第10話 体力測定
「にしてもお前・・・・・・。ほんとによく食うな・・・・・・」
「そう? そんなに自覚無いけど」
都内某所。
私と成美は、ジャンクフード店で、ポテトとハンバーガーをお供に駄弁っていた。
「そういえば、そろそろ組織内での健康診断と体力測定だからな」
「あー、もうそんな時期かぁ。面倒だからパスで」
私はテーブルに置いてある、6個目のハンバーガーの包みを開ける。
「パスなんてしてみろ。次の診断まで仕事できないぞ。そして仕事が出来ないって事は、お前の給料無ぇから!」
「給料無しはキツイね・・・・・・。そして随分古いネタだね、どこで覚えたの? それ何十年も昔のネタだよ」
実際、私に限らず暗殺者の子達は、暗殺業で生活費を賄っている。
その暗殺業で、家族にご飯食べさせたりしている子も多い。
「言っとくが、診断は明日だからな。絶対遅刻するなよ、遅刻女王」
「そんなに遅刻して無いじゃん」
ポテトを5本ほど掴み、口へ放り込む。
「じゃあ、私は帰るから。会計は済ませといてやったぞ。感謝しろ」
「サンキュー」
席を立ち、遠ざかっていく成美の背中に手を振る。
翌日
「久々に帰ってきたなぁ」
組織の門の前に立ち、液晶パネルに手をつける。
しばらくすると、頑丈そうな門が開いた。
この門、隣に設置されている液晶パネルにタッチすることで開くのだが、組織の者でなければ、決して開くことが無い。
液晶パネルで、指紋と手相をチェックする。
そして、その人物の体内電流を測定する。
この三重セキュリティーによって、これまで一度も不審者に進入されたことが無い。
まぁ、無理に侵入しようとしても、門の前にはガードロボットが大量に配置されているから無理なんだけどね。
「お前、今回自信あるか?」
「それなりにはあるかな」
「よし、今回は本気で来い! 今年こそお前に勝つからな!」
成美が手の関節をバキバキと鳴らす。
「ようこそ、フユ様、成美様。まずはどちらから測定いたしますか?」
受付のお姉さんが、笑顔で出迎えてくれる。
「じゃあ・・・・・・、体力測定からで」
手っ取り早く終わらせたいので、私は体力測定を選択する。
「かしこまりました。それでは第3競技場へとお進みください」
お姉さんが手を右側に出して誘導する。
「じゃあ、行こっか」
私は、成美の腕を掴み、引っ張っていく。
「まずは、100m走からです。最初に成美様、どうぞ」
若い男性の指示で、スタート地点に立つ。
「スタート!」
男性がそう言った瞬間、成美は高速で走り出した。
「はい。7,88秒です」
成美は、私に向かってガッツポーズをする。
私には及ばないが、成美も組織内ではそれなりには運動できる方だ。
「では、フユ様」
「はいはーい」
スキップしながら、スタート地点に立つ。
流石に本気を出したらかわいそうだから、少しは手加減してあげようかな。
「フユ! 本気で走れよ! いつもみたいに手を抜くなよ!」
手抜いてたのバレてたんだ。
流石鋭い。
じゃあ、お望みどおり、本気で走ってあげるよ。
「スタート!」
掛け声と同時に、私は全力で走り出した。
「・・・・・・0,87秒・・・・・・です・・・・・・」
「ハァ!?」
成美が男性からストップウォッチを奪い取り、タイムを確認する。
ストップウォッチには、しっかりとそのタイムが記されていた。
「どう? お望みどおり本気で走ったけど。ねぇ、今どんな気持ち?」
軽く煽ってみる。
成美は結構短気だからね。どんな感じで怒るのかな?
「お前人間じゃねぇ!」
「え~? 酷いなぁ」
まさかの人格否定ですか。
改めて成美の馬鹿さを実感した。
第6運動場にて。
「次は、握力測定をしていただきます。その後は、反復横跳び・狙撃テストなどの種目を連続でやっていただきます」
中年の男性が指示をする。
「はーい」
「次は負けねぇからな!」
「成美、それ『フラグ』って言うの。分かる?」
こういうときは大体負けるのだ。主に成美が。
でも、成美も結構強いのは確かなんだよなぁ。
あくまで私が強すぎるだけだもん。
「では、測定を開始します」
私 67kg (手加減あり)
成美 68kg (本気)
「よっしゃー! 勝ったぞ!」
成美は高く飛び跳ねる。
手加減してもらって勝った勝利って嬉しいのだろうか?
