AMG編

第11話 召集令

「やった~! 今日は土曜日だ~!」

土曜日の朝、布団から出た私は、大声で叫ぶ。

「休みなんだから、時間を無駄になんてしてられないよね」

早速、私は台所へ向かい、コーヒー豆を挽く。

コーヒーを飲むときに、豆から挽くというのは、単なる私の趣味だ。

「あー、コーヒーのいい匂いだ」

時間の無いときは、インスタントのコーヒーで済ましているけど、時間のあるときは、今日みたいにしてコーヒーを飲む。

いや、別にインスタントも美味しいんだよ?

「今日はどうしようかな~」

たまには散歩しようかな。

あ、映画も見たいな~。

それに、本屋にも行きたいし、やりたい事がいろいろあって迷う。

「よし。挽き終わった。お湯沸かしている間に、顔でも洗ってこよう」

銀色のポットに水を入れ、コンロの上に置き、点火する。

私はその場を離れ、寝室の引き出しからタオルを出し、洗面台へと向かう。


「ふぅ、さっぱり」

タオルで顔を拭き、化粧水を付ける。

まぁ、こんなのでも現役JKだし、美容にも気を使うのです。

「おーおー、ポットが怒ってらっしゃる」

蓋がガタガタ動き、今にも暴れだしそうなポットをなだめようと、急いで火を消す。

「よし、パンもそろそろ焼けるかな~」

そう思った矢先、トースターからパンが飛び出してきた。

「なるほど、こんな感じで出てくるのか」

この間買った『ポップアップトースター (焼けるとパンが勢いよく飛び出してくるやつ)』を今回はじめて使ったが、アニメで見た通りに出てきた。

興味本位で買ってみたけど、なかなか面白いね。

「さて、そろそろ朝食にしようかな」

椅子に座り、手を合わせ、パンを食べようとした瞬間。

『ギャリギャリギャリギャリ! (へヴィメタル風のスマホの着信音)』

スマホを手に取る。

「誰? ・・・・・・って成美かい」

こんな朝っぱらから電話してきたのか。

一体何の用?

そう思い、電話に出る。

「あーもしもし? 40秒で用件伝えて。じゃないとあんたの家行くから」

『何でだよ!』

電話の向こうから、成美から大声でツッコミを入れられた。

そんなに大声で言わなくても聞こえるよ。

「残り30秒。早くしないとパンとコーヒーが冷める」

『はいはい。お前、今年も『AMG』に出るらしいぞ』

「うぇ~・・・・・・。めんどくさいな」

『AMG (Assassin Mission Grand prix)』とは、全国の暗殺組織に所属する暗殺者が集まり、それぞれのミッションをこなしたりしていく、年一の大会のようなものだ。

『今年も、お前出られるらしいな』

「やってられないよ」

ていうかとっくに40秒過ぎてるし。

いい加減、コーヒーが冷めるので、コーヒーを口に含む。

『あ、ちなみに予選あるらしいけど、予選は今日の9時からだから』

「ブハッ!!」

口から勢いよく、コーヒーを吹き出してしまった。

女子高生とあろうものが・・・・・・。

『んじゃそゆことで~♪』

「お、おい、待て!」

スマホに向かって叫んだ瞬間、通話が切れた。

「あんの女ァ・・・・・・!」

あいつ、次会ったら銃乱射しよう。

そう誓った私は、無理やり食パンを口に押し込み、家を飛び出すのだった。


『東京 お台場』

30分ほど車を運転し、ようやく到着した。(法改正により、13歳から自動車免許が取得可能になった)

相変わらず人が多いねぇ。

「よっす」

「ん?」

後ろを振り返ると、腰と背中に日本刀を身に付けた成美が歩み寄ってきた。

ちょうど良かった。今ここでさっきのお返ししよっと。

私は空高く飛び上がり、成美に向かって急降下した。

「『フユちゃんドロップキーック』!」

「ゴフッ!」

私のドロップキックを喰らった成美は、遥か彼方へ飛ばされてしまい、やがて見えなくなってしまった。


20分後

「フ~ユ~!」

ボロボロになって帰ってきた成美は、私に怒りを露にした。

「あ、お帰り。お土産は?」

「こんな状態で買いにいけるわけ無いだろ! 秋葉原まで飛ばされたわ!」

「何、そこから走って帰ってきたの? やるねぇ」

「切り刻むぞ?」

成美は背中から刀を取り出す。

「なるべく大会前に仲間を傷つけたくないんだけど・・・・・・。戦いたいなら相手になるよ・・・・・・?」

私はナイフと銃を取り出す。

『全員注目!』

「あん?」

老人の声が聞こえ、成美が後ろを向く。

「始まったね」

私も、ナイフと銃をしまい、前にあるステージに注目する。

『この度は、本大会に集まっていただき、真にありがとう御座います。早速ですが、試合を開始いたします』

「いや、いきなりかよ!」

「毎回そうでしょ」

この大会に、選手宣誓も、代表の話も存在しない。

この大会は、ただ、戦い抜くだけのものだ。

老人が、若い女性にマイクを手渡し、若い女性が話し始める。

『では第一回戦、ゾンビサバイバルを開始いたします』

「ゾンビ? あと本当にいきなり始めるんだな」

成美が首を傾げる。

ちなみに私も未体験なので、話を聞くことにする。

『ゾンビにつきましては、我々大会運営が開発したウイルスを受刑者などに感染させ、作り出しました』

別にそんなこと聞きたい訳じゃないよ。

ルールを説明してって言ってるの。

「今から10分後、東京都全域にゾンビを配置いたします。なお、このゾンビは都民に襲い掛かり、ゾンビ化させます。貴方方にはこのゾンビを殲滅していただきます。より多くのゾンビを殺したチームに、得点が入ります」

