第18話 2試合目 1

「ちょいちょいちょいちょい! いきなり襲い掛かってこないでよ!」

集団で攻め込まれた私たちは、何とか敵チームの攻撃を防いでいた。

「どうする? 私たち武器無いんだぞ!」

成美と背中合わせにくっつき、敵を見ながら会話する。

「とりあえず、素手でやるしかない!」

「死ねぇ!」

まず一人の丸刈りの少年が刀で切りかかってくる。

すぐに軌道を把握し、回避する。

「演算使うまでもないね」

そのまま少年の背後をとった私は、背中に回し蹴りを喰らわせた。

「カハッ・・・・・・」

飛ばされた少年は壁に激突する。

「クソッ・・・・・・。こんなところで・・・・・・」

少年は起き上がろうとするが、自分の体力がなくなったことを悟ると、気が抜けたように転がる。

『Drop out』

無機質な女性の声が聞こえたと思えば、少年は粒子状になって消えていった。

「え!? 死んだ!?」

「死ぬわけ無いでしょ。脱落しただけだから」

少年が脱落した場所には、チェーンソーのような刀が落ちていた。

「・・・・・・使うか」

急いで刀のところへと走り、刀を拾う。

「刀系は得意じゃないけど、この際武器を選んでられないね」

鍔の部分についている紐を勢いよく引っ張ると、刃の部分がチェーンソーのように回転した。

「オイ! その武器俺たちに寄越せ!」

ナイフを持った少年と、銃を持った少女が私めがけて走ってくる。

「ハッ!」

すぐさま、少年たちの腹の部分を切り裂き、身を守る。

少年たちは宙に浮き、そのまま『Drop out』してしまった。

「はぁ・・・・・・。なんとか助かった・・・・・・」

成美が急いで駆け寄ってくる。

その後ろには、芽亜李とハルが。

「よし。誰も脱落してないね」

「おっ。いい武器発見」

成美は先ほどの少女が持っていた、ハンドガンを拾う。

「って銃かよ。私銃は得意じゃないんだけどなぁ・・・・・・。その武器と交換しろよ」

「武器の交換は味方であっても禁止。武器の所有権が移るのは脱落した際のみ」

「めんどくせ~」

「私だってアンタの銃使いたいよ。でも武器持っちゃったんだもん」

しかも何? この刃の部分がチェーンソーになってる剣とか。趣味悪いわー。

製作者の顔が見てみたいよ。

「何も所有してない私たちよりは随分マシな気がするのですが・・・・・・」

「そうですよパイセン! 私たちなんて素手なんですよ!」

「ごめんって。後で武器探しに行くからさ」

不満そうな二人をなだめ、私たちは武器を探すことにした。


「よっし。アイテムボックス発見」

廃ビルの内部に、無機質な正方形の鉄の箱を発見する。

「さっそく開けてみようぜ! 何が入ってるんだろうな」

蓋を奥へとスライドさせ、中身を確認する。

中に入っていたのは、煙幕球と複数の爆弾。そして、少し大きめなハンドガンだった。

「やったー! ハンドガンもーらい。爆弾は芽亜李全部持ってっていいよ」

「ありがとうございます」

「ハルは煙幕球持っておいて」

「了解ッス!」

「なぁ、私だけ進展無いんだが?」

「仕方ないでしょ。武器が無いんだから」

私たちがもめていると、また敵が現れた。

どうやら別チーム同士で協力し合っているらしい。

「どこまでも私を狙ってるんだね」

「慣れない武器だけど、やるしかないか」

成美は、一番乗りで敵陣へと攻め込んでいく。

「邪魔だボケェ!」

敵の少女に暴言を吐くと、ハンドガンで少女の顔面を殴りつけた。

「うっ!」

「何で銃で殴るの・・・・・・」

「フユ! お前も早くしろ!」

「はいはい」

成美の後に続き、私たちも応戦する。

「よいしょ」

まず右側に居た少年二人を斬りつけ、そのまま水平に左側に移動させ、そちらにいた少年たちも斬る。

「やっぱり難しいなぁ。銃の方が使いやすいね」

「離れてください!」

奥の方から芽亜李の声がしたので、言うとおりその場から離れる。

その直後、芽亜李は爆弾を投げつける。

「えぇ~!? ちょっとタンマタンマ!」

成美の必死な願いも届かず、無慈悲にも芽亜李は起爆スイッチを押す。

「ギャァ~!」

成美もろとも、空中に飛ばされてしまった。

「あ、でも敵はほとんど片付いたよ」

「片付いたよじゃねぇ!」

お怒りの様子の成美は、鬼のような顔をして、私に歩み寄ってくる。

別に私悪くないよね?

