第19話 2試合目 2

「クッ!」

銃を腰から抜き出し、少女めがけて発砲する。

「遅い遅い!」

自分を襲う銃弾を全て無力化し、私に迫ってくる。

私は分かる。

この女の恐ろしさが。

「フユ!」

成美が急いで刀を持って助けに来る。

「『幻の巻 壱式・改 国士無双』!」

「止せ! アンタが勝てる相手じゃない!」

私は必死に成美に訴える。

彼女は、『私でも勝てなかった』から。

彼女は肩にかけている鈴をガラガラ鳴らしながら、成美の技を受け止める。

「やるのぅ。じゃが、これはどうか?」

彼女は背中にさしている刀を2本取り出す。

「おい止めろ! こいつは私とは無関係だ!」

「フユ。戦いを止めるなんて、礼儀がなっておらんなぁ。『鬼の巻 壱式 鬼龍刃・裁』!」

刀をクロス状に構え、成美に突撃する。

「速い・・・・・・!」

「成美! 死ぬ気で耐えろ! じゃないとドロップアウトどころか死ぬぞ!」

「このっ・・・・・・、『幻の巻 拾参式 逆滝降』!」

空中に飛び上がり、何度も体を縦に回転させ、地面に目掛けて刀を叩き落とす。

「一度避けただけで、安心するのは良くないのぅ」

「何!」

「『鬼の巻 肆式 業火・鬼ころし』!」

成美は急いで回避技を使用しようとするが・・・・・・

間に合うことは無かった。

「ウグッ・・・・・・」

2本の刀が、成美の胸に突き刺さり、成美は吐血する。

「・・・・・・終わりじゃ」

そのままスラリと刀を抜き、成美は地面に倒れこむ。

「成美!」

私は急いで成美の元へ駆け寄る。

「オイ! しっかりしろ! 成美!」

私は一度冷静になる為に深呼吸をし、その後成美の脈などを確認する。こんなことで慌てていては、暗殺者失格だ。

「大丈夫。死んでないね」

成美が死んでないことを確認し安堵した。のもつかの間。

「さて、邪魔者も居なくなったことだし、フユ。いい加減話をしようぞ」

「お前・・・・・・! こんなことをして許されるとでも・・・・・・」

「口で駄目なら、体で分からせるしかないのぅ。・・・・・・少し痛いが我慢しろ」

「芽亜李、安全なところに逃げて。そして組織に報告して、誰かロイヤルファミリーの人連れてきて」

「・・・・・・死なないでくださいね」

「うん。任せて」

芽亜李は急いで公園を脱出し、組織へと走る。

「小娘、余計なことを・・・・・・」

彼女は芽亜李を捕まえようと走る。

が、私は一気に距離を縮め、彼女の顔を殴り飛ばした。

その勢いで、彼女は地面に激突する。

「さて、アンタ・・・・・・。いや、「姫羅」。久しぶりだね」

「・・・・・・改めてな。随分大きくなったんじゃないか? わらわは嬉しいのぅ」

「私は気分が最悪だけどね。形を保ったままここから帰れると思わないほうがいいよ」

私は背中に刺している刀を取り出す。

「見よう見真似だけど、やってみるしかないね」

「ほぅ。お前さんも刀を操れるようになったのか。本当に成長したようじゃ」

「あいにくだけど、私はそこまで刀の扱いは上手くないよ」

「ならば、いざ勝負! 『鬼の巻 壱式 鬼龍刃・裁』!」

先ほどと同様、刀を構え、突進してくる。

「くっ! 『月の巻 陸式 十六夜』!」

刀を前方に振るい、再び前に出て刀をさらに大きく振るう。

伊舞希パイセンと訓練したとき、ほぼ全ての刀の技をラーニングしたので、ある程度応戦できるほどの実力はあるつもりだ。

姫羅の技をギリギリのところで止めたかと思えば、再び次の技を繰り出してくる。

「『鬼の巻 伍式 羅生門』!」

足を不規則に運び、私が予測できない動きをしてくる。

まさに初見殺し。

ならば、成美の技を借りるとしよう。

「『幻の巻 拾陸式 海神千秋楽』!」

刀を腰に構える。

「どうした! わらわが来るのを待っているつもりか?」

次の瞬間、私は飛び上がり、波のような動きで姫羅に斬りかかる。

この技は、ジャンプと、低い姿勢で斬りかかるのを繰り返すことで、予測できない攻撃を繰り出す技。

成美曰く、「波を再現してる」らしい。本当に再現できてるかは不明だけど。

「素晴らしいぞ! ・・・・・・だが、詰めが甘い」

「何!?」

「『鬼の巻 参式 幽鬼』・・・・・・」

繰り出していた技を中断し、姫羅は姿を消す。

「これは・・・・・・、まずい!」

急いで、全神経と嗅覚を底上げし、姫羅の気配を探る。

この技だけは、絶対に感知しなくてはならない。

「・・・・・・よし、見つけ――」

見つけたときには、既に遅かった。

「・・・・・・え」

私はゆっくりと、下を見る。

私の腹の部分には、黒く細長い物体が、突き刺さっていた。

その直後、じわじわと血がにじみ、じわじわと痛みが全身に広がってくる。

口いっぱいに血の味が広がり、とても不快だ。

「貴っ・・・・・・様・・・・・・!」

「どうじゃ? やはりこの技はお前さんでも避けられなかったじゃろう?」

『鬼の巻 参式 幽鬼』は、一言で言い表すなら、『死神の技』だ。

かつて、この技を喰らって生き延びたものは誰も居ない。

何故かって? 

