第2話 映え意識のイマドキ暗殺者

「さてと」

帰りのホームルームが終わり、私は荷物をまとめる。

昨日は転校初日から暗殺者が襲ってきた。だが、今日は何事も無く一日が終わった。

放課後の岬の護衛は組織の部下が担当しているから、私はゆっくり休める。

ちなみに私の新しい住処は高級マンションだった。組織が手配してくれたらしいがどう考えても怪しまれるでしょ。女子高生が一人で高級マンションって。

「あのさ」

「ん? 何?」

隣の席の岬が声をかけてきた。

「放課後、どっか寄り道しねぇか?」

「寄り道?」

「べ、別に嫌ならいいけど」

寄り道か・・・・・・。青春あるあるじゃん!

学校からの帰り道、友達と放課後にショッピングセンターに寄っていくやつだよね。

「いいよ。どこ行く?」

「・・・・・・ゲームセンター」

「おー。いいね!」

そうと決まればさっそく出発だ。

というより岬から目を離しちゃいけないからね。


「ここがゲームセンターかぁ・・・・・・!」

人生初のゲームセンターに、私は童心に帰る。

「何だよ、お前ゲーセン来たことないのか?」

「うん。親の教育方針で、こういうところには出入りしちゃいけないんだ」

本当は組織内での戦闘訓練と、指令が忙しくて来る暇がなかったんだけどね。ていうか組織に来る依頼とか皆やりたがらないから、9割私が処理してるんだけど。

おかげでついに1ヶ月前過労で倒れたよ。

「それってまずいんじゃないのか・・・・・・?」

「大丈夫だよ。今は一人暮らしだし、お母さんとも離れて生活しているからね」

「それならいいが・・・・・・」

私たちが店内に入ろうとする。

「よーっし! ここはいい映えスポットになりそうね!」

私たちの隣から甲高い声が聞こえた。

白髪ボブヘアーの少女は、スマホで自撮りしながら喋っている。動画撮影でもしているのだろうか。

「誰・・・・・・。って『ハル』!」

「ん? あ、パイセンやっと見つけましたよ~! 探すの大変だったんですよ?」

「ちょっと来て!」

私はハルの口を手でふさぎ、トイレへと連行した。

「岬さん、ちょ~っと待っててね! 絶対にそこから動いちゃ駄目だよ!」

トイレからひょっこり顔を出した私は、岬に念を押す。

「お、おう・・・・・・」


「で、何でハルがここに」

私は腕を組みながら話す。

「総統から、『お前もフユの手助けをして来い』って命令されたんですよ」

「総統もよりによってハルを出さなくても・・・・・・」

私は顔を手で覆い嘆く。

ハルは我が組織の中でも一番の問題児なのだ。

何度言っても被害を最大限にして指令達成して帰ってくるし、総統の命令には従わない。総統が優しい方じゃなかったらとっくに部隊追い出されてるよ。

だが、実力は本物なので、私の率いる部隊の副隊長を担っている。

そして彼女は、戦うときに常に『映え』を意識して戦っている。殺し合いに映えもクソもないでしょ。

「そして、わざわざゲームセンターにまでついてきたの?」

私はハルの目線まで屈む。

ハルは身長が低いため、かなり屈まなくてはならない。

「いえ、普通にゲームやりに来ました。パイセンも一緒に・・・・・・」

「帰れ」

「そんなぁ! 先輩が冷たい!」

いつもならまだ考えてもよかったが、今は護衛対象がいる。下手な行動は出来ない。

「大丈夫ですよ。護衛対象を傷つけたりしませんって」

「・・・・・・本当に?」

「はい! 悪魔に誓います!」

何故悪魔に誓うの。

「それじゃあ戻りますか。本当は岬から目を離しちゃいけないんだよね」

「それは大変ですね! 早く戻らないと!」


「ただいま~」

「遅かったな。・・・・・・そっちの子供は?」

岬はハルを指差す。

「私の部下、じゃなくて・・・・・・私の後輩だよ。ハルって言うんだ」

「よろしくね! 岬!」

「・・・・・・よろしく。で、その肩に担いでいる大きいバッグは何だ?」

岬がハルの肩に担いであったバッグを指差す。

「気にしないでね」

「そ、そうか。それより早く行かないと時間なくなるぞ」

「ほんとだ。早く遊ぼうか」


「何でハルまでついてくるのさ」

私たちの遊びに何故かハルまで同行してきた。

「仕方ないですよ。総統からの命令なんですから。二人で協力しろって」

「そうか・・・・・・。・・・・・・ん?」

私は不穏な気配を感じ取る 

「・・・・・・ハル」

「分かってます」

さっきから不自然なまでにすれ違う人たち。私は相手の腰を注意深く見る。やはり武器が隠されていた。

「暗殺者がいますよ、先輩」

「早いところ片付けようかなぁ」

私は腰に装着してある銃に手を伸ばす。だが、ハルによって阻止される。

「何で止めるの?」

「今ここで銃を取り出したら攻撃されます。戦うのならば、護衛対象を安全なところに移動させないと。それに民間人もいる中で銃を乱射したら・・・・・・」

「面倒なことになった・・・・・・」

世界最強の暗殺者である私も、ここにいる600人余りの民間人を守り同時に戦うことは出来ない。

