中編

メイたち4人とエリスの会話は昔の思い出話やハイムでの仕事など、様々な話題で盛り上がった。

「ところでエリ…」

「エリスねーさま、ただいま戻りました」

メイが何かを言いかけたその時、小柄な吸血種の女の子ヴァンピーリンが入室。

少女は見知らぬ人間たちに少しだけ警戒するが、

「おかえりなさい、アンネ。

 この人たちは私の幼馴染で、私や魔物たちに危害を加えるつもりはないと言っているから、安心して」

「はい…」

エリスの言葉ですぐに警戒を解いた。


「この子はアンネ。

 もとは森の中の別の場所にある屋敷に住んでいたけど、この子の主が亡くなってからは一緒に住んでるの。

 屋敷もアンネにとって大事な場所だから、さっきまでアンネは屋敷の掃除をしていたのよ」

背中の小さな翼をぴょこぴょこ動かしながら自分に甘えるアンネの頭を撫でつつ、エリスはアンネのことを紹介する。

「エリに甘えてるアンネちゃん、かわいい…」

4人のうち、メイだけがアンネに興味を示すと、

「そう思うなら、アンネと遊んであげて…」

エリスの仲介で、メイとアンネは室内だけでなく外でもたくさん遊んだ。

メイはその後、エリスに言いかけたことを再び口にすることはなかった。


メイがアンネと遊んでいる間、メイ以外の幼馴染3人は引き続きエリスとおしゃべりをしていた。

メイのようにアンネと積極的に関わることをしない一方で、エリスとの約束通り、アンディーン王国では忌むべき魔物に分類される吸血種のアンネを傷つけるようなことは一切しなかった。


4人が森を訪れた本来の目的も、エリスや魔物にとって不利益になるものではなかったことから、エリスは可能な範囲で4人に協力。

用が済んで4人が森を後にする時までエリスはほとんど表情を変えなかったが、4人とも、エリスの優しさは昔と変わっていないと感じた。

「エリ…また来るね…」

「ええ…待ってるわ…」

その言葉を交わした後、エリスとアンネに見送られて、4人はエリスが発動させた転移魔法陣で部屋から姿を消した。


----


エリスとメイたちが再会してから数年後、メイはアンディーン王国の王女の1人アマンダに気に入られ、侍女の1人に抜擢されたが、アンディーン王国内の政争によってアルマン王国の王子との縁談が拗れ、メイはアマンダを連れて亡命。


エリスを頼ってアイントラハト帝国のナハトヴァルトまでたどり着いた2人は入口の近くで力尽きて倒れてしまったが、それを監視していたエリスは魔物たちに2人の保護を指示。

アンネも魔物を手伝い、自分より少し背が高いメイをお姫様抱っこしてエリスのいる所までやってきた。


「エリ…」

「よかった…私が正しく認識できているなら大丈夫ね、メイ…」

メイがベッドで目を覚ますと、エリスはそう言って微笑んだ。

メイにとって、王都で別れて以来久しぶりに見たエリスの笑顔だった。

「アンネがあなたをここまで運んできてくれたのよ…」

「そうだったの…ありがとう、アンネちゃん」

「えへへ…どういたしましてです…」

メイから感謝の言葉とともに頭を撫でられたアンネは、うれしそうに背中の小さな翼をパタパタさせた。


「ところで、姫様は?」

「メイと一緒に倒れていた女性なら魔物たちが丁重に保護し、屋敷のベッドに寝かせたそうよ。

 あなたと違ってあまり身体が丈夫でないのでしょうね…診察した魔物の見立てでは命に別状はなさそうだけど、まだ目を覚ましそうにないって」

「そう…」

「メイの懸念は、"彼女が目を覚ましたら魔物だらけでパニックになりそう"ってことよね?

 それなら、私とメイが屋敷に移って、彼女が目を覚ましたらしばらくは、彼女がいる部屋にアンネも魔物も入れず、王女の世話は2人でやる、ということでどうかしら?」

「エリと2人だけで…姫様のお世話…うん…いいよ…えへへ…」

「それはそれとして、あなたとお姫様がここに来た事情…ある程度察しはつくけど、詳しく聞かせてもらうわ」


屋敷に移動してから、エリスはメイに2人が亡命した事情を聞いた。

「そういう事情なら、メイと王女は相応の"代償"を払えば、アンディーン王国の追っ手から逃れられるわよ…」

エリスから"代償"の内容を聞いたメイは、

「姫様がどうお考えになるか分からないけど、姫様がこの代償を受け容れるなら、わたくしもそれに従う」

とすぐに答えた。

「ならば、すぐに帝都へ"使者"を遣わすわ…。

 王女にとっては事後承諾になるけど、今動かないと追っ手の襲来に間に合わないから」

「わかった…エリに任せる」

この日のうちにナハトヴァルトから帝都へ向けて、エリスの伝言を預かった魔物が飛び立った。


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エリスとメイが屋敷に移って2日後、ようやくアマンダは目を覚ました。

「姫様…」

「メイ…ここはどこ?」

「ここは私の縄張り"ナハトヴァルト"の奥深くにある屋敷よ」

王女の問いにはエリスが答えた。

「この子…エリスはわたくしの幼馴染で、姫様とわたくしを助けてくれました…」

「そう…エリスさん、わたしとメイを助けてくれてありがとうございます…」

「私はあなたとメイをここまで連れてきただけで、"追っ手"からの救助は達成していないわ。

 それを成すために、あなたもメイも"代償"を払わなければならない。

 メイはあなたに決断を委ねたけど、あなたが目覚めてから動いてたら間に合わないので、すでにある程度は動き始めている。

 あなたが代償を払うなら、帝国とナハトヴァルトの魔女が必ず追っ手を退散させるわ」

「わたしはどのような代償を払えばよいのですか?」


エリスがアマンダに"代償"の説明をすると、アマンダは不敵な笑みを浮かべた。

「確かに、今聞いた内容は安くない代償ですね…。

 ですが、アンディーン王国に連れ戻されて政争の具として扱われるくらいなら、代償を受け容れたほうがいいです。

 魔女様…メイとともに、わたしをアンディーン王国が手出しできないような存在にしてください…お願いします…」

「承知したわ…帝都からの使者とアンディーン王国方面の偵察要員が戻ったら取り掛かるわね…」

「エリ…だいすき…」


帝都から戻った使者が宰相クラウディア・エルスターに持たされた返書をエリスが読むと、エリスによる作戦の承認と、国家間の問題はこちらで対処する旨が記されていた。

偵察要員が追っ手の到着予測を明日もしくは明後日と報告すると、エリスはすぐにアンネを呼んで2人の"処置"を始めた。

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