第8話 遊戯の夜

「そういえば、明日はお前んとこの護衛対象の誕生日らしいな」

「そうなの?」

深夜

私は、明日から再開する学校に備え準備を、成美は明日の組織への帰還するための荷造りを進めていた。

「ていうかあんた何処からその情報仕入れたのさ。私初耳なんだけど」

「いや? 護衛対象の個人データは組織で管理されているからな。たまたま目に留まったので覚えておいただけだ」

「さすが諜報員兼暗殺者」

私は適当に拍手をする。

私と比べたらこの子もまだまだひよっこだけどね。

「それはお前もだろ」

成美は自分の私服をたたみ、キャリーバッグにしまう。

「私も諜報員業も偶にやるけど、どちらかというと私は暗殺業が多いかな」

「暗殺業ってなんだよ」

「私も初めて聞いたよ。そんな単語」

「お前が言ったんだろ」

ごもっともである。

「で、どうするんだ?」

成美は刀研ぎを始める。相変わらず16tもある日本刀を汗一つかかず平然とやってのけるのがすごい。

見た目とのギャップも半端ない。

「何が?」

「お前んとこの護衛対象の誕生日、祝ってやらねぇのか?」

「あぁ、そっちね。・・・・・・確か、この前、あの子の自分の組織の誕生パーティーをするとか言ってたっけね。別に私は出席しないけど」

「出席の有無は勝手だ。だが考えてみろ」

刀を研ぐ手を止めることなく、成美は話し続ける。

「お前んとこの護衛対象は巨大な組織の娘だ。よって、その誕生パーティーの詳細は全国に知れ渡るだろうな」

「・・・・・・なるほどね」

「つまり、その情報を入手した暗殺者や諜報員が一斉に狙ってくるわけさ」

「・・・・・・」

「そんなわけで、誕生パーティーをやるとなったら、お前の存在が不可欠なんだよ」

「あの子にはSPとかいるでしょ」

成美には、私以外の護衛者が沢山いる。何なら私と同い年の暗殺者もいる。

別に私一人いなくても何とかなるでしょ。

「・・・・・・あのな、雑魚が群れになって戦っても雑魚のままなんだよ。現にそっちの護衛対象の護衛を任された人物、去年だけで何人死んだと思う?」

「そんなの知らないよ」

「ざっと200人だな」

「わ~お」

私は軽くおどけてみせる。

「護衛対象が常に危険にさらされてんだから、そりゃあこんだけ死んでもおかしくない。むしろこれで済んでよかったよ。・・・・・・よし、完璧だ」

成美は新月刀を鞘に納める。

「ふーん・・・・・・。一応考えておこうかな」

「それが良い」

「だって、あの子、結構無茶するタイプだからね。自分にそんな力があるわけでもないのに。現に、私の転入初日なんて雑魚の暗殺者相手に素手で立ち向かってったんだもん」

一応全力で阻止したけど。

「そいつのその勇気は褒めてやる」

「まぁ、強い者に立ち向かう勇気のあるのはあんたもでしょ」

「勇気って・・・・・・。私はただの非行少女だったよ・・・・・・」

「別にいいんじゃない? どんな過去でも」

はい。と私は成美にコップに注いだサイダーを差し出す。

「おっ、今夜はparty timeかぁ?」

「別に疚しいことはしないし。ただ会話したりゲームするだけだよ。チェスでもする? それとも麻雀?」

「両方やるか。今夜は遊びつくそうぜ」

「あんたそうやって最初はやる気だけど、実際は弱いからなぁ」

「うるさいな! 今夜こそお前の連勝を止めてやるよ!」

「上等だよ。かかってらっしゃい」

今ここに、ゲームという名の殺し合い (嘘)が開幕した。


「チェックメイト」

「・・・・・・っ! 負けたぁ!」

成美が後ろ向きに倒れる。

結局、今夜も圧勝してしまった。

「お前どんだけゲーム上手んだよ! 結局ポーカーも麻雀も全部負けたし!」

ポーカーについては、成美の負け惜しみで成美が一番とくいな種目を選んであげた。

「大体どうなってんだよ! 麻雀でも、東家の時点でロンできんの!? 何かイカサマしてんじゃないだろうな!」

「あんたが私の欲しい牌ばっかり捨てるからでしょ。ポーカーのときも、顔に出まくってたし」

「こんな表情で全てが把握できるのはお前ぐらいだよ!」

「まぁ、暗殺業やってると、相手の心理状態の把握が上手くなりますから」

実際に、暗殺業では、他人の感情一つで相手の命を奪われることもある。その為、読心術・心理学は必須なのだ。

「そういえばお前って、かなり頭いいよな。何か資格とか持ってんのか?」

床に寝そべりながら質問してくる成美。別に隠すことでもないので話すことにした。

「えっと・・・・・・。『数検1級』、『漢検1級』、『英検1級』、あと『危険物取扱者』の資格は甲種・乙種・丙種全部持ってる。あと『ITパスポート』は持ってた。それと『秘書検定1級』、『電気工事士 1種・2種』、『ボイラー技士 1級・2級』、『剣道七段』、『食生活アドバイサー』、『心理カウンセリング』、『医師免許』、『歯科医師免許』。あと・・・・・・」

