第6話 おめでとう、生まれました
——ピシッ、ピシッ……。
う……ん……? もう、朝……?
ねぼけながら寝返りを打とうとして、わたしは体の下がとっても硬いことに気付いた。
「い、いたたた……体がバキバキだぁ……」
どうやらわたしは疲れすぎて、なにも敷いていない地面の上で寝てしまったらしい。全身が痛かった。
ピシッ、ピシシ……。
うう、体からもミシミシ音がしちゃってるよ。それに、もしかしたら夢だったのかも……って期待したけど、起きても現実は変わらないんだね……。
わたしは腰をさすりながら立ち上がる。
自然乾燥させておいた服は……うっ、まだじっとりしてる。嫌だなぁこれ着るの……。でもさすがに、この格好のままいられないよね。
湿った服にうへぇと顔をしかめつつ、わたしはまだ乾ききっていないズボンに足を通していく。
ピシシ、ピシッ……。
やっぱり土の上で寝たからかな。動くたびに体もきしんで変な音が出てる。これはあとでちゃんとストレッチしないと……あ、その前にご飯どうにかしないと……。
そこまで考えて、わたしはハッとした。
まって。今の音……わたしじゃない気がする。そもそも人間の体、そんな音しないよね? じゃあこの音は……なに?
ギギギ、と音がしそうなぐらいわたしはゆっくりと振り向いた。気のせいか寝る前よりも明るくなった部屋の中で音を立てていたのは……わたしが先ほどまで抱いていた、タマゴだった。
表面にはヒビが走り、時折ゆらゆら、ゆらゆらと揺れながら、またピシッという音とともにヒビが広がっていく。
わ~~~!!! やばいよやばいよ! これ、思いっきり孵化しようとしちゃってるよ!
湿ってるとか気にしている場合じゃない! わたしはダッシュでTシャツを頭からかぶると、靴下とスニーカーをひっつかんで逃げようとした。
そんなわたしの横で、ピィ……という小さな鳴き声が聞こえる。
えっ……!? なに今の鳴き声! なんだかかわいいね!?
思っていたよりもずっとひよこっぽくてかわいい声に、わたしはつい振り返った。
——その瞬間だった。タマゴが、ひときわ明るい光を発したのは。
「うっ!」
まぶしさに、手で顔を覆う。それからわたしが見たのは……。
「かっ……かわいい~~~!」
生まれたのは、大きなタマゴの殻を頭にかぶり、ピィピィと泣きながら手をばたつかせる赤い……恐竜? みたいな生き物だった。大きさは、かなり大きめのぬいぐるみぐらいかな。
「赤ちゃんだあ……!」
恐ろしさも忘れて、わたしは一歩近づいた。
赤ちゃんは、ツンと尖ったくちばしみたいな口に黒い大きなおめめ。それから頭よりずっと細くて小さい体に、ちっちゃな翼と長い尻尾も生えていた。頭の殻が重いみたいで、地面にぺたんと座り込んでいる。
「毛はないけどウロコはあるんだ……」
好奇心が勝って、わたしはツン、とその生き物をつっついてみた。途端、頭の重さに負けた赤ちゃんが、コテンと後ろに転んで殻ごと頭を地面にぶつける。
「わっわっ、ごめんね!」
その姿がなんとも無防備で弱々しくて……わたしは思わず助け起こしていた。
タマゴから出て来たばかりだからか、ちょっと体はぬるっとしていたけれど、赤ちゃんはとてもほかほかしていた。このあったかさは……まぎれもなく昨日抱いていたタマゴのあったかさだ!
謎の感動をしつつ、わたしはおそるおそる赤ちゃんを抱き上げてみた。見た目はヨレヨレのぬいぐるみみたいに見えるのに、結構手にズシッとくる。
この重さ……保育園で散々子どもたちを抱っこしてきたわたしにはわかる! そろそろ歩きだしそうな赤ちゃんと同じ、九キロぐらいと見た! タマゴが大きかったからか、生まれたてにしては結構あるなあ。
「でもこの生き物、なんか見たことある気がする……。くちは鳥っぽいけどウロコがあって、翼があって、尻尾があって……」
相変わらずタマゴの殻が頭にのっかって顔の全体像は見えないけど、それでも既視感がある。
「う~ん、う~~~ん……あ、わかった! これ、ゲームに出てくるドラゴンに似ているんだ!」
ようやく一致する種族が思い浮かんで、わたしはぽんと手を叩く。
……いやまって? ドラゴン? じゃあこの子はベビードラゴン……ってこと? ドラゴンって、すっごく強くて怖いやつだよね!?
もしかしてわたし、喜んでいる場合じゃない……!?
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