第6話 現金強盗

「えっと~、『チョコアイスチョコチップラズベリーソースラズベリーマシマシ生クリームマシマシパフェ』一つと、『濃厚生クリームマシマシメープルシロップマシマシふわふわ抹茶パンケーキ』一つ」

「私はボンゴレビアンコとハーブティー一つで」

「かしこまりました」

店員さんが厨房へと戻っていく。

私たちは今カフェに来ている。

「・・・・・・成美、あんたそのメニュー何?」

「え? 普通のパフェとパンケーキだけど」

「あれが? もはや復活の呪文かと思ったよ。よく店員も全部メモできたなって思ったけど」

さっきの店員の手の動き見てたけど、私じゃなかったら目で追えないレベルの速度だったよ。

「あ、そういえばさっき貰った銃も回収するからね。ハイ」

「・・・・・・その手は何?」

成美は手を差し出した。

「早く」

「出すわけ無いでしょ。さっきおじさんの銃が無かったら完璧にあそこ終わってたし。あんなことがあったんだから、早く私の銃も返して」

お返しとばかりに、私も手を差し出す。

「私は冬のことを思って言ってるんだけどなぁ・・・・・・」

「私のことより民間人のことを思いなよ。民間人の安全を守るのが私たちの使命なんだから」

「うちらは暗殺組織だけどな」

「うっ・・・・・・! ま、まぁ、私たち一応国の安全のために戦ってるわけだし? うん、全ては国に公認申請を出さない総統が悪い。以上」

正式な役目は、国の安全を守るというより国の治安を維持するための組織だけどね。

警察よりも立場は上だから、警察は私たちの言うことには逆らえないし。

「・・・・・・分かったよ。ホレ」

観念したらしく、成美は私に銃を手渡した。

私はすぐに銃を右側の腰に付いているポケットにしまう。民間人にバレたら大騒ぎだからね。

「にしても、ここには敵がいないから助かったね」

私は店内を見渡す。

「私たちに頼る前に、自分たちで対策しようとする所も増えたからな。仕事が減って助かるぜ」

店員はハンドガンを携帯して働いており、店の外にはショットガンを持っている筋肉質の男性二人が立っている。

「店員まで銃携帯してんのかよ」

「仕方ないでしょ。いまや日本どころか世界中で治安が悪くなってるんだから」

「何で銃の携帯が認められるようになったんだっけかな・・・・・・?」

「2029年に、政府が国民の安全を守るために『国民防衛法』が設立されて、限られた人物のみ、銃の携帯が認められるようになったんでしょ。もっと勉強しなさい」

私はお冷を一口飲む。

「だってさ、政府が国民に銃の携帯を認めたせいでウチらの仕事も増えたわけじゃん」

限られた人物とは言っているものの、国が主催の銃の取り扱い講習と試験をパスすれば誰でも所持することが出来る。

なお、試験を受けられる年齢は3歳から。

「まぁ、実際銃を持つ人が増えたからそれを悪事に使う輩も増えたからね。その代わり私たちの給料はガッポガッポだけど」

私は親指と人差し指の指先をあわせ、お金の形を作る。

「お前の金に対する執着は相変わらずだな・・・・・・」

成美が苦笑いを浮かべる。

「お待たせしました~」

「来たね」

私は机の上に散らばっていたメニュー表を片付ける。

