クラスの女子を護衛する指令を与えられました。

神楽咲久來

日常編

第1話 守る者、守られる者

「こちらフユ。対象を確認」

「よし。攻撃に入れ」

廃工場の中、ドラム缶の影に身を潜め私は銃を構える。対象はまだこちらには気付いていない。

「そこか!」

「っ!」

敵の仲間の男に後ろから狙撃される。が、間一髪横に転がり、お返しとばかりに男を狙撃する。

「ぐあっ!」

男の腹部からは血が流れる。慣れてしまえばなんともない。

「居た」

対象の男を確認した。私はピストルのスライドを引き、男の頭上に発砲する。

「ぅ・・・・・・」

頭部を狙撃されてもまだ動いている。

一発で駄目なら二発撃てばいい。それでも駄目なら死ぬまで撃つまでだ。

腹、胸、そして頭部。先ほどのと合わせ合計四発で男は死んだ。男はピクリとも動かない。

「・・・・・・安らかに眠ってください」

男の前にしゃがみ手を合わせる。人を殺したのだから、せめて安らかに眠り来世で生まれ変わることを願うのが筋ってものだ。


組織本部に帰還した私は、総統から呼び出された。

「ご苦労だった、フユ。流石は我が組織最強の暗殺者だ」

目つきが怖く、見た目のせいもあり他の部下からも恐れられている総統だが、本当は優しいのだ。総統が怖いというのはただの偏見だ。

「お褒めいただき光栄です」

「さて、次の指令なのだが、お前には高校に入学してもらう」

「入学・・・・・・ですか?」

「そうだ。この資料を見て欲しい」

総統の机に一枚の紙が乗せられる。私はそれに目を通す。

「この少女の護衛を頼みたい」

「護衛って・・・・・・、私暗殺者ですよ?」

「暗殺者でも護衛はするものだろう?」

どういう理論だ。

「この少女は、とある組織を運営している方の一人娘でな。この少女を狙ってくる他の暗殺者が後を絶たない」

「組織って・・・・・・。一体何の組織を」

「それは知らん」

「そこは知っておいてくださいよ!」

総統は偶に抜けているところがあるのだ。

「お前も学校には通ってなかっただろ?」

「まぁ、確かに」

学校に通ってないとは言っても、組織内での暗殺者育成学校は入っている。私はそこで歴代最高の成績をたたき出したため、組織内歴代最年少の幹部として活動している。

「それに、お前も学校に行ってみたかったのだろう?」

「え?」

「お前の部屋に大量の青春漫画や小説が散らばっていたからな。どんな馬鹿でも分かる」

「勝手に人の部屋に入らないでくださいよ」

だから組織内に住むのは嫌だったんだよ。確かに組織内で生活すれば、三色食事付き・万が一のことがあった場合守ってもらえるけど。

せめてプライバシーは尊重してもらいたいものだ。

「で、頼めるかな?」

「了解です」

「では明日の朝出発だ。入学手続きはこちらで済ませておく」

総統はコーヒーに粉を入れる。

「助かります」

「ではもう行ってよいぞ」

総統は口にコーヒーを含む。

「ブーッ!」

コーヒーを勢いよく噴き出した総統。きれいな虹が見えた。汚いけど。

「総統!? どうしたんですか!?」

総統の斜め後ろに立っていた黒人のボディーガードが駆け寄る。

「しょっぺぇ! 何だこれ!?」

「多分砂糖じゃなくて塩入れたんですよ!」

放っておこう。

ボディーガードと総統のくだらないコントを背にし、私は部屋を後にした。


翌朝

荷物をまとめ、私は組織の車両に搭乗する。

「気をつけてな」

総統が手を振る。そういうところが子供らしい。

「はい。必ず生きて帰ってまいります!」

車両の後ろの窓から総統に敬礼し、座席に再び戻る。

「さーて、どんなことが始まるのかな」

私は首からぶら下げている月型のペンダントを手に取る。

「・・・・・・Let's party time」

私はそうつぶやいた。


「桜井冬と申します。これからよろしくお願いします」

よし。第一印象はいい感じかも。

「じゃあ桜井さんは・・・・・・、岬さんの隣ね」

窓際にいる少女の隣の席を指差す。岬という少女は机に突っ伏している。

「分かりました」

組織のおかげで護衛対象の席の隣になることができた。

「よろしくね」

「・・・・・・よろしく」

顔を上げず、岬は一言だけ話す。

ワイシャツの上に水色のパーカーを羽織り、パステルピンクの髪色の少女はどこかぶっきらぼうな印象を与えてきた。

「さて・・・・・・」

さっとクラス内を見渡す。見たところ武器を暗殺者はいないようだ。

一目見ただけでは分からないけど。

「それでは授業を始めます」

「よしっ」

私が夢にまで見ていた授業。

青春漫画などで知り、今日までずっと待ち望んでいた。

しっかり取り組まないとね。


「・・・・・・」

暇すぎる。

全て組織内の学校で習った授業ばかりだ。

何を隠そう、私は齢17にして学力は大学卒業レベルなのだ。

その上、組織内では戦闘訓練もあったので、こんなに長時間ずっと座っているのは退屈でしょうがない。

「・・・・・・」

「ん?」

前の席の少女がこちらを見つめている。


「さてと。お昼でも買いに行こっと」

夢の学校生活の目標パート2、購買でお昼ご飯を買いに行くこと。

私は急いで廊下を走る。

「こら~、廊下は・・・・・・」

組織で鍛えた脚力で、次々と他の生徒を置いてけぼりにする。


