第051話 害獣駆除

 天幕の中で作業がひと段落した頃。


「ちょっと様子を見に行ってきます」


 ルビィさんたちが気になった僕はやっぱり戦場へと向かうことにした。


「いてら」


 セルレさんが、ソファに深々と腰を下ろして僕に手を振る。


「セルレさんは心配じゃないんですか?」


 あまりにいつもと変わらない様子に気になって尋ねた。


 普通なら命の危険があるような場所に自分の知り合いが行ったら、心配になると思う。


「レイがいけば問題ない」

「……そうですか。後は頼みますね」


 僕が行ったところでどうにもならないと思うけど、それ以上聞いても本当のことは教えてくれなさそうなので、諦めて外に向かう。


「りょ」


 セルレさんは手をヒラヒラとさせて僕を送り出した。


「ちょっと、どこに行きますの!?」


 外に出ると、マリーさんが僕の肩を掴む。


「戦場ですけど……」

「持ち場を離れてはいけませんのよ? それを許してしまったら部隊の規律が乱れてしまいますわ!!」


 確かにマリーさんの言う通りだ。


 害獣駆除の時の上である婆ちゃんの命令は絶対。部隊に所属している以上、上の命令に従うのは変わらない。


 さて、どうしたものか。


「うむ。私が許可する。行ってこい、レイナ」


 悩んでいると、なぜかフィールナ隊長が話に割り込んできて許可をくれる。


「い、いいんですか!?」

「ああ。そわそわされていても仕事の邪魔だ」


 驚くマリーさんにフィールマ隊長は大きく頷いた。


「むしろいないと仕事にならないと思いますけど……」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も」

「そうか。ということで行っても問題ないぞ。心憂いをなくしてこい」

「分かりました。ありがとうございます」


 よく分からないけど、隊長とマリーさんの間で合意が成り立ったらしい。これで皆を探しに行ける。


 僕はフィールマ隊長に礼を言ってユキと共に戦場に向かった。



 戦場が見える場所に来てみると、皆が害獣と戯れている。


 こんなことをして遊んでいるなんて心配して損をした。


 これからモンスターと戦うって時に害獣と遊んでいるなんてしょうがない人たちだ。


「あ、あそこに学園長がいる。行ってみよう」


 学園長を見つけたので、魔力で包丁を作り、害獣を斬り飛ばしながらその場所に向かった。


「もう、モンスター戦う前に、害獣と戯れている場合じゃないんですよ?」


 学園長の所に辿り着くと、なぜか小芝居をして害獣と戯れていたので咎める。


 ちょっと激しく遊んでいたのか、学園長が血を流している。そこまで熱心に遊んであげなくてもいいのに……。


 犬や猫のように可愛い害獣もいるので、イカ害獣と戯れるのも分からなくもないんだけどね。


 僕は学園長を害獣の腕から解放する。


「ぐぎゃあああああっ!!」

「五月蠅いですよ?」

「へあっ?」


 魔力で作りだした包丁で腕を斬り飛ばしたら、物凄く大きな声で鳴いたので首も飛ばした。


「これを飲んでください」

「す、すまぬ……」


 僕は今だに演技を続ける学園長に呆れながらも、を飲ませて回復魔法を掛ける。


「おおっ!! これは美味いのう」


 そこで、ようやく演技を止めた学園長は嬉しそうにジュースを飲みだした。


「それじゃあ、ちょっと黙らせてくるので待っててくださいね」

「な!? 行くでない!! レイ!! あやつはまだ死んでなどおらぬぞ!!」


 学園長が遊び相手を獲られるのが嫌なのか喚いているけど、今はモンスターを倒す前の大事な時、大人しく貰わないといけない。


 僕は首を飛ばしたイカ害獣に近づいていく。


「近づくな!!」

「殺してやる!!」

「死ねぇええ!!」

「はいはい」


 遮るように害獣たちが僕に襲い掛かってくる。


 この人型の害獣たちは、なまじ人の言葉を話すので、うるさくてしょうがない。


 しかも美味しくなくて食材にならない。本当にただの害にしかならないので、見つけたらすぐに殺すしかない。


 婆ちゃんもこいつらは見つけたら瞬間、斬るキルって言ってた。


 悪・即・斬だ。


「アストラル流解体術、千枚おろし」


 僕は全員を薄くスライスした。


「なぁあああああああっ!?」


 学園長が後ろで何か叫んでいる。元気そうで何よりだ。


「ぐぬぅ」

「いったい何が……」

「斬られた……のか?」

「この理解できない攻撃……まさか……」


 でも、こいつらが厄介なのって再生することなんだよね。


 しょうがないので、僕は包丁をはたきに持ち替える。


 ここからは駆除だ。


「よっと」


 僕はいつもよりほんの少し力を込めてはたいた。


 ――シュワァアアアッ


 はたいた部分から害獣の体が消えていく。


「ぐわぁああああああっ!? な、なんだこれは!? 再生できない!!」

「ひぃいいいいっ!! た、助けてくれ!!」

「バ、バカな!? こんなことをできるやつは世界にただ一人のはず!!」

「もしかして魔女……魔女なのか!?」


 全員消える間際に何か話しているけど、害獣の言うことを気にしていたらキリがない。


「お、お前はあの魔女の血縁者なのか!?」

「何のことか分かりませんね」

「ぐわぁああああっ!?」


 イカ害獣の前に居た害獣たちは全て綺麗に浄化した。

 


 

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