第7話 両腕の裏

「さて、今日で休みは終わりだけど、どこか行きたいとことかあるか?」

成美が質問してくる。

買い物帰り、両手に大量の紙袋を持ち駅の構内を歩いていた私たち。服はあまり買わない主義だが、成美が買え買えうるさいので仕方なく購入した。

「別にいいよ。後は帰って休みたいし。成美も疲れたでしょ」

「私は全然。お前の過労死を防ぐためにも、私が動かなきゃいけないからな」

「ふふ。ありがと。でも私も指令がそろそろ来ると思うから、本当に大丈夫だよ」

私は笑顔で成美にお礼を言う。

「だから休みって言ってんだろ・・・・・・」

「あ、じゃあ私も寄るとこあるから少し付き合って」

「いいぞ」

成美の言質を確保した私は、目的地へと走り出した。


私たちは人気の少ない路地裏に来ていた。

「・・・・・・デジャヴか?」

「まさか。今日はあの事務所には行かないよ」

「ヤクザの事務所はお前だけで行ってくれ」

成美は相当あの事務所にトラウマがあるらしく、行くとも言ってないのに拒絶反応を示した。

「で、結局どこに行くんだ」

「えっとね・・・・・・。あ、着いたよ」

私はある店を指差す。

「ここは・・・・・・?」

「私の行きつけの店。店主も優しいから」

私は店の引き戸を引き、入店する。

「・・・・・・いらっしゃい」

バッキバキの高身長の強面の中年の男性が出迎えてくれた。

「怖いよ・・・・・・」

「この人は店長だよ。おじさんは感情表現が苦手だからね。愛想が無い一匹狼のように見えるけど、ちゃんと歓迎してくれてるよ」

「紛らわしい! で、この店は一体・・・・・・」

「武器店だよ。ここで偶に新しい銃とか銃弾を買ったりしてるの」

「女子高生が来る店ではない!」

「・・・・・・お前、何か欲しいものあるか?」

「ヒッ・・・・・・!」

店長が威圧感あふれる表情で成美に質問する。実際に威圧はしてないけど。

「・・・・・・お前、今時日本刀使いとは珍しいな。どこで手に入れた」

店長が成美の背中に隠している日本刀を見て言う。

「こ、これは・・・・・・。我が一族に先祖代々伝わる刀でして・・・・・・」

「・・・・・・随分刃こぼれしているな。貸せ」

「え?」

「貸せと言っている」

「はい! どうぞ!」

成美は急いで背中に隠していた日本刀を差し出した。

「この刀・・・・・・。『新月刀』か?」

店長が大きく目を見開き、驚いた表情をする。

「はい。よくご存知で・・・・・・」

「店長、何? その『新月刀』って」

私の知識でも、その刀は知らなかった。

世の中には知らないことがまだまだ沢山あるんだね。

「新月刀は、平安時代に発見され、刃の部分は月の奥深くに眠っている金属を使って生成されているんだ。一説によると、新月刀はかぐや姫の武具として地球上にやってきたのではないかとも言われている」

