第9話 君は何故人を殺すのか
「・・・・・・はぁ」
「どうしたんだ? そんなにため息ばかりついて」
岬が聞いてくる。
「いや、ちょっとね。考え事だよ」
昨夜、あの子に言われた言葉がどうにも頭から離れない。
こんなに悩んだのは何年ぶりだろうか。
「悩みがあるなら相談しろよ? いつだって聞くから」
「その時は頼みます」
岬に相談したとこで、何かが変わると言われるとそうでもない。
所詮は一般人。
私たちとは住む世界が違うのだ。
そんな一般人に、私たちの世界の話をするつもりは無い。
「それにしても、最近全然学校来てなかったけど、何かあったのか?」
「いや? 別に、ただの風邪だよ」
「それならいいが・・・・・・」
実際、私にとっては1週間ぶりの学校だ。
組織からの休みを貰って、自主休校をしていた。
休みとは言っても、普通に仕事したけど。
「・・・・・・岬さん、ちょっと待ってて」
「あぁ」
不穏な気配を感じ取った私は、教室を出る。
「はぁ。懲りないねぇ」
私の前には若い女が血を流して倒れている。
たった今、この女を処分したところだ。
「あー、護衛対象は無事です」
私はイヤホン型マイクで組織と総統と話をする。
『ご苦労。また今日から頼むぞ』
「了解です」
通話が切れる。
私はハンドガンを右側の腰についているポケットに収納する。
「・・・・・・何で人を殺すのか、かぁ」
昨夜、幼女に聞かれた言葉を繰り返す。
「今まで当たり前のように殺していたから、いざ考えるとなると思いつかないね」
私は死体を避け、教室へ戻る。
死体の処理は、組織の事後処理班がしてくれるだろう。
「ほいただいまー」
教室に戻り、自分の席に着席する。
「お帰り。トイレにでも行ってたのか?」
「そんなとこかな」
右手でピースをしながら笑顔を作る。
ふと窓の外を見ると、黒服の隊員たちがぞろぞろと死体の元へ集まっていた。
事後処理班だろう。
「そういえば、冬は治安維持の関係の仕事は上手くやれてるのか?」
「うん。結構やりがいがあるよ」
先日、岬に暗殺関係の仕事をしているところをみられたものの、治安維持の仕事をしているということでごまかせた。
もしかして岬って結構天然?
「一応、体には気をつけろよ」
「ありがとう」
「父上から聞いたんだけどよ。治安維持組織の人たちって、毎日死人が出ているらしいからな。お前は、死ぬなよ?」
「分かってるよ。そんなので死ぬほど、貧弱じゃないよ」
仮にも私は、世界最強の暗殺者だ。
この程度で死んでいては、世界最強の名が折れる。
「それならいいんだけどよ・・・・・・」
岬は机に突っ伏して、寝始めた。
「さてと、帰ろうかな」
放課後になり、私はバッグに荷物をしまう。
ちなみにこのバッグ、組織から支給されたバッグです。
銃弾を弾き返すぐらいに硬いのに、重量はなんと300g。
その上、ポケットが大量にあり、物の収納には一切困らない。
いざというときは煙幕を出したり、バッグをライフル銃・短剣にすることも出来る。最終手段として、自爆装置にもなるらしいけど、絶対に使いたくない・・・・・・。
今日は帰ったら、録画しておいたアニメを一気見する予定だ。
・・・・・・何事も無ければだけど。
「冬、帰ろうぜ」
岬に誘われた私は、「うん」とうなずき、教室を出た。
「なぁ、ずっと思ってたんだけど、今聞いていいか? 他に誰もいないんだし」
人気の少ない廊下を歩きながら、岬が話しかけてきた。
「いいけど、あまり卑猥な質問はやめてよ? いくら思春期だからって・・・・・・」
「んなこと聞かねぇよ!」
「そうなの? とにかく、聞きたいことがあるなら早く聞いて」