「もういいもういい! 分かった、分かったから!」

成美にストップをかけられた。

成美がやれといったのに、何故止められたのか意味不明だ。

「というか、医師免許とかどうやって取ったんだよ・・・・・・。あとボイラー技士とかも」

「別に、組織内の学校で習ったからね。組織内で試験受けさせられたから、とりあえず持ってる。医師免許とか全然使い道ないんだけどね」

「そりゃあお前は人を殺す側だからな」

「ちなみにまだまだ持ってるよ? 全部言ってもいいけど」

「ここまで言ってまだ残ってるのか・・・・・・?」

「本当なら教員免許も組織内では取れるんだけど、面倒だからパスした」

「お前が教員になったらクラス内どころが学校全体で大量虐殺が起こるからやめとけ」

「・・・・・・そこまで言う? 私泣くよ?」 

流石の私もここまで言われたら悲しくなってくる。

いくら世界最強の暗殺者でも、関係の無い子たちまでは殺さないよ。

というか私、子供は絶対に死なせない主義だから。

「冬。・・・・・・暇だし、夜中の散歩でもするか?」

成美は私に上着を投げ渡した。

「ふふ。まぁ、たまにはいいかもね」

いつもは、夜中でも寝付けない日々だったが、たまには夜中にうろつくのも悪くない。

「とは言っても、そんなに遅くまでは出ないけどね。1時間ぐらいで帰るよ」

「はいはい」


「おっ、今夜は満月だな。冬、月がきれいだぞ?」

「確かにね。満月なんて久々に見たよ」

夜風はやや肌寒いが、このくらいがとても心地よい。

「冬、寒くないか?」

「平気平気。むしろ涼しいよ」

「そうか。・・・・・・ほら、きれいな枝垂桜だぞ」

成美が指をさす。

私たちは山に来ていた。

指差した方向を見ると、枝垂桜が、月明かりに照らされ、なんとも幻想的な雰囲気をかもし出していた。

「・・・・・・なんか腹減ったな。ここで食べるもの、何か買ってくるからちょっと待っててくれ」

「うん。気をつけてね」

走ってコンビニへ向かう成美をただただ見つめる私。

「・・・・・・確かにきれいだね」

風が吹き、枝垂桜の花びらが散っていく。

いつからだろうか、私が他人の血を見るだけの日々になってしまったのは。

昔は、こうやって成美と共に、花などを見に来ていたのに。

「・・・・・・馬鹿馬鹿しい」

私は枝垂桜の根元にしゃがみこむ。

「・・・・・・ん?」

ふと前を見ると、大人と幼女が歩いていた。

一瞬親子連れかと思ったが、幼女の様子がおかしい。

「・・・・・・すみません」

「ん? どうしたのかな? こんな時間に子供だけでうろついたら危ないよ?」

若い男性は、白いハットを軽く上に上げ、微笑んだ。

「それは分かってます。一つだけ質問に答えていただければいいです」

「・・・・・・早く終わらせてね」

「はい。一瞬で終わります」

私は男をにらみつけた。

「その子、あんたの子じゃないですよね」

「ッ・・・・・・! 何でそれを!」

「この子の態度みてりゃあ分かりますよ? あんたがこの子を連れ去って、人身売買しようとしているなんてね」

「貴ッ様ァ!」

本性を現した男は、幼女を突き飛ばし、私に銃とナイフを突きつけた。

「・・・・・・どうするつもりですか?」

私は少しも怯むことなく、淡々と話し続ける。

「知られたからには黙って帰せないんでな。せめてお前が口を聞けなくなるまではいたぶろうかとな!」

「その子を売ってどうするつもりですか?」

「はァ? 知らんよ。いいか? ガキってのはいい金になるんだよ。ガキが大人様のために貢ぐのは当たり前のことだろ? お前も同じだよ」

「・・・・・・あ?」

私は腰から銃を取り出し、男の腹に突きつける。

「ヒッ・・・・・・!」

「子供ってのはな、あんたたち大人の人形じゃないんだよ。子供の非力さを良いことに、好き勝手おもちゃのように扱いやがってよ? 調子に乗るのも大概にしろよ?」

私は男の右頬をちからいっぱい殴りつける。

男の顔を殴ったとき、何かを砕くような感触がした。

おそらく頭蓋骨を破壊したのだろう。

「・・・・・・何の力の無いガキがいい気になりやがって・・・・・・!」

「あいにく、私は治安維持部隊の者なのでね。処刑してもいいよね?」

銃の引き金の部分に指を通し、くるくると回転させる。

「・・・・・・何が治安維持部隊だ・・・・・・」

男は指を鳴らした。

空から何十人ものの悪人が降りてくる。

全員、いきがっているだけのただの雑魚だ。

「せめて今日ぐらいは、ゆっくりしたかったんだけどなぁ」