「なぁ・・・・・・。ゾンビって殺せるのか?」

「それは・・・・・・、まぁ・・・・・・。ね?」

「溜められるとイライラするから早く言え」

あえて言わなかった理由を察してほしいものだ。

「ちなみに、このゾンビは貴方方にも襲ってきます。一応、貴方方にはワクチンが御座いますのでご安心ください。ですが、ゾンビ化している間はゾンビと同じ扱いとなり、敵チームから殺される恐れもありますのでご注意ください。以上で説明を終わります。各自、戦闘配置についてください」

女性がステージ上を降り、会場の子達は、移動を始める。

「さて、私たちも・・・・・・、成美?」

成美は顔を真っ青にしている。

「ふ、フユ~~! ゾンビ怖いよ~!」

「はぁ!?」

成美は泣きながら、私の裾にくっついてきた。

えぇい、暑苦しい。

「そんなの気にしている余裕あったらさっさとゾンビ殺しなよ。それに、どうせ数十年後には、私たちも同じような存在になるんだから」

「それはそれで怖い!」

そう。組織では怖いもの知らずとして知られている成美だが、実は、私だけは成美の怖いものを知っている。

それがゾンビだった。

その始まりは、とある映画を鑑賞したことだった。

入隊してすぐの頃、同期だった私たちは、一緒の部屋で生活していた。

ある日、私が借りてきたゾンビパニック映画を一緒に鑑賞していたところ、トラウマになり、このようになってしまったという訳だ。

「あーもう、分かったよ。何かあったら、私が守るから!」

「・・・・・・本当か・・・・・・?」

「私、嘘はいつもつくけど、約束は絶対に破らないよ」

私自身、一度だけ約束を破ったことがある。

でも、それが、あんなことになろうだなんて、思っていなかった。

「本当か?」

「うん。世界一を馬鹿にしないで」

「・・・・・・分かった」

・・・・・・うん。ていうか、何でこんなに感動系シーンみたいになってるの?

ただ、成美を試合会場まで連れて行こうって思っただけだよね?


『まもなく、ゾンビが放出されます』

都内全域に散らばった私たちは、専用のヘッドホンを装着し、そこから聞こえる音声で運営からの指示を待つ。

「そういえばさ、ゾンビになった一般人ってどうなるんだ? 元に戻るんだよな?」

「運営からは一切そういう話は出ていないからね。運営がどうにかするんじゃない?」

一応、自分がゾンビに引っかかれたときや、噛み付かれたときなどに、ゾンビ化を防ぐことの出来るワクチンを所持はしている。

だが、それを一般市民に使っていいかは分からない。

「ゾンビ殲滅なんて・・・・・・。絶対に映える~!」

ハルがスマホで自撮りを開始する。

本来なら、1チーム4人で組むはずなのだが、諸事情により、3人でチームを組むことになた。

メンバーは、私と、成美、そしてハルだ。

「いい? 大人は巻き添えにしても構わないけど、子供は絶対に殺しちゃ駄目だよ?」

ハルに念を押す。

もし、子供を射殺したら、私はハルを殺す。

「分かってるっす、パイセン!」

「それならよろしい」

「なぁ、何でお前はそこまで子供を殺さないことにこだわるんだ?」

「・・・・・・色々・・・・・・ね」

あまり聞かれたくないことを聞かれ、私は口ごもる。

「まぁいいや。それより、そろそろ始まるぞ」

『では、ゾンビを放出します』

その瞬間、都全体から絶叫が聞こえてくる。

「おぉ、本当にゾンビを放出したんだね・・・・・・」

ん・・・・・・? ちょっと待てちょっと待てお兄さーん(8.6秒バズー◯ー)。

「ねぇ、岬は・・・・・・?」

「あ・・・・・・」

東京都全体にゾンビを放ったということは、岬も襲われる可能性がある。

『では、開始!』

合図と同時に、一斉に、周りの子達が、殲滅に向けて走り出す。

「二人は先に行ってて。私は岬を助けてくるから」

「分かった。行くぞハル!」

成美が背中から刀を抜く。

「了解! ファイトっすよ! パイセン!」

二人も、殲滅に向けて、走り出していった。

「手っ取り早い手段を使おうか」

前回同様、空高く飛び、ビルの壁を蹴り光の反射のように移動する。

「早く岬を見つけないと。大会に支障が出る。主に私たちが」


しばらく移動していると、下に、なにやら見覚えのある人物が目に映った。

「く、来るな!」

岬だった。

岬は何とか、周囲にあるもので応戦しているが、全く歯が立たない。

私は急いで、岬の元へ向かう。

「ア゛ァ゛ァァ!」

ゾンビたちは一斉に岬に襲い掛かる。

「っ!」

岬が死を覚悟し、目を瞑った瞬間。

パァン。

銃声が響く。

ゾンビが3体ほど倒れる。

私は岬の前に立ち、左手を岬の前に出す。

「・・・・・・冬・・・・・・!」

「一人でよく頑張ったね。後は私に任せて、岬さんは私のそばを離れないで」

「お、おう」

岬は私の背中にくっつく。

私自身、他人を守りながら戦うのは得意ではないが、私の銃の射程距離内なら守りきれる。

私は銃とナイフを取り出し、銃を前に出し、ナイフを構える。

「さぁ、いつも通り、『Let’s party time』」

「なぁ、それ何? パーティータイムって」

岬が不思議そうな顔をして聞いてくる

「まぁ・・・・・・。ちょっとした、おまじないってとこかな。準備できてなくても、行くよ、岬さん!」

私はゾンビたちに銃を発砲する。

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