流石に昨日と同じ質問をされたら、精神的には来るけど。
一応、心構えをしておく。
「あ、あぁ。・・・・・・前から思ってたんだけど、お前だけ制服皆と違わないか?」
「そっちね」
「何か、一人だけ全く違う制服着てたから。それも何か理由があるのか?」
「えーっとね・・・・・・」
どうするか。
言ってもいいんだけどなぁ。でも組織から何て言われるか・・・・・・。
・・・・・・まぁいいか。
「これはね、私の所属している組織から支給された服なんだ」
「組織って、あの冬が所属している治安維持組織か」
(※岬は冬が暗殺組織に所属しているのではなく、治安維持組織に入隊していると勘違いしています (定期))
「そういうこと」
この制服。一見、見た目はどこにでもあるような制服だが、実際は全然違う。
まず、制服自体が軽い。言い方が誤解を招くかもしれないが、何も着ていないのとほぼ変わらないレベルの重量だ。
そして、制服内に内蔵された超小型AIによって、周りの環境に合わせて、制服内は、常に装着者に最適な温度に管理してくれて、制服内が決して蒸れないようになっている。
その上、制服がかなり頑丈で、並大抵の刃物では服を裂くどころか、逆に刃物が折れる。
ちなみに、この制服は二重構造で出来ており、外側の部分には、特殊ゲルが入っており、相手の攻撃に応じて、自動で硬くなる。プロレスラーやプロボクサー程度では、攻撃をした瞬間、逆に、自分の腕の骨が折れる。
「まぁ、君も入隊すれば支給されるよ。絶対にお勧めしないけど」
「いや仮に勧められても入らねぇよ」
岬に後頭部をチョップされる。
「それでね、こないだ道端で寝ていた猫に引っかかれたんだけどね」
「お前も猫に引っかかれることあるんだな」
コンビニで飲み物を買い、飲みながら住宅街を歩く。
「・・・・・・冬、やっぱり今日変だぞ?」
岬に前に出られ、まっすぐに目を見つめられる。
「え?」
「何かずっと考え事しているような感じだったし、何かあったなら話聞くぞ?」
「・・・・・・別に。そんな大事なことじゃないし」
どうにかしてごまかそうと、必死に返事を考える。
「はぁ・・・・・・。はぁ・・・・・・」
目の前の曲がり角から、中学生ぐらいの少年と、小学生ぐらいの少女が出てきた。
「君たち、どうしたの? 何かあったの?」
私は二人に駆け寄り、怖がらせないように質問する。
「お、お姉さん、助けてください・・・・・・! 金ならいくらでも出します!」
少年が私の元へ這いずってきた。
「助けてって・・・・・・。一体何が・・・・・・。それにこんなにボロボロで」
何が何だか分からず、考えていると、奥から大人の男性と女性が出てきた。
「と、父さん・・・・・・。母さん・・・・・・」
「こんなとこにいたのか。早く帰るぞ」
父親らしき男は、ずんずんと私たちの元へ歩み寄ってきた。
「ちょっといいですか? お父様」
私は笑顔で微笑み、父親を止める。
「・・・・・・何だ? 俺はむしゃくしゃしているんだ。早くしないと殺すぞ?」
父親は銃を取り出した。
よくもまぁ、一般人が本物の暗殺者に対して「殺すぞ」なんて言えたものだ。
なるべく刺激しないように、男に質問する。
「この子供達の傷って、貴方たちがやったものですか?」
「そうよ? 親なんだから、自分の子供をどうしようが、私たちの勝手でしょ?」
母親がそう話す。
「オイ、早く帰るぞ! こんなところをほっつき歩きやがって。帰ったらまたお仕置きが必要だな」
父親は少女の腕を掴み、無理やり持ち上げる。
「痛っ・・・・・・!」
「父さん、妹には手を出すな! 殴るのなら、僕だけにしてくれ!」
少年が父親の腕を押さえつける。