「はいはい良かったですね」
「何だ? 悔しいのか?」
「うんうん、じゃあ次の測定行こう」
反復横跳び
「フユ・・・・・・。お、お前・・・・・・。なかなかやるな・・・・・・」
「無駄に喋ると、体力減るから気をつけなよ~」
反復横跳びを何故か対面でやらされた私たち。
私はまだまだ平気だが、成美はバテてきている。
成美は一撃型だからな~・・・・・・。私みたいに、長時間戦えるわけじゃないし。
「そこまで!」
「よし。何回かな?」
私は、壁に張り出された結果を確認する。
私 98回 (手加減あり)
成美 85回 (本気)
「ま、負けたぁ~!」
成美は仰向けに床に寝転がり、大声で叫ぶ。
それでも、普通の同年代の子にはまず出来ないんだけどね。
むしろ私たちがおかしいんだよね。
数時間後
「よし、次で最後か。種目は?」
成美が私のスマホを覗き込んできた。
自分のスマホ見なよ。
「えっと、『実技』だって」
「よーっし! ようやく実技だ!」
成美は背中から刀を取り出し、思いっきり振り回す。
「やめんか」
「痛っ!」
私は成美の背中を蹴飛ばす。
「とりあえず、次で最後だし。最後は負けないよ」
「それはこっちのセリフだぜ!」
成美はこう言っているものの、握力と反復横跳び以外全て負けている。
しかも握力と反復横跳びは手加減しているので、実質私が全勝している。
「毎年毎年、組織で一番掻っ攫っているが、今年はお前の記録を打ち破ってやる」
「おぉ、いい度胸だね」
成美は私の顎を掴み、軽く上に上げる。
お返しとばかりに、私は成美の腕を掴み、背負い投げをする。
「痛ぇな! 何すんだよ!」
「何か腹立ったから。ちなみに、顎クイは何十年も前に廃れた恋愛テクだから気をつけなよ」
「はい・・・・・・」
がっくりと肩を落とす成美だった。
「ではルールを説明いたします」
若々しい美人の女性が、手振りで説明する。
周りを確認すると、私たち以外の子達も沢山居た。
「今から行われる試験は、実技ですので、それぞれの持ち武器を使用していただきます。あちらに御座います、ステージをご覧ください」
女性が右奥に手を差し出す。
その方向には、廃ビルが建っていた。
「あれは我々の所有するビルですので、どうぞご自由に破壊してください。ではルールですが、廃ビル内には、大量の殺人ロボが配備されています。10分間であれらのロボを破壊した数がポイントとなります。青色の下級ロボは1点、黄色の中級ロボは5点 赤色の上級ロボは10点になります」
相変わらず規模が凄いな。
何で廃ビルなんて買い取っちゃったのかが不思議でしょうがないけど。
「尚、ロボは発見次第、攻撃を開始してきます。一応ゴム弾やゴムナイフですのでご安心ください」
「すみません! これって私たちで競い合うことって出来ますか!」
成美が手を挙げて質問する。
「ま、まぁ、試験に影響が出ない程度であれば・・・・・・」
「ほら、お姉さん困ってるでしょ!」
成美の腕を無理やり下に下ろす。
「他に質問が無いようでしたら、試験を開始いたします」
私たちはそれぞれの戦闘配置に着く。
「さァ、『Let’s party time』」
「では、開始!」
お姉さんの掛け声と同時に、周りにいた子たちが一斉に走り出す。
「おぅ、皆必死なんだねぇ。では、私も動くとしよう」
私は銃を抜き、ゆっくりと歩き出した。
「さてさて、ロボットとやらは・・・・・・」
私がのんびり歩いていると、目の前の角から人型のロボットが現れた。
「こいつかな?」
すると、ロボットは腕の形を変え、ライフル銃に変化した。
ロボットは私に向けて発砲してくる。
慌てて壁の裏に身を隠す。
「おっほ~。こりゃあ凄い。私も負けてられんね」
ロボットに銃口を向ける。
私が引き金を引こうとした瞬間・・・・・・。
「おりゃぁ!」
空中から成美が現れ、刀でロボットの首を切断した。
「ちょっとー。あれは私の獲物だったのに!」
ロボットは火花を散らして、ガタガタ動いている。
「勝負に卑怯もクソもあるかって・・・・・・のっ!」
会話をしながら、成美は左右に迫ってきたロボットの胴体を刀で切断する。
「しょうがない。じゃあ私も早くしないとね」
私は足に力を込め、一気に飛び上がる。
そのまま壁を蹴り、光の反射のように移動する。
「やっべ・・・・・・。こっちも動かないとな」
「す、凄い・・・・・・」
成美の横に、少年隊員が現れた。
「あれか? あれはフユの得意技だよ」
「得意技・・・・・・」
「あぁ。壁を光の反射のように蹴り、高速移動して、確実に対象を仕留める。あれを使っている時のスピードは、最高時速900kmだ」
「凄すぎる・・・・・・」
少年はあっけにとられたまま、立ち尽くしていた。
「ハッ!」
私は壁を蹴り続け、ロボットを射殺していた。
今の時点で、大体19周したかな。
「た、助けてー!」
「ん? あの子は・・・・・・」
ピンク髪の少女隊員が、腰を抜かして地面に倒れこんでいた。
私が率いる第一部隊の子だ。
「まったく・・・・・・。世話が焼ける」
壁を離れ、地面を蹴る。
『ハイジョ ハイジョ』
ロボットが少女に銃弾 (ゴム弾)を発射しようとした瞬間、間一髪で少女を抱え、走り去る。
去り際にも銃弾を打ち込んでおいたので、またカウントされるだろう。
「大丈夫?」
「た、隊長・・・・・・! ありがとうございます・・・・・・!」
少女は私に抱きついて、泣き出した。
そんなに泣くほど怖かったの?
「無茶はしないようにね。さ、試験はまだ終わってないから、続けるよ」
「はい!」
再び、壁を蹴り、建物内を周回する。
「隊長・・・・・・。かっこいい・・・・・・!」
少女は一人呟く。
「そこまで!」
お姉さんの掛け声で、私は壁から離れる。
「よし、結構稼げたかな」
「いや、私のほうが稼げたぞ!」
だからそれをフラグって言うの。
なんで学習しないかな。
「結果を発表します。成美さん、485点」
「よっし! やっぱり私は強いな!」
成美は私のほうを見てニヤニヤしている。
調子に乗ってるなー。
「フユさん、2096点です」
「え!?」
当然の結果だ。
世界最強の暗殺者を・・・・・・。ってこれもう言い飽きたわ。
「それじゃあ試験も終わったし、帰りますかね」
私はバッグを背負い、玄関へと向かう。
「そうだな。今日は私のおごりで何か食わせてやるよ」
成美はバッグから財布を取り出し、残高のチェックをする。
「え? じゃあ寿司で」
「贅沢だなオイ」
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