「治安維持部隊の奴でも、所詮は女一人。これだけの人数を相手になんて出来ないだろ・・・・・・」

男たちは一斉にナイフとハンドガンを構える。

・・・・・・あれ? そういえば女性の方を相手に戦ったこと無いなぁ。どうでもいいけど。

「『Let`s party time』」

「何が・・・・・・、何がパーティだ!」

腹を立てた男は顔面の生命線を狙い、狙撃してくる。

いつも通り、私は難なく回避する。

「やはり噂通りの腕前・・・・・・! ぜひとも我が組織に欲しい人材だ!」

「悪いけど、二股は出来ないよ」

左手に持っていた銃を、右手に持ち替え、隣に立っていた男を狙撃する。

「今の私は機嫌が悪いからね。大サービスだよ」

右側の腰にしまってある、先日おじさんに貰った銃を構える。

これで二丁拳銃だ。

「う、撃てー!」

若い男の指示で、周りの男たちは一斉に私を狙撃する。

銃弾を後方回転で回避する。

私はそのまま狙撃する。

狙撃された何人かの男が倒れる。

「クソ・・・・・・ッ! オイ! このガキだけでも連れて行くぞ!」

若い男は、幼女の首を掴み、無理やり車に連れ込もうとする。

幼女も必死に抵抗するが、大人の男に敵うはずも無く、ずるずると車に押し込められる。

「はぁ・・・・・・。パーテイに水刺さないでくれる?」

私は若い男に向けて銃を構える。

だが、周りにいる輩がマシンガンを連射してくる。

前に転がり、回避する。

転がり終わった直後に、私を狙いピストルで射撃してくる。

「お、なかなか」

すぐさま、再び後方回転で回避する。

私が空中にいる瞬間、男たちがマシンガンを連射する。

私は体を左側にひねり、避ける。

「空中にいるときに射撃をするのは良い手段だね。回避するのが難しいからね。・・・・・・ただし、”普通“の人ならだけど」

私は銃をリロードする。

「君たちはパーティ会場から退場してもらおうか」

銃を横に振り、銃弾を連射する。

一斉に男たちが倒れる。

「最近練習してたんだけど、まさか本番一発で成功するなんてね」

アニメでみた、銃を使う美男子キャラが銃を横に振り、そのまま何発も同時に射撃するシーンに憧れ練習していたのだ。

やっぱり氷牙くんイケメンなんだよなぁ。あの水色の長髪がさらに美男子さを引き出しているんだよね。

しかもあの銃の腕前。まぁ私と比べたらまだまだだけど、それでもかなりの腕前だからね。

「ってな訳で、早く終わらせたいから。おとなしくこの子をこちらに引き渡してくれれば、命までは取らないよ」

「誰が従うかァ!」

男は銃を連射してくる。

交渉決裂ってことでいいのね。

「おとなしく従えば、助かった命なのに」

私はゆっくりと、男へ歩み寄る。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

私に対する恐怖で、男は手から銃を落とす。

私は男の目の前に立つ。

男の額に銃口を突きつける。

「・・・・・・さよなら」

私は、いつも通り引き金を引いた。


「君、大丈夫? 怪我は無い?」

私は幼女の元へ駆け寄り、幼女の前にしゃがみこむ。

「は、はい・・・・・・。ありがとうございます」

幼女は怖がり、涙を流す。

そりゃあ目の前で人が銃で撃たれたんだものね。怖いに決まってるよ。しかもまだ幼いし。

「よーっす・・・・・・。って、もう終わったのか?」

「成美」

成美がコンビニのレジ袋を片手に、私たちの元へ歩いてきた。

「この死体どうすっかな。本部に連絡入れるか?」

「そうして。・・・・・・ねぇ、ここで一緒にご飯食べない?」

「え・・・・・・? いいんですか?」

「大丈夫だよ。お姉さん、子供には優しいから」

私は幼女の頭を撫でる。


「それじゃあ食べようか」

私たちはおにぎりを一つずつほうばる。

「美味しいです」

「それは良かったよ。あ、冬、あとで金よこせよ?」

「おごりじゃないんだ」

しぶしぶながら、私はポケットに手を突っ込み、財布を取り出す。

「・・・・・・お姉さん」

「ん? 何かな?」

「お姉さんは・・・・・・。お姉さんは、どうして、人を殺すんですか?」

「・・・・・・え?」

思いもよらない質問に、私は動揺する。

「お姉さんは、どうして人を殺す仕事をしているんですか?」

「・・・・・・それは・・・・・・」

私は、答えることが出来なかった。

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