だが、父親がそれを振り払い、少年の頬を拳で殴りつけた。
「正義の味方気取りか? 馬鹿も休み休み言えよ!」
父親は少年を何度も踏みつける。少年はそのたびに血を吐き出す。
おそらく、これまで何度も繰り返されていたのだろう。
「お兄ちゃん! 私のことはいいから!」
少女が必死に叫ぶ。
「テメェら・・・・・・、いい加減にしろ!」
岬が、父親に殴りかかろうとする。
「はぁ? 部外者は黙っててもらえますか?」
母親が、岬の腹を殴り、そのまま足をかけ、顔面を殴りつけた。
「岬さん!」
私は岬の元へ駆け寄り、岬の状態を見る。
良かった。鼻血が出ただけで済んだ。・・・・・・いや良くないんだけどね。
「・・・・・・」
私は無言で、父親の元へ歩み寄る。
「お前みたいなガキに、夢なんか見る資格なんてねぇんだよ! おとなしく俺たちの奴隷として働け!」
少年は、父親に何度も踏みつけられようが、必死に少女を守っていた。
「ねぇ」
私は父親の肩を軽く叩く。
「何だ・・・・・・グヘッ!」
私は思いっきり父親の顔面を殴りつけた。
その衝撃で、父親の歯が何本か折れた。
父親は、通路の壁に激突した。
私は少年の前に立ち、後ろを振り返って少年に話す。
「君、いいお兄さんだね」
「え・・・・・・?」
「妹を守るために必死になるお兄さんのこと、お姉さんは好きだよ」
私は腰から銃を取り出す。
「お兄さん。私は、今、この親を殺すけど、それでもいい?」
私は少年に質問する。
今殺せば、これからは自分たちで生きていくことになるだろう。
逆に殺さなければ、これからも、親の奴隷として生きていくことになるだろう。
どちらを選ぶかは、この少年次第だ。
「・・・・・・断るわけ無いだろ!」
「うん、いい返事だ。妹を守って離れてて」
兄妹が離れたのを確認すると、私はもう一丁の銃を取り出す。
「さぁ、『Let’s party time』」
「ガキが・・・・・・。調子に乗りやがって!」
私は縦横無尽に壁を蹴り、光の反射のように移動する。
「な、何だ!? このガキは・・・・・・」
父親は、銃を構えながらも、戸惑っている。
「撃てるものなら撃ってみな」
「死ねェ!」
父親は銃を乱発するが、もちろん一発も当たらない。
「クソッ!」
父親は銃の引き金を引く。だが、銃弾が発射されない。
「これまでの自分のやった行い。死んで償ってね」
壁を飛び回りながら、父親に、何発も銃を発砲する。
「ギャアアア!」
「お姉さん、ありがとう御座います」
兄妹にふかぶかとお辞儀される。
「ううん、気にしないで。お姉さんは子供達の味方だから」
私はニコッと二人に微笑む。
「これで、僕たちは前に進めます」
「うん。これからは君たちが、自分たちの人生の主役だよ」
「はい! 夢に向かって、歩いていきます!」
少年は、私に誓いを立てた。
「そうだ。君たち、しばらくうちに来ない? 住むところが見つかるまでね」
「いいんですか?」
「うん。総統には私が話しておくし」
「何から何まで・・・・・・。本当にありがとう御座います!」
「いえいえ。それじゃあ、私たちは一旦これで」
私は兄弟たちに手を振って別れた。
「岬さんも、ありがとうね」
「気にするなよ。それに、何かさっきよりいい顔しているよな。悩みなんてなくなったか?」
「うん。完璧になくなったよ」
あの少年の言葉で思い出した。
私が暗殺を続ける理由。
それは・・・・・・。
『世界中の子供達が、笑顔で夢を見られて、笑顔で夢を語れる世界にしたい』
世界中の子供達の夢を守るために、私は暗殺を続ける。
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