「『チョコチップチョコアイス(以下略)』と『濃厚生クリーム(以下略)』です」

「おぉ、美味そうだな」

「パスタとハーブティーです」

私には随分雑だね。

「ど、どうも」


「成美、そのパフェ一口頂戴」

「嫌だよ。それより冬のパスタ一口くれよ」

私たちは仲良く昼食をとっていた。

「こんなにゆっくり休んだのなんて何年ぶりかな」

「年単位なのか」

「そりゃそうでしょ。有休使おうとしても仕事が入っちゃうんだから」

ハーブティーを一口、口に含む。

あ、美味しいね。

「今は治安維持部隊関連はどこも人手不足だからな。手っ取り早いのは捨て子を拾ったり孤児院や児童養護施設から子供を貰ってきて教育することだけど」

「教育するの誰だと思ってんの? ウチの組織の場合9割私なんですけど」

しかも苦労して育てたわりには、そういう経緯の子供は実戦では全然役に立たない。

言われなければ一切行動しなかったり、戦闘中にパニックになって泣き叫ぶ子供も多々いる。

「結局は入隊試験を受けろってことか・・・・・・」

「そういうこと。少なくとも足手まといにはならないし。ちなみにハルは例外で捨て子だったんだけど、どんどん昇級して今の階級は「16」だよ」

「アイツがか・・・・・・」

余談だが、彼女の所属する組織にとどまらず、全ての治安維持部隊の組織には0~20までの階級制度がある。

当たり前だが数字が高いほうが身分が高い。

この情報は治安維持部隊の統制部隊によって全て把握されている。

「私は「20」だけどね。幹部だから当たり前だけど」

「私なんてまだ「14」だぞ。私も幹部に入りたいな」

「幹部に入るにはランクが「18」以上が絶対条件だからね。せいぜい頑張りな」

現時点で私たちの組織にいる幹部は8人だけど。

「でも、ウチの組織政府非公認組織だったんじゃ・・・・・・」

「確かに非公認だけど、一応治安維持部隊の統制組織には入っているからね。非公認ながらも、活動は認められているんだよ。ただし政府関係者に見つかったら終わりだけど」

「ややこしいし、面倒くさいな」

「そんなことより早く食べなよ」

私はフォークにパスタを巻く。

「今ぐらいはめんどくさいこと考えないようにするか」

「ん~、美味しい!」

久々に出来立てのご飯を食べた。

今までは全部レトルトかインスタント麺だったからね。

それでも美味しいことには変わりなかったけど。やっぱり時代と共に業界も進化してるからね。

「すみませーん」

私は手を上げ声を出して店員を呼んだ。

「はい。ご注文をどうぞ」

「フルーツパフェ2つとナポリタン3つ、それとデミグラスソースハンバーグ4つお願いします」

「か、かしこまりました・・・・・・」

店員は青ざめた顔をして厨房へと戻っていった。

「・・・・・・昔からだけど何でそんなに食えんの。どこぞのギャルか?」

「そんなには食べられないよ。せいぜい寿司40皿くらいかな」

「・・・・・・本気だとどのくらい?」

「まぁ、180皿くらいかな。でも私、自分で自分の食事の量コントロールできないから、大体他の人に「ここまで」っていうのを決めてもらったり、止めてもらったりしてるの。じゃないと私、半永久的に食べ続けるからね」

