第3話 護衛少女が増えました

「こちらフユ、現場に到着。応答願います」

巨大なビルの入り口付近の死角に身を潜め、私は耳元に装着しているイヤホンマイクで総統と連絡を取る。

学校からの帰り道。岬と帰っていた私は本部からの緊急応援要請を受け、大急ぎで現場まで来た。

『助かったぞ、フユ』

「学校からの帰り道にわざわざ要請出さなくても良いじゃないですか! 今日は護衛対象とパフェ食べに行く予定だったのに!」

『今日中に終わらせないといけない依頼があったものでな。幹部であるお前が行けば早く終わると思ったのだが』

「私以外の幹部もいますよね!?」

『お前以外の幹部は全員そろって有給休暇を使って海外旅行中だ』

「あの人たち・・・・・・!」

次私が本部に帰還したら絶対に有給休暇使う!

「まぁ、今日はさっさと帰って寝たいんで早急に終わらせますよ」

私は腰から銃を取り出しスライドさせる。

「攻撃開始!」

私の一声で、現場に待機していた複数の隊員たちがビル内に突撃する。


「どうした? 元気ないな、冬」

「だ、大丈夫だよ・・・・・・」

はい、大丈夫じゃないです。

結局、薬物密輸組織を壊滅させたあの後、総統から次々に指令が送られてきた。その数、24件。そして全て単独行動でやらされたので、昨晩は一睡も出来ていない。

私を殺す気か。

「とりあえず無理はするなよ」

「了解です・・・・・・」

仕方ない。授業開始まで寝てますか。

私が机に突っ伏した瞬間。

プルルルル

本部から連絡が来た。

「はぁ・・・・・・。岬、ちょっとトイレ行ってくる」

「いってらっしゃい」

私は思い足取りで女子トイレへと向かった。


「はい。フユです」

『フユ。次の指令なのだが・・・・・・』

「もう無理です! 私死にます!」

来るとは思っていたけど、まさかこんな真昼間から指令を出されるとは思っていなかった。

『過労程度で死ぬほどの柔な訓練は受けさせていないぞ』

「私の心が死ぬんです」

これ政府非公認の組織だから気付かれないけど、これが一般企業とかだったらウチの組織終わってるよ?

『で、次の指令なのだが』

無視ってことね。

『とある幼女の護衛を頼みたい』

「またですか!?」

ただでさえ今護衛対象がいるのにこれ以上護衛対象を増やすつもりか。

『その幼女は、政治家の娘で週末家族で旅行に行くらしいのだが、この間依頼者自身が何者かに銃撃されたこともあり、自分の娘の護衛を頼みたいそうだ』

「・・・・・・政治家とあろうものが、暗殺組織に依頼して大丈夫なんですかね」

『一応我が組織は表向きは探偵事務所だからな。ちゃんと探偵らしいこともしているぞ。ただ依頼する場合は口封じするだけだ』

「わ~お、ブラック~」

確かに探偵らしいこともしているが、そのほとんどがペットの捜索などだ。

「まぁ、護衛くらいなら・・・・・・」

『ありがとう。では明日、しっかり頼むぞ』

「了解です。それでは失礼します」

私は本部との連絡を切る。

・・・・・・よく考えたら、会話しているのイヤホンマイクだから、他の人から見たら一人でずっとぶつぶつ喋っているようにしか見えないんだよね。

「誰も見てないしいいけど」

私は教室へ戻った。


「いい天気だ。にしても冬から誘ってくるなんて珍しいな」

岬がパーカーに手を入れながら話す。そして何で制服?

「その~、いろいろありまして・・・・・・」

正直めんどくさいが、岬から目を離してはならないので、一緒に連れて行くことにする。

そして、ハルをはじめ私の部隊の人員をかき集めた。その数、60人。

「これだけいれば大丈夫でしょ」

「何が?」

「いや、なんでもないよ」

そしてこの仕事が終わったら、有給使って休む!

