第3話 ざんねん、捨てられました

 ガタゴトガタゴト。押し込められた馬車の中で、わたしは震えていた。


 ううう、本当にこのまま捨てられるのかなあ……? 森とか言われても、わたしにはサバイバル知識なんてない。突然連れてこられた上に森に放り出されるって、スパルタすぎだよ……!


 これからを想像して、思わずため息が出る。


 それに、さっきの様子だと、りさちゃんも家に帰してもらえなさそうだよね。きっと親御さんは悲しむだろうな……。わたしにはそういう家族、いないからいいかもしれないけどさ……。


 ――わたしは高校一年生の時に、両親を事故で無くしている。

 以降はずっと叔父さん夫婦のお世話になっているのだけれど、それも渋々引き取ったという感じで、正直仲がいいとは言えなかった。進学で寮に住むことを伝えた時も、露骨にほっとした顔をされたくらい。だから彼らが悲しんでくれるのかどうか……正直わからないんだよね。


 ガタゴトガタゴト。馬車の中で揺られているうちに、わたしは少しずつ冷静になっていく。


 これって、いわゆる異世界召喚だよね? やたら過酷なスタートだけれど、マンガで読んだことがある。だったらせめて、すっごく強いスキルがあったらなあ。りさちゃんを助けて、一緒に家に帰るのに……! 


 わきわきと両手を握ってみたけれど、異世界召喚によくある強そうな能力とかは全然感じない。一応、『女神の加護』と『褒めて伸ばす』っていうスキルがあるらしいんだけど、王様はゴミ! って言っていたし……。


 その時、ガタンと音がして馬車が止まった。すぐさまドアが開けられて、乱暴に引っ張り出される。


「はやく出ろ!」

「わあっ! ……いたたた」


 転げ落ちた先で見たのは、見渡す限りの木、木、木だった。背の高い木がどこまでもどこまでも続いていて、まるで世界が全部、木に覆われちゃったみたい。


 しかもここ、“森林浴~”とか、“リラクゼーション~”みたいな癒される森とは全然違う。なんか全体的に薄暗くって不気味だし、あちこちから「ギャアア」とかいう、人だか鳥だかわかんないおっかない鳴き声まで聞こえる。ううっ、怖いよ~!


「今日からここがお前の担当となるモザンドーラ魔森林だ。しっかりはげめよ」


 そう言って、騎士たちがバタンとドアを閉めて帰り支度を始めている。


「えっ! ま、まってまって! はげめって言われても、わたし食料もなにもないんですけど!?」


 仕事の途中で巻き込まれたから、私はTシャツにズボンに保育士エプロンに運動靴という、超軽装のまま。もちろんそれ以外になにもない。せめてごはんくらい欲しかったけれど、誰もわたしには構わず、さっさと馬車に乗り込んでしまう。


「ま……まってよ~~~!」


 手を伸ばすわたしを無視して、ドカラッドカラッと音を立てて、馬車が無慈悲に遠ざかっていく。


 ……捨てられた。まごうことなく、わたしは捨てられた。


 なにこれ……色々スパルタすぎない!?


 こうしてわたしは、モザンドーラ魔森林を彷徨うはめになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る