「何で組織の健康診断に引っかからないんだよ・・・・・・」

実際に、私がお一人様で回転寿司に行ったとき、代金払えなくなって、組織に立て替えてもらったことがあった。

それ以降、一人での回転寿司は控えるようにしている。

「成美もそんな量で足りるの? 私の分少しあげようか?」

「私はそんなに食えないし、私自身が太りやすい体質だから、調子に乗って食いすぎるとすぐに太っちまうからな」

「かわいそ」

「あぁ? んだゴラ? 今すぐ表出ろやコラ」

成美は日本刀を手に取り、席を立ち上がった。

「人前で武器出さないでって言ってるでしょ。行儀悪いから座って」

私が注意すると、成美はおとなしく席に着く。

「お待たせしました。ナポリタン (以下略)で御座います」

「どうも~」

机に置かれたナポリタン、その他諸々を一気に口へと掻き込む。

「美味い美味い!」

「そうかそうかそれは良かったな。重くなって動けなくなっても知らんぞ」

私が幸せにナポリタンを食べていると、外で警察の声がした。

「ん? 事件か?」

成美が窓の外を見る。

外では警察が走り回っていた。

ナポリタンを飲み込み、私は話す。

「・・・・・・あのトラックねぇ」

外には不自然なほどの台数のトラックが何度も走っていた。

「追跡する価値はありそうだね。成美、行くよ」

「分かったけど、先に会計しないと・・・・・・」

「成美よろしく」

「はぁ!?」

私は唖然とする成美を放置し、店の外へ出た。

「・・・・・・あの女・・・・・・!」

一人残された成美は、一言だけ呟いた。


私が路地の陰に隠れていると、成美が合流してきた。

「で、あのトラック一体なんなのさ」

「おそらく、現金輸送車だろうね。あの走行からして、ジャックされた可能性が高いよ」

「政府もさっさと現金な無くせば良いのに。日本だけだぞ、この時代にまだ現金使ってる国なんて」

「なんだかんだで現金って便利なんだよね。目に見えるから残金が分かるし。・・・・・・ほら、そうこうしてるうちにトラックが来るよ」

正面からトラックが走ってくる。フロントガラスを確認すると、やはり、ジャックされていた。

本当の運転手は、口と手を縄で縛られ、助手席に寝かされている。

後ろに何台も続いてる輸送車も、ジャック済みだろう。

「『Let's lunch time』」

私は両腰から、一丁ずつ銃を取り出す。

「あ、今回は違うんだな・・・・・・」

「昼食の最中だからね。さっさと戻って食事を再開しないと」

私は右手の銃で右のタイヤを、左手の銃で左のタイヤを一発ずつ狙撃する。

タイヤがパンクしたトラックは、バランスを失い、壁に衝突する。

「ってことで、さっさと片付けたいんだ。だからおとなしくしてね」

運のいいことに、後方の車両も次々に激突し、玉突き事故になった。

「運が良いな。それじゃあまずは人質の救助するか。フユは犯人の確保よろしく」

「りょーかい」

私たちは左右に分かれ、行動を開始した。


「さてさてお立会い~♪ 犯人はどこにいるのやら・・・・・・」

先ほどの事故で、おそらく全員バラバラになっただろう。

どこから来るか予想が出来ないのが、路地裏での戦闘の厄介なところだ。

「対象を確認!」

迷彩柄の服に身を包んだ男の、野太い声が聞こえ、背後を確認する。背後には7人ほどの男が銃を構えていた。

次の瞬間、一斉に銃弾が発射される。

「わぉ」

後方回転を繰り返し、全弾回避する。

「今は食事中だから、あまり殺したくは無いけど・・・・・・。やむを得ない」

再び両腰に手を伸ばし、二丁、銃を取り出す。

「大サービスだよ」

狙いを定め、的確に一人ずつ射殺していく。

「二丁拳銃とかやってみたかったんだよね~」

銃の引き金の部分をくるくると回転させ、腰に戻す。

西部開拓時代のガンマンになった気分だ。

「死ね」

背後から来た銃弾を、あわてて横に転がり回避する。

「おっとっと。どちら様かな?」

肥満体型の、いかにも財欲に溺れた廃人のような男が立っていた。

さっきの銃の腕前からして、この人間は雑魚だ。

ならばすぐに殺すのは惜しい。

私は輸送車の荷台から、いくらかの札束を取り出す。

「ぼ、ボクちんのマネー! 勝手に触るな!」

「うわー・・・・・・。哀れすぎて涙出そう」

私は札束を空中に放り投げ、次々と射撃する。

「や、やめろぉ~!」

「ほらほら、君のだぁ~い好きなお金がどんどん消えていくよ?」

泣きながら頼み込んでくる男を無視し、私は次々と札束を射撃する。

「た、頼む・・・・・・! やめてください・・・・・・!」

「え? 私に泣いて土下座? 嬉しいなぁ」

私は、全身が痙攣し、よだれが垂れ流しになり、興奮が収まらない。気を抜いたら、地面に倒れ、絶頂状態だろう。

これだ。私の見たかったのは。

今まで積み上げてきた人間のものを壊し、それにより絶望して泣き叫ぶ悪人の顔。そして私に縋り付いたときの上から見下ろす感覚。

クスリをやった感覚に襲われる。実際にやったことは無いが。

「お札が欲しいの?」

私はポケットから自分のお札を取り出し、男にちらつかせる。

「く、くれるのか・・・・・・!」

男はすぐさま飛びついてきた。

私は男の額にお札を付け、銃口で押さえつける。

「『お殺』。どうぞ」

私は額に3発、銃弾を発砲した。


「た、助かりました。ありがとうございます」

救助した運転手たちがほっとした表情で、ため息をつく。

「いえいえ。国の安全を守るのが、私たちの仕事ですから」

私は老人の前にしゃがみ、笑顔で微笑む。

「もしかして貴方たちは・・・・・・、治安維持部隊の方ですかな?」

老人が私に質問してくる。

「まぁ・・・・・・、そんなところですかね」

「それでは、私たちはこれで失礼します」

成美が運転手たちに一礼し、私たちはその場を後にした。

「さてと、仕事も終わったし。ランチタイム再開しようか」

私も腹が減ってしょうがない。早急に食事をしなくては倒れてしまいそうだ。

「さっきの店ならもう会計したから入れないぞ」

「嘘だっ!」

「ほんとだよ。別のところ連れて行くから、落ち込むなって」

「・・・・・・ラーメン屋がいい」

「分かったよ」

私は何のラーメンを食べるか考えながら、ラーメン屋へと向かった。

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