「貴方が、娘を守ってくださる方ですかな?」

「あ、こんにちは」

私の後ろには、シルクハットをかぶり、スーツに身を包んだ60代くらいの男性が立っていた。その後ろに隠れるロリータファッションに身を包む女の子。

恥ずかしがり屋なのかな?

「こんにちは。私フユって言います!」

恥ずかしがっている子には、まず挨拶をして心を開いてもらう。

「こ、こんにちは」

「今日はお姉さんと一緒にお出かけします! いいかな?」

女の子を怖がらせないように、常に笑顔で接する。

「・・・・・・うん」

「良かった! じゃあお姉さんと手を繋ごうね」

女の子が私の手を掴む。これでどこかに行ってしまうということはないだろう。

片手使えないのが不便だけど。

「それでは、私の娘をよろしくお願いします」

男性が私に礼をする。


「ここはこの町一番のお好み焼きの屋台です。一つ食べてみますか?」

私は正面にあるお好み焼きの屋台を指差す。

「それじゃあ一つ頂こうかな」

おじいさんの了承を得たので、お好み焼きの屋台に直行する。

「お好み焼き3つお願いします」

屋台でお好み焼きを焼いているおばちゃんに指を三つ立て注文する。

「あら、冬ちゃん! いつもありがとうね。今日は町案内かい?」

おばちゃんはこちらを見るなり、笑顔になる。

「それもあるけど、その娘さんの護衛」

「・・・・・・そうかい。気をつけてね。無理はしないようにね」

「分かってるよ」

屋台のおばちゃんとは幼い頃からの知り合いで、私が暗殺者をやっていることを知っている、数少ない理解者である。

「はい、おまちどうさま」

私はおばちゃんから紙皿に乗せられたお好み焼きを受け取る。


「はい、あーん」

女の子にお好み焼きを食べさせる。

「・・・・・・美味しいです」

「良かった」

私は警戒を緩めることなく周囲を確認する。念のためボディーガードもいるらしいが、ボディーガードで守れるかは不安だ。

私もお好み焼きを食べようとしたとき。

『パイセン。クロが現れました』

イヤホンからハルの声が聞こえる。

「了解。部下たちに足止めしてもらって。私は護衛対象たちを避難させるから」

『分かりました。ご武運を』

そういい残し、通話が切れる。

「おじさん、ちょっと耳を」

「ん? どうかしたのかい?」

私はおじさんの耳元で話す。

「暗殺者が現れました。早く避難しましょう」

「・・・・・・分かった」

「ねぇ皆、バスに乗って移動しない?」

私は不自然にならないように皆に提案する。

「それいいな。早速乗ろうぜ」

「ほら、早紀」

おじさんが女の子の名前を呼ぶ。

「うん」


「それじゃあ運転お願いします」

「了解です」

バスの運転手に挨拶をする。

ちなみにこのバス、組織のバスだ。

一見乗客に見える人たちも全員私の組織の部下たちだ。

「私はちょっと用事があるから、皆で先に行ってて」

「分かった。早く来いよ」

岬がバスの窓から手を振り、バスが出発する。

「さてと、始めますかね」

私が腰に手を伸ばしたとき。

「お姉さん・・・・・・・」

「・・・・・・え?」

なんと早紀が乗り遅れていた。

「えっ!? ちょ、タイムー!」

私の叫びもむなしく、バスはどんどん遠ざかる。

「最悪だよ・・・・・・」

私は声を上げて泣き出したくなった。

もうこうなったら組織本部に預かってもらおうか・・・・・・。

「いたぞ! 撃て!」

複数の男たちがピストルを手に銃を発砲してきた。

「最悪のタイミングだ・・・・・・」

泣きっ面に蜂とはこのことだ。私は近くにあったコンビニに逃げ込んだ。


コンビニのトイレに逃げ込んだ私たちだったが、既にコンビニのカウンターなどは制圧されてしまった。

「お姉さん・・・・・・」

「大丈夫だよ。怖くないから」

正直な話。この程度の状況なら打破できる。

しかし、店内で銃を取り出したら、即座に通報されてしまう。そして女の子も、自分の命を狙っている人とはいえ目の前で人が銃殺されているところを見てしまったら、一生の心の傷として残るだろう。

