第13話
昼食は、ダウンしている上手さんと山川が肉や魚を一切受け付けないので、レストラン街にあるオムライスの店になった。
青柳モールができた頃からある、隠れた人気店である。僕も家族では何度か利用した。
「ここ久しぶり! 南條くんは?」
「僕も、昔家族と一緒に来た以来だな」
「わたしは初めてです。山川くんは?」
「…………」
山川はなぜか答えづらそうな顔をしていた。
「誰と来たの?」
江草さんが気になるらしく、山川の足をとんとん、と叩きながら迫る。なお江草さんと山川さん、僕と上手さんはそれぞれ隣同士に座っている。
「……倭文さん、と」
とても苦々しい顔で、山川はつぶやいた。
「えっ、それっていつもテストで学年一位の倭文さん!? 山川くん、倭文さんと何かつながりあったの?」
上手さんが食いついていた。僕も、青柳高校で成績学年一位の倭文泉さんという女子の噂は、聞いたことがある。生徒会長選挙に立候補するとの噂もあったがやめたらしい。僕自身は会って話したことはないのだが、顔が広い上手さんはあるかもしれない。
「あ、あはは。倭文さんかあ。山川くん、ちょっと前は倭文さんにアタックされてたんだよね」
「ええー!? 意外!」
さすが女子だからこの手の話は好物なのか、上手さんは目をキラキラさせている。映画を見ていた時の死んだような目が嘘のようだ。
「でも今万帆ちゃんと付き合ってるってことは、もう倭文さんとは関係ないんでしょ?」
「えへへ。あの時は大変だったよ。倭文さんに光くん、とられちゃうかと思いました。でも今はちゃんと、倭文さんの告白は断って、わたしと付き合ってるんですよ」
「すごいなー。なんか少女漫画みたい!」
「上手さんは、これまで男子にアタックされた事はないんですか?」
「私? うーん、いきなりラブレターもらったり、告白されたことはあるけど。全然知らない男子と付き合う気にはなれなくて、全部断ったかな」
「すごいですね。それ瑞樹ちゃんも同じようなこと言ってました。わたしはそういう経験、特にないから」
「いいじゃない、山川くんがいるんだから」
「えへへ。南條くんはどうですか?」
「僕?」
ニコニコしていた上手さんが突如固まって、真剣な表情になる。
「特にないな」
「美術部って、女子多いですよね? 告白とかされないんですか?」
「僕はガチで製作やってるから、仲良くなるというよりは真剣すぎて引かれることが多かったな。みんな、美大志望とかじゃなくて、何となく趣味でやってる子が多いから」
「そういうものなんでしょうか。あの、鷹野きなこさんっていう子とはどうなんですか?」
「あいつは同じ立体やってるから、仲良かっただけだ。そういう関係は一切ない」
「怪しいなあ」
「そ、それはね! この指輪作ってくれたんだから、絶対違うよ!」
上手さんがここぞとばかりに、きなこが作った木製の指輪を見せつける。
「私も最初、すごく仲いいから疑ってたけど! 本当に南條くんのこと好きだったら、私たちに指輪なんかプレゼントしないでしょ」
「た、確かに。指輪を手作りできるなんて、すごすぎてついて行けない気もしますが……てっきり南條くんがプレゼントしたんだと思ってました。そういうのって男の子からプレゼントしますよね、普通」
「う、うん、そうだね」
そう言って江草さんは山川にキラキラと輝く視線を送った。山川は目をそらしていたが、「なんで目をそらすんですか」と江草さんからさらに迫られていた。
「そういえば、他人にプレゼントされた指輪つけるってのも変な話だな」
「うえっ!?」
江草さんが言うように、こういうのは男子からプレゼントすべきだよな。きなこの作った指輪は高クオリティだが、僕の気持ちはこもっていないわけで。
「い、いいよ! 私この指輪気に入ってるし」
「ならいいんだが」
今度は、僕が何か作ってあげるべきかもしれない。きなこほどではないが、僕も小物くらいなら作れる。そう思ったのだが、上手さんを驚かせようと思ったのであえて口にはしなかった。
ほどなく料理が運ばれてきた。ふわふわのオムライスで、とても美味しかった。皆無言になるほど美味しかった。
食後、お手洗いタイムになり、僕は山川よりも先にトイレを出て、レストラン街の前にある広場へ向かった。
そこには、江草さんがいた。
「あれ、トイレ行かなかったのか?」
女子の方が長いに決まっているので、思わずそう話しかけたのだが、よく見たらその江草さんはハーフパンツスタイルで、さっき見た江草さんと服装が全然違った。
「あ、やば」
江草さんは返事をすることなく、逃げてしまった。
僕は首をかしげた。こんな短時間で着替えられるわけがない。荷物も持っていなかったし、そもそも着替える意味がわからない。
そんなことを考えていたら、トイレの方から江草さんと上手さんが一緒に歩いてきた。
江草さんはさっき見たワンピース姿で、さっき僕が見かけたハーフパンツスタイルの女の子とは、格好が違っていた。ただ、顔は全く同じだったし、体型もほとんど同じだったと思う。少しだけ、さっきの女の子の方が細身だったような気がしたが。
「あれ? 南條くん、誰かと話してた?」
「ああ、いや、人違いだったみたいだ」
「ふうん。変なの」
まさか江草さんに「着替えた?」と聞くわけにはいかず、僕は謎を解けないまま、再びデートに合流した。
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