店長が刀を光に当てると、刃の部分が鈍く深い青色に輝く。

まるで永遠の夜を表しているかのように。

「それにしても、成美・・・・・・と言ったか? よくこの刀で戦えたな。たいしたものだ」

「どういうこと?」

「新月刀はとにかく重い。人間が使用することは限りなく不可能に近い。軍人6人がかりでも持ち上げるのが精一杯だ」

「そんなに重いのか? 私は常にこれで戦ってたからあんまり感覚無かったけどな」

成美が首を傾げる。

「新月刀の重量は、16tだ」

「16t!?」

私は驚きのあまり冷静さを失い、大声を出す。

通りであの時、刀を借りたときにあんなに重かったわけだよ。

・・・・・・それでも振り回せた私もすごいけど。

「あくまで現時点で判明している新月刀の最も小型のデータだ。今の技術では作れないから、この世に残っている新月刀が全てだ」

「ちなみに今この世に残っているのは何本なの?」

私は興味本位で質問する。

「確か・・・・・・、5本だったか」

「少ないね」

「年々減っているからな。今そこにあること事態が奇跡だ」

「じ、じゃあ、そろそろ刀磨ぎお願いします」

痺れを切らした成美が店長に注文する。

「・・・・・・冬、お前は何を買うんだ」

店長は私を見る。

「銃弾。それと新しいハンドガン一丁」

「銃弾はいつも通りカートン買いか?」

「うん。銃弾って結構すぐ無くなるから、買い過ぎってぐらいがちょうど良いんだよ」

「分かった。ちょっと待ってろ」

店長は店の奥の倉庫へと向かった。

「・・・・・・なぁ、私こんな貴重なものをいつも振り回してたのか?」

「そのようだね。私もこの前その刀投げ捨てたけど」

「ヤクザとの戦いか・・・・・・」

「ほれ、いつものやつだ」

いつの間にか店長が後ろに立っていた。

私はいつも購入しているお気に入りの銃弾を受け取る。

「ありがと。じゃあ会計してくるから、成美はそこで待ってて」

「おう」


「ほれ、刀磨ぎも終わったぞ」

店長が刀 (16t)を成美に手渡す。

「ありがとう御座います・・・・・・。ってめっちゃ綺麗ですね!?」

成美が大声で叫ぶ。

これがギャグ漫画だったら今頃目が飛び出ていただろう。

「店長は刀磨ぎがすごく上手だからね。・・・・・・この時代にそんな需要無いけど」

「何か言ったか?」

店長が私をにらみつける。おぉ怖い怖い。

「何でも無いで~す。それじゃあ私たちはこれで」

「あぁ。また来いよ」

私と成美は店を後にする。

「今日は何事も無かったから良かったね」

「確かにな。毎日毎日仕事は疲れるよ」

「そうそう。・・・・・・ん? 何か忘れているような・・・・・・」

店で銃弾と新しい銃を買う目的は達成できたが、何か一つ忘れているような気がする。

それもかなり重要なことを。

「まぁいっか。どうせすぐ来るし」

私たちは狭い裏路地を通りながら話をする。

「にしても、新しい銃、カッコいいな~。早速使ってみたい」

「一般人には発砲するなよ」

私は引き金の部分をくるくる回して遊んでいた。

すると、突然、血まみれの少年が走ってきた。

「え!? 何事!?」

少年は一目散に私へと駆け寄った。

「た、隊長・・・・・・!」

私は着用している服を確認する。私と同じの組織の制服だった。

「成美、この子私の部隊の子だよ。何があったの?」

「パトロール中に集団で襲撃されました・・・・・・。僕の率いる小部隊は全滅です・・・・・・」

少年は喋るのもやっとの状態だった。

「全滅って・・・・・・。嘘でしょ・・・・・・!?」

「ようやく見つけたぞ。フユ」

後ろから若い男性の声が聞こえた。

「・・・・・・誰? 君とは面識は無いけど」

「おいおい、忘れたのかよ俺の事を」

「いや、本当に知らないけど」

「・・・・・・まぁいい。俺はお前の首を持ち帰るのが仕事なんでな」

「どういうこと」

私が反論すると、男は一枚の紙を私に見せつけた。そこには、私の顔写真がくっきりと写っていた。

「お前には多額の懸賞金がかかっている。その金額、7000兆円」

「7000兆円・・・・・・だと・・・・・・!?」

成美の顔が青ざめる。

「・・・・・・ふーん。遂に私がウォンデットって訳ね。いいよ、相手してあげる。成美、その子を守ってて」

私はおニューのハンドガンを構える。

「『Let's paty time』」

いつもの決め台詞 (?)を放つ。

「『Game start』」

「お、君もセリフがあるんだね。カッコいい!」

私がほめた瞬間、男は容赦なく銃を発砲してきた。

間一髪、髪が数本切れただけで済んだ。

「次は死ぬと思え」

「つれないねぇ。そんなんじゃ女の子にモテないよ?」

お返しとばかりに、私も銃を発砲する。

あえて服を狙い、相手に恐怖心を与える。

「じゃあ、挨拶も終わったし、本気で始めようか」

私は心臓を狙って射撃する。

「ウッ・・・・・・」

「え? もう終わり?」

男はその場に倒れこむ。まさか一発で終わるとは思っていなかった。

「なーんてな!」

「わっと」

男はすぐさま立ち上がり私の額めがけて発砲する。

私は頭を軽く横に倒し、難なく回避する。

「あー・・・・・・。思い出した。君、確か純だっけ?」

「やっと思い出したか! 会いたかったぞ!」

会いたかったという割には、完全に私を殺すつもりで銃を乱射してくる。

「フユ・・・・・・、お前こいつと知り合いなのか・・・・・・?」

「そうだよ。昔一回だけ戦ったけなぁ。あと幼馴染だよ」

「はぁ!?」

正直純の戦闘技術自体はそこまで強くない。苦戦はするだろうが、ハルや成美でも多分戦える。

だが、純の本当の強さは、その不死身さにある。

「本当にしぶといねぇ。しつこい男子は嫌われるよ~」

私は何度も銃を発砲し、そのたびに銃弾が純に当たっているものの、一向に倒れる気配が無い。

「もう首にでも射撃して動き止めようかな」

私は純の喉元を狙う。

不死身でも、首に当たれば動きは止まるだろう。

「ちょっと痛いよ?」

私は引き金に指を添える。

私が引き金を引こうと力を入れた次の瞬間。何故か両腕に力が入らなくなり、手からハンドガンが落ちた。

「バッテリー切れか・・・・・・」

実は、私の両腕はロボット義手であるため、電池が切れたら動かない。

関係ないことだけど今更思い出したよ。店長に義手用のバッテリー貰いに行くんだった。

何で今思い出すかな・・・・・・。

「おいおいどうした? もう終わりかァ!?」

純は私の顔を執行に殴ってくる。

両手が使えない以上、銃で反撃することが出来ない。

「世界最強の暗殺者の名も地に落ちたな!」

私は地面に倒れこむ。純は私の背中を踏みつけ、あざ笑う。

「・・・・・・やーめたやめた」

純は急におとなしくなり、私の背中から足を上げた。

「一方的に叩きのめすゲームが楽しいはずが無い。また腕の充電してから再戦だ」

「おい・・・・・・。待てよ・・・・・・」

「これはせめてもの情けだ。くれてやる」

純は地面に何かを投げ捨てた。

それは私の義手専用のバッテリーだった。

「何でお前が・・・・・・」

「あーあー。俺は何も聞いてない。とりあえずまた今度な。ちゃんと飯食えよ~」

純はヘッドフォンを装着し、立ち去った。

「・・・・・・成美、バッテリー交換してくれない?」

「わ、分かった。ちょっと待ってろ」

私は成美に義手のバッテリー交換をしてもらい、何とか無事に家へと帰ることが出来た。

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