「さて、どうしたものか・・・・・・」

私は頭をフル回転させる。

「お姉さん。本当は暗殺者なんですよね?」

「・・・・・・え?」

予想外のことを言われ、私は戸惑う

「不自然だったんですもの。食事中に謎の会話をしたり、すぐに席を離れたりするんですもの」

「・・・・・・ふーん。君頭良いね」

「そしてその上に羽織っているコート。組織から支給された奴ですよね」

「・・・・・・なんで知ってるの?」

次の瞬間、女の子は予想外の事実を口にした。

「だって、私も組織に仮入隊してましたもの」

「!」

「とはいっても、体が弱いせいでまともに実戦に行けず、最終的には組織を追い出されました。お姉さん。私のことは気にせず戦ってください。私は戦闘は出来ませんが、足手まといにならないことは出来ます」

早紀は私を見た。迷いの無い目だ。

「分かった」

次の瞬間、トイレの個室のドアが蹴破られた。

「死ねぇ!」

男が銃を乱射する。

私はとっさにコートでガードする。このコートは防弾なので、無傷で防ぎきれる。

「ハッ!」

私は銃を取り出し、男たちに発砲する。次々と倒れていく男たち。

「さぁ、『Let's party time』」


私はトイレを脱出し、店内の様子を確認する。

「よし、人質はいない」

思う存分銃をぶっ放せるね。

「何だ貴様・・・・・・グアッ!」

正面に居た男に銃弾を一発、カウンターに居た男4人に一発ずつ発砲する。

「フン!」

「おっと」

後ろから男が鉄パイプを振り下ろしてきた。私は地面に転がり回避する。足払いで男の体勢が崩し、心臓に銃弾を放つ。

「やっぱり心臓に撃つのは気分のいいものじゃないなぁ」

長年の暗殺者経験でしみじみと思う。


「さて、今回の黒幕を・・・・・・」

複雑に入り組んだ商店街を進む。こんなところで発砲でもされたら大パニックになるだろう。

「先に見つけるしかなさそうだね」

「はい、なるべく被害を最小限にするためにも」

私は銃を隠し、あたりを見渡す。

「お姉さん、6時、9時、4時、2時の方角に敵を確認」

早紀が言った方角を確認する。男が銃を構えている。

「サンキュー」

まず2時の方角にいる男を狙撃する。

「じ、銃!?」

「逃げろー!」

民間人が避難する。

ラッキー。民間人がいなくなったおかげで視界が良好になった。

これなら勝てる。

「この女ァ!」

男がマシンガンを連射してくる。やっぱりマシンガンって需要高いんだね。

「ほいっと」

私はすかさず小型爆弾を放り投げ、起爆スイッチを押す。

この小型爆弾はハルに貰ったものだ。

爆弾が爆発し、周囲に煙が充満する。

「くっ、前が見えない!」

男たちは混乱状態だ。

そして運のいいことに、黒幕が騒ぎを聞いて駆けつけた。

「何だよあの女! 人間の動きじゃねぇ!」

黒幕もあまりの私の凄さに驚いているようだ。照れるなぁ。

「・・・・・・そろそろおしまいにしようか」

銃をリロードし、スライドさせる。相手が正面から放ってきた銃弾に、私も銃弾を放つ。銃弾同士がぶつかり合い相殺された。

「っ!」

「アデュー」

私は黒幕と他の男たちに銃を発砲した。


私は黒幕の男の前にしゃがみこみ手を合わせる。

「任務完了」

「すごいですね、お姉さん」

早紀が近寄ってきた。

「まぁ、世界最強の暗殺者だもん」

世界最強ならこの程度の敵が倒せないでどうする。

「・・・・・・お姉さん、これからも頑張ってくださいね」

「そうだね。世界のために、これからも頑張るよ。それじゃあ帰ろうか」

「はい」

私は早紀と手を繋ぎ、夕焼けに向かって歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る