すると、成美は私の胸ぐらを掴んで持ち上げてくる。

「味方に攻撃を加えるのはルール違反だけど?」

「・・・・・・チッ」

軽く舌打ちをして、成美は私の胸ぐらから手を放した。

「にしてもこの武器、マジで私と相性悪くないか? さっさと次のアイテムボックス探しに行こうぜ」

「さっきからそこにあるの見えない?」

私は成美の足元にあるアイテムボックスを指差す。

「あ、ほんとだ。中身は何かな~?」

アイテムボックスを開封する。

中身は、私が所有している刀が2本も入っていた。

「良かったね。全部あげるよ」

「マジか! サンキュー!」

成美は刀を装備し、うきうき気分で飛び跳ねる。

よっぽど嬉しいんだね。

「さてと。成美の機嫌が良くなったし。次の場所に移動しようか」

私たちは、この場所から退出することにした。


「おーおー。皆さん元気に戦ってらっしゃる」

公園では、他のチーム同士が、元気に戦っていた。

流石にあの中に入るのは面倒だからやめておこう。

「よし。せっかく刀が戻ってきたんだし、ここで私の実力を見せてあげよう」

「・・・・・・無理しないでね」

このようにやる気マックスの状態の成美は、何を言ってもやめさせられないことを私はもう理解している。

だからここはおとなしく行かせることにした。

「・・・・・・何だお前は」

戦いをやめ、一人の少女が成美の方を向く。

「お前ら、私と勝負しないか?」

「・・・・・・ハッ! 何を言い出すかと思えば、この人数相手に勝てるとでも思ってるの?」

「やってみないと分からないだろ?」

あちゃー。完全に成美のスイッチ入れちゃったよ。

「『幻の巻 壱式 天下無双』!」

さっそくと言わんばかりに、成美は刀を持ち一人の少年に特攻する。

そのまま左斜め、右斜めと斬りつけ、最後に腹の部分を斬りつける。

「何・・・・・・!?」

少女は地面に倒れ、そのまま粒子状となり消えていった。

ちなみにこの技、この前、伊舞希先輩がやっていた技と違い、こちらは完全に成美の我流の技である。

天下無双は、一気に相手に近づき間合いを詰め、そのまま左右に斜め切りし、最後に胴体を真っ二つに切断する技だ。

シンプルかつ強力なので、成美の一番の得意技でもある。

「よくも俺の仲間を!」

怒りが沸点に達した少年が成美に向かって襲いかかる。

すると成美は、2本目の刀を取り出す。

「・・・・・・『幻の巻 弐式・改 月時雨・顎』!」

刀を持った両手を大きく開き、少年を待つ。

「勝ちを諦めたのか! じゃあその覚悟に免じて、一発で殺してやるよ!」

少年はそのままナイフを突きつけ突撃してくる。

が、成美の間合いに入った瞬間、成美の2本の刀が少年を挟み込む。

そのまま胴体を切断し、少年は粒子状に消える。

月時雨・顎は、2本の刀で相手を挟み込むように斬る技。

成美曰く、由来は噛みちぎるように切断するかららしい。

「でも、あの刀だと本気が出せないんだよね」

「え? 何でですか?」

「成美の剣技は、確かに本人の身体能力もあるけど、あの刀の重量でパワーが加算されている面もあるから」

あの刀の重量は、私の計算が正しければせいぜい3kg程度。普段から16tの刀を持っている人からすると、軽いなんて言葉じゃ足りないだろう。

「隙だらけだ!」

急に、成美の背後を取った二人の少年少女が銃を持って襲い掛かる。

「まずい!」

これには対処できないだろうと、芽亜李が助けに向かおうとするが、肩を掴んで静止する。

「何で止めるんですか!?」

「まぁ見てなって」

少女が銃を発砲する。

「『幻の巻 玖式 細雪』」

「バカめ!」

少女の言うとおり、銃弾は確かに成美に当たった。

・・・・・・はずだが。

「・・・・・・消えた!?」

銃弾が当たった瞬間、成美は霧状に消えた。

「『細雪』は、伊舞希先輩が使っている『陰風・小夜嵐』の応用で、分身を作り出す回避技だよ」

「あの人忍者っスか!?」

「・・・・・・そこには同意するよ。私も初めて見たときそう思ったもん」

そして、あの技はただ回避するだけの技ではない。

辺り一面に、成美の分身が現れた。

「クッ・・・・・・! どれが本物だ!」

「無駄だ」

成美の分身は一斉に、公園に居た全チームを殲滅した。

「『Drop out』」

「これで全部か」

成美は刀を腰に戻す。

「おめでとさん。久々に見たよ」

拍手をしながら、私は成美の元へ歩み寄る。

「お前・・・・・・。少しは手伝ってくれてもいいだろ!」

「だってアンタが自分でやるって言うから」

「・・・・・・異議なし・・・・・・!」

はい論破。

「よし。もうここに敵はいないみたいだし、次のステージに移動しようぜ」

「そうだね」

私は、公園を出ようとする。

そして、公園の入り口を出た。その次の瞬間。

「・・・・・・危ない!」

「は――」

私はとっさに芽亜李と成美を地面に押し倒す。

地面に勢いよく衝突してしまったが、今は構ってられない。

「痛いじゃねぇか! 何すん・・・・・・だ・・・・・・?」

成美は起き上がると、すぐに怒りを沈め、今、自分が置かれている状況を理解した。

公園の木は根こそぎ刈り取られ、遊具も真っ二つに切断されていた。

「・・・・・・! ハル!」

急いでハルの状況を確認するが・・・・・・。

「ウッ・・・・・・、こんなところで・・・・・・」

私から離れていたハルは、守りきることが出来ずに、『Drop out』してしまった。

「よぅよぅよぅ。御事がフユかのぅ?」

背中に2本の日本刀を身に付けた少女は、私を見てニヤリと笑う。

彼女を見て、ふととある記憶がよみがえる。

そして、一気に恐怖と寒気が私を襲う。

「お前・・・・・・、まさか・・・・・・!」

「ようやく思い出したか。久しぶりじゃのぅ、フユ」

私は震える手を何とか制御し、腰に手を伸ばし、銃を取り出した。

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