んで、上手さんが試着することに。僕と山川はその感想を言う係として、試着室の近くで待った。山川と二人で話すこともなく、非常に気まずい時間だった。
「着替え終わりましたよ!」
江草さんに呼ばれ、僕たちは試着室の中にいる上手さんを見た。
シックな雰囲気の、ベージュ色のスカート。トップスも雰囲気を合わせて、どこか知的なイメージのあるブラウスだった。
「いいんじゃないか」
山川がまず言った。他人の彼女にダメだしもできないだろうから、これが正解である。
「な、南條くんは、どう……?」
「うーん。なんか、スカート長いなあ」
「えっ……似合ってない?」
「いやこれでも十分綺麗なんだけど、制服だとスカート短めだし、なんか違和感ある」
「あっ……ううっ……」
「南條くん……それはないですよ……」
正直に感想を言ったら、江草さんにものすごく軽蔑されているような目で見られた。ちゃんとこれでも十分綺麗だって褒めたつもりなのだが。
「私、やっぱりスカートやめる……」
「そ、そんなに落ち込まないで! 南條くんが好きそうな短めのやつ探しますか?」
「恥ずかしいからやだ……」
けっこうショックだったらしく、上手さんは打ちひしがれていた。これはフォローしないとまずい。
「いや、普段と雰囲気が違って、びっくりしただけで、普通に似合ってるよ」
「ほんとに……?」
「そういうのが好きなんだって、ちょっと意外だったから。僕は上手さんが好きなものを好きなように着てくれていれば、それでいいよ」
「そ、そっか……これ買お」
なんとか持ち直してくれたらしい。山川のように、何を着てきてもいいんじゃないか、というのが正解だったのかもしれない。というか山川も、即答でそう言ったあたり、江草さんとのデートで色々な地雷を踏んで、学んできたのか。
上手さんはそのコーデを本当に気に入っていたらしく、その場でお買い上げ。
次はどこへ行こうか、と考えていた時、上手さんと江草さんがひそひそ話しはじめた。
「ねえ、万帆ちゃん……実は……」
「……あはは、いいですよ、一緒に行きましょう!」
江草さんは上手さんの腕を引っ張って、どこか別の店へ向かった。
「男子二人はどっか適当にぶらついててくださーい!」
こうして、僕と山川が二人、取り残された。
「……」
「……」
また気まずい空気が流れる。こいつ、二人でいると特に話すことが思い浮かばないんだよな。
「……ゲーセンでも行くか?」
「……ああ」
青柳モールのど真ん中で突っ立っているのは耐えられなかったので、僕がよくメダルゲームをしていたゲーセンへ向かう。歩きながら、何となく雑談を始める。
「さっき、江草さんにめちゃくちゃ似た女の子を見かけたんだけど」
「何……?」
「服装が明らかに違うかったから、別人だと思うんだけど。マジで同じ顔だった。あんなに似た人いるんだな、ってくらい」
「…………」
山川はなぜか、頭を抱えていた。
「どうした?」
「いや……何でもない」
何か、心当たりがあるようだったが、何なのかは教えてくれなかった。
男二人、しばらくゲーセンで時間を潰した。
山川はあまりゲーセンで遊んだことがないらしいので、クレーンゲームのコツを教えたり、メダルゲームの遊び方を教えたりしていたら、あっという間に時間は過ぎた。ゲーセンで楽しめない男子はいないので、山川はそこそこ楽しんでいたようである。いかつい雰囲気の山川だが、話せば意外に聞き上手で、割と楽しく過ごせた。男子相手にこいつとは仲良くなれるかもしれない、と思ったのは久しぶりだ。
しばらくして、二人の携帯が鳴った。買い物が終わったから、さっきの場所まで戻ってきてくれ、との事だった。
女子二人と合流する。
上手さんの手荷物には、小さな紙袋が一つ、増えていた。
「何買ったの?」
「はう! そ、それは秘密っ!」
上手さんは新しい紙袋を後ろ手に隠した。そんなに知られてはいけないものなのか。女子の世界はよくわからない。
「さて、わたしと山川くんはこのへんで帰ろうかなと思います」
江草さんが、山川の隣についてそう言った。
「帰るのか?」
「今日、わたしの家、夕方まで誰も戻って来ませんよ」
「そうか……」
「行きますよね?」
「ああ……」
「じゃ、そういうことで。あとはお二人で楽しんでくださーい」
こうして二人は、手をつないで一緒に帰ってしまった。
「万帆ちゃん、お買い物と、あとアドバイスとかいろいろありがとね!」
上手さんは手を振りながら二人を見送った。
「あの二人……」
「ん? どうしたの、南條くん?」
「誰もいない江草さんの家に、二人で行くということは……」
「……はうっ!」
残された僕と上手さんは、江草さんたちのこれからのデートを冷静に予想して。
二人同時に、色々と想像してしまった。
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