「まずは様子を見ましょう。背後の警護は私がやりますので、パイセンは前方と左右をお願いします」

「分かった」

前方、敵なし。左右、敵なし。

「岬さん、何がしたいの?」

「え? そうだな、プリクラってのやってみたいんだ」

「プリクラか・・・・・・」

「どうかしたか?」

「いや、何も」

プリクラは予想外の攻撃を受けた際に対処するのが一番難しい台だ。

左右の視界は隠されているし、機械の音声が大きいので、とっさに気付けない。

「・・・・・・いいよ。やろっか!」

「そうだな」


『写真のモードを選んでね!』

「うるさいな・・・・・・」

「それは私も思うよ」

外の警護はハルに任せることにした。

『最初はにっこりピース!』

私たちはカメラに向かってピースをした。シャッターを切る音が聞こえる。

『次は手でハートを作ってみよう!』

再びシャッターを切る音が聞こえる。

その時。

『パイセン、敵です』

耳につけている連絡用イヤホンからハルの声がした。

「岬さん、ちょっとまっててね」

私はプリクラの台を飛び出し、車のゲームの台に身を潜めた。

『すぐそばまで来てます。手に銃を所持しています。どうします? 応戦しますか?』

ハルが焦った喋り方で話す。

「だめ。この状態で銃撃戦をしたら、民間人まで犠牲になる」

『でも残り100m以内まで迫っています』

「まずいな・・・・・・」

私はあたりを見渡す。

・・・・・・これならいけるかもしれない。

「ハル、まずは岬を安全なところまで避難させて。それまで私一人でどうにかする」

『分かりました。気をつけてくださいね』

通話が切れ、プリクラの台から岬が出る音がする。

「『Let's party time』」

一言つぶやく。


私はまず、民間人が手に持っていたペットボトル、スマホ、財布に銃を発射した。

「な、何だ!?」

「逃げろー!」

当然、恐怖を覚えた民間人は急いで避難する。これで民間人の安全を確保した。

「あとは対象を暗殺するだけだね」

私は銃をスライドさせる。

「いたぞ!」

「!」

正面から、男3人が銃を発射してきた。

横に飛び、一発発射。そして前に転がり二発発射。

「流石に視界が悪いなぁ」

私は走りながら銃を発砲する。早いところ黒幕を処分したい。

「そこだ!」

背後からマシンガンを連射される。後ろに飛び四発発砲する。

再び目の前に来た男を狙って引き金を引いた。引き金の重さが無く、銃弾も発射されない。

「玉切れか!」

玉切れを確認すると、私はマシンガン連射を掻い潜り影に身を潜める。

「玉の無駄遣いはやっぱり良くないよね」

リロードし、銃をスライドさせる。

「バカめ!」

「まずい・・・・・・!」

銃のリロードに気をとられ、背後に居た敵に気付かなかった。

やっぱり鈍っている。

「伏せてください!」

どこからともなく声が聞こえた。言われたとおり私は地面に伏せる。

すると、上から銃弾の雨が降ってきた。

「ハル!」

1つ上の階にハルが立っている。

ハルがガトリングを連射してくれたおかげで、私は事なきを得た。

「さぁ、『It's showtime』!」

ハルは再びガトリングを連射する。ガトリングに対して、ピストルが敵うはずも無く男たちは次々に地面に倒れていった。

「これは映えるよ~! ハッシュタグ「ガトリング連射」で拡散してね!」

そんなハッシュドタグがあってたまるか。

本気で日本終わるわ。

「さてと、黒幕はどこかな・・・・・・」

ゲームセンターの陰に身をを潜めながら走る。雑魚共はハルがまとめて排除してくれている。

「居た!」

船のようなものに乗っている対象を確認した。

私は銃をスライドさせ、一発放つ。

「・・・・・・ハッタリか!」

私が撃ったのはただの上着だった。

相手を欺くには定番の手段だ。

『パイセン、4時の方向に対象を確認』

イヤホンからハルの声が聞こえる。

「了解」

4時の方向を見ると、対象が引き金に手を当てていた。

「アデュー」

私は対象の心臓に発砲した。


「さてと。パイセン! 早く撤収しないとサツ来ますよ!」

「分かってる!」

ハルは急いでガトリングを分解し、バッグの中に詰め込む。

「・・・・・・安らかに眠ってください」

私は対象の男の前にしゃがみ、手を合わせる。

その後すぐ、ハルが降りてきた。

「それじゃあ脱出しようか」

「そうですね!」

私は岬を連れて急いでゲームセンターから脱出した。


「ごめんね岬、プリクラ撮れなくて」

今度また別のところに連れていってあげようかな。今回の事故は完全に私たちの不注意だったからね。

「いや、大丈夫だ。プリクラじゃなくても、思い出の写真ならいくらでも撮れるさ」

岬はスマホを空中にかざした。

「ほら、ピースして」

「う、うん」

「イェーイ!」

パシャ

「うん。いい写真だな」

「どれどれ?」

私が岬の写真を覗き込む。

スマホの奥では、普段は見せない岬の笑顔がくっきりと映し出されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る