それは、『その場から存在しなくなるから』・・・・・・。

「・・・・・・それは、どうかな・・・・・・?」

「・・・・・・ほう。まだ息があるとは。別に元より殺すつもりなど無いがの」

しかし、私の体力は底を尽きかけていた。

ここは、いったん逃げるしかない。

私はスマホを操作する。

「こらこら、フユ。会話中にスマホをいじるのはマナー違反じゃぞ」

「・・・・・・貴様にマナーを語られたくないなぁ」

「是非に及ばず。殺すなという命令じゃったが、殺しても許されるかの」

本当は私もスマホなどいじっている暇など無いが、止むを得ない。

「・・・・・・来た」

「何を言ってるのか・・・・・・。ガハッ!」

前方から銃撃され、姫羅は後ろに飛ばされる。

スマホで呼び出したのはバイクだ。

私のバイクは、スマホ一台で呼び出せる。

「成美、立てる?」

成美の体を揺さぶる。

「だ、大丈夫だ。・・・・・・手ェ貸してくれ」

「もちろん。ちょっと痛いよ?」

成美の腕を引っ張り、空中へと投げる。落ちてきた成美をお姫様抱っこし、急いでバイクへと向かう。

「こざかしい真似を!」

「フユヤバいって! 早く出発しろよ!」

「分かってる!」

バイクは盗難防止や秘密保持のため、私自身が操作して、セキュリティーを解除する必要がある。だが今回はそれが裏目に出てしまった。

「よし! 成美、しっかり掴まって!」

「お、おう」と言い私のわき腹を抱えるように抱きついてくる。

ハンドルを全力で回し、その場から撤退する。

「おい! 待つのじゃ!」

姫羅が後ろで叫んでいるが、気にせずバイクを進める。


「・・・・・・成美、傷は?」

バイクを進め、後ろを振り返らずに成美に話しかける。

もう血は止まっている。

「何とか大丈夫だ・・・・・・。お前から教わった止血法でな」

「あはは。命の恩人にお前は無いんじゃないのかい成美さんよ」

「うるせぇな・・・・・・。ん?」

成美が急に話すのをやめた。

「どったの?」

「いや、何かが来てるような・・・・・・。フユ! 後ろ!」

「は?」

一瞬後ろを振り向くと、そこにはいい表情で走ってくる姫羅が見えた。

「しつこいなぁ!」

腰から銃を抜き、後ろに手を伸ばす。

「頭下げて! あと耳塞いで!」

「えぇ!?」

頭を下げたのを確認すると、銃の引き金を引く。

「当たってるのに・・・・・・!」

私が銃弾を外すことなど決して無い。なのに姫羅は平気な顔をして走ってくる。

「どっかの侍みたいに弾斬ってんじゃねぇのか!?」

「正解じゃ」

「!」

いつの間にか真横に来ていた。

姫羅が刀を振ってくる。

ボタン操作でバイクをAI走行に切り替え、成美の腕を掴み飛び上がる。

「いや道交法!」

「仕方ないでしょ。死にたくないし」

再びバイクに搭乗し、バイクを進める。

「ていうか大会運営は何やってるの・・・・・・」

明らかな非常事態なのに、対応する様子の無い運営にも違和感を覚える。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。まずはアイツを何とかしないと!」

「何とか出来るならとっくにやっとるわ!」

ドリフトし、180度バイクを回転させる。

カバーを開き、ボタンを押す。

ライトの部分のカバーが開き、マシンガンが連射される。

「正直期待はしてないけど、少しでも足止めになるならありがたい」

連射が終わり、ライトの部分が元に戻る。

「マシンガンとは・・・・・・。お前さんも随分考えるのう」

想像通り、無傷な姫羅が姿を現した。

「「ですよねー」」

私と成美の声が重なる。

そして、お互いに顔を向かい合わせ、にこりと笑顔で微笑む。

そして大きく頷くと・・・・・・。

「逃げよう!」

「アイアイサー!」

再びバイクを発進させ、全速力で逃げる。

無傷な状態だったら何とかなったかもしれないけど、満身創痍の状態では流石に分が悪すぎる。

今度は追ってくる気配がしない。

「逃げたかのぅ・・・・・・」

姫羅は携帯を操作し、電話をかける。


『AMG運営本部 マスター室』

そこでは、一人の男が通話をしていた。

「そうか。まぁいい。彼女に傷を負わせただけでも大したものだ。ご苦労」

男は受話器を戻し、机にある書類を見る。

すると、ドアがノックされた。

「入れ」と言われ、女性が入室してくる。

「彼女に関するデータです」

女性から書類を受け取り、男は軽く一読する。

「ありがとう。下がれ」

「はい」

女性が退出し、男は再び書類に目を通す。

そこには、とある人物の顔写真が写っていた。

「フユ。ここが貴様の最期の戦場だ」

男は写真に写っている少女を凝視する。

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クラスの女子を護衛する指令を与えられました。 神楽咲久來 @HINASUN

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