「わぁ~・・・・・・! 美味しそう・・・・・・」

目の前に広がる宝石箱、という名のお昼ご飯。おにぎりなんてものもある。

ためしにこれを買ってみよう。

私は明太子のおにぎりを手に取った。

「すみません、これください」

「はいよ。100円だよ」

安いね。おにぎりってこんなに安かったんだ。


「ん~! 美味しい!」

校舎裏でおにぎりをほうばる。

「・・・・・・おや?」

校舎の裏の奥で誰かの叫び声がする。女性の声だろうか。

「行ってみよう」

私は残ったおにぎりを全て口に突っ込み、走り出す。


「・・・・・・岬さんか」

岬が複数の女子生徒に暴行を加えられていた。

もしかして岬って嫌われ者?

「お前、転校生が来たからってイキってんじゃねぇよ!」

女子生徒の一人が岬の顔を平手で叩く。

別になんもイキってなかったじゃん。どう見たら岬がイキってるように見えたの?

「ねぇ」

「・・・・・・誰?」

私はいじめを止めようと前に出た。

私には関係の無いことだけど、流石に護衛対象が暴行を受けているのは阻止しないとね。

「何? 邪魔するんだったらあんたもこうなるよ?」

「うわ、ダッサ」

あまりにも愚かで滑稽なので笑い出してしまった。

「この~」

馬鹿の拳。

そんな攻撃で最強の暗殺者を仕留められるとでも思ってるの?

「ふっ!」

少し力を見せてあげることにする。

相手の拳を右手でいなし、左手で腹部を殴る。

「この~」

はい来ました、馬鹿のする蹴り。

蹴りを入れてきた足を掴み、後ろに投げ飛ばす。

「どう? 分かった?」

私は倒れた少女二人と、前に立っていた少女三人を見つめる。

「に、逃げろ~!」

「ばいばーい、二度と来ないでねここに」

走って逃げていく無様な背中に向かって私は笑顔で手を振る。

「・・・・・・何で助けた」

倒れていた岬が起き上がり、私をにらみつける。

「え?」

「何で助けたのかって聞いてんだよ!」

「何でって言われても・・・・・・」

流石に護衛対象に、『貴方は護衛対象なのです』だなんて言えないしな~・・・・・・

私がちょうどいい言い訳を考えていると。

「見つけたぞ!」

「!」

後ろから男が歩いてくる。手にはピストルが握られている。

「気付かなかった・・・・・・」

情けない。最強の暗殺者なのに、雑魚一匹の気配に気付けなかった。

「おい、何だよ!」

岬が前に出て、ボクシングのような構えを取る。もしかして岬って喧嘩っ早い? だからさっきいじめられてたの?

「岬さん駄目!」

相手は雑魚とはいえ、戦歴のある暗殺者だ。普通の女子生徒が戦える相手ではない。

「死ね・・・・・・」

男が容赦なく銃弾を放つ。私は岬を突き飛ばした。

「何で守るんだよ! お前じゃ無理だろ!」

「普通の女子高生が暗殺者相手にまともに戦えるわけないでしょ!」

「それでもここでやらなきゃ皆死ぬんだぞ!」

「でも!」

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

男がまた発砲してきた。大量に発砲される銃弾の目を掻い潜り、校舎の陰に身を潜める。

「・・・・・・もうこれ以上、何も失いたくねぇんだよ・・・・・・!」

「なにが?」

岬は手で顔を覆った。

「何も守れずに、ただ目の前で人が死ぬのを、もう見たくないんだよ・・・・・・!」

「・・・・・・分かった」

岬も私と同じだ。

何かを失う怖さを分かっているもの同士だ。

分かったよ。岬を守る理由が。

「岬さん、ちょっとここで待ってて。絶対に動いちゃ駄目だよ」

「おい、冬!」

私は岬ににこりと微笑んだ。

「私が、貴方の盾になるから」

「・・・・・・分かった」

私は物陰から出た。正面には男が立っていた。

「やっと降参したか。さっさとあの女を出せ!」

「さぁ、『Let's party time』」

私は腰に装着していた銃を取り出した。

男に向けて一発発砲する。

「くっ・・・・・・」

やはり弱い。足元に銃弾が当たっただけで苦しみだした。

「もうおしまい?」

「ふざけるな!」

男が起き上がる。

「おっと」

男は銃を発砲した。私は横に飛び回避する。そのまま一発発砲する。

「がはっ!」

男の額に当たり、動かなくなる。やっぱり狙うのは額だよね。

「死んでるね」

男が死んだことを確認し、私はいつも通り、男のそばにしゃがみ手を合わせる。

「さて、岬は大丈夫かな」

見られてないと良いけど・・・・・・。

「岬、大丈夫?」

「・・・・・・勝ったのか?」

「うん。あんまり強くなかったからね。昔習った護身術で勝てたよ」

全くの嘘である。護身術どころか、習っているのは殺人技である。

「ねぇ。さっき、何で助けてたんだって言ったでしょ?」

私は壁にもたれかかっている岬の前にしゃがみこむ。

「・・・・・・言ったよ。もう一度聞く。何で助けたんだ」

「・・・・・・それはね。貴方が、『私の大切な人』だからだよ」

「大切な・・・・・・、人」

岬はそう繰り返す。


これは、暗殺者である私が護衛対象の岬を、ただ守